2010年11月号
特集3  - 続 地域金融・新モデル
埼玉縣信用金庫
コーディネータとして企業を支援
顔写真

上田 和昌 Profile
(うえだ・かずまさ)

埼玉縣信用金庫
法人事業部内 コラボ産学官
埼玉支部 事務局長

地域金融機関と大学・行政機関・協力機関との情報交換の中から、産学の共同研究の成功例が誕生。さらに県技術士会とのパイプを生かした中小企業支援――。埼玉県からのレポートである。

バブル崩壊後の大不況が10年余り続き、ほとんどの中小企業は重症を負い、金融機関は不良債権処理に体力を削がれた。

平成14年、ようやく景気にも明るい兆しが見え始めたころ、金融庁は中小・地域金融機関に対し、「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」を取りまとめて示した。当金庫では前記アクションプログラムを実行するための1つの手段として、「コラボ産学官」への加入を検討し、平成18年3月27日、コラボ産学官埼玉支部が誕生した。

コラボ埼玉県支部活動を振り返って

支店長経験者の2名(内1名は筆者)が支部運営専担者に任命され、プログラムに従い動き始めた。まずは協力研究機関になっていただいた8大学を始め、埼玉県等の賛助団体の窓口に頻繁に足を運び顔と名前を売り込んだ。

また、並行して326の会員先への訪問にも力を入れた。会員先への訪問目的は預金や融資の勧誘ではなく、これまで携わったことのない産学官連携の説明であるため、自分の言葉で話せるまでにはかなりの時間を要した。

地に足が着かない状況のまま、あっという間に1年が過ぎ去り、初年度の活動内容は次の通りであった。

大学との情報交換(12大学、58回)
行政機関との情報交換(16機関、77回)
賛助団体・協力機関との情報交換(11機関、39回)
会員訪問(203社)
会員からの相談件数(36社、40件)
内大学への持込件数(15社、19件)、内大学外への持込件数(14社、14件)

上記案件の中、前事務局長が関与した会員C社の案件は、東京電機大学との共同研究で実を結ぶことになり、さらに2年後には経済産業省の「新連携」にも採択される快挙となる。C社のハットリング工法(地震による液状化現象でマンホールが浮上するのを防ぐ工法)は、やがて千葉県松戸市を始め多くの自治体で採用されることになる。

写真1

写真1 東洋大学で行われた産学交流セミナー

初年度早々に生まれたC社の成功事例は、われわれに大きな自信を与えてくれた。一方、会員先から上がる案件は何でも大学に持ち込んではみたが、大学からは対応できずとの回答が多く、大学に持ち込める案件か否かを判断する「目利き力」の必要性を痛感した。

「今や、大学の敷居は高くない!」ということを会員企業の方々に体感してもらい、同時にわれわれの目利き力を養うためにも、「産学交流セミナー」(写真1)の開催が有効であると判断し、早速、コラボ産学官の活動を支援いただいている坂本信義東洋大学教授に、開催協力を依頼した。

写真2

写真2 技術・課題相談会

東洋大学の産学連携取り組み方針を聴講の後、川越キャンパス工学部の研究施設を見学するプログラム内容であったが、100名を超す参加者にはもちろんのこと、われわれにとっても大変有意義なイベントになった。

また、埼玉県技術士会の方々とのパイプができたことから、技術士に会員企業が抱えるさまざまな課題相談に応えてもらう「技術・課題相談会」(写真2)を企画し、手始めに中小製造業の取引先が集中する八潮地区で第1回目となる相談会を開催した。

表1 4年間の支部活動実績

・支部受付相談件数(293件)
・コラボファンド投資決定(1件)
・共同研究(9件)
・委託研究(2件)
・奨学寄附金研究(6件)
・委託試験(3件)
・新連携(1件)
・ビジネスマッチング(10件)
・その他(23件)
・会員数(630社)
・支部主催産学交流セミナー(19回)
・参加人員(約1,800名)
・支部主催技術・課題相談会(12回)
・参加企業(162社)

2年目以降は、この2つのイベントを支部事業の柱に据え、年度によって「海外ビジネスセミナー」「事業承継セミナー」などを付加するとともに、県や国が主催する各種セミナー情報の提供にも力を入れてきた。4年間の活動実績は表1の通りである。

4年間で会員数が倍増していることをかんがみれば、この程度の実績ではとても十分とは言い難い。「共同研究の実績を挙げるのに最も重要なものは、会員企業と大学の間を取り持つわれわれの『情熱と熱意』だ!」が、前事務局長の口癖であった。今年度より支部スタッフ3名の名刺には、おくすることなく「コーディネータ」の文言を刷り込んだ。それはわれわれの小さな自信の現れであり、情熱と熱意を持ち続け仕事に当たる決意表明でもある。

信金の特色である“足”と、この“名刺”をフル活用し、引き続き産学官連携を通じた中小企業支援活動に全力で当たる考えである。