2010年12月号
特集1  - 知りたい四国
地域情報の核は地域の“官”にあり
高知県土佐市の“官学産”連携
顔写真

佐藤 暢 Profile
(さとう・まさと)

独立行政法人 科学技術振興機構
JSTイノベーションサテライト高知事務局長/
中小企業診断士

本稿では、科学技術を活用した地域活性化を目指す高知県土佐市を取り上げ、学校教育を含む地域での“官学産”連携の具体的事例を紹介するとともに、“官”(=地方自治体)が持つ地域情報を核とした地域活性化モデルについて述べる。

高知県土佐市の地場産業――施設園芸、清流仁淀川、土佐和紙

高知県のほぼ中央に位置する土佐市は、人口約3万人の小規模地方都市である。基幹産業は農業であり、平野部ではメロン、スイカ、ピーマン、キュウリ、シシトウなどの施設園芸が盛んである。特に、高石地区のオリエンタル系ユリ「カサブランカ」や北原地区の「ソリダスター」栽培は全国有数の生産量を誇る。中山間地域では、「土佐ブンタン」「小夏」などのかんきつ類と露地ショウガの複合経営が主流である。

一方、工業では日本有数の清流河川「仁淀川」の水を使った製紙産業が古くより盛んであり、山間地で生産されるコウゾ、ミツマタを使った和紙づくりが盛んに行われていた。手すき和紙の技術は、現在では機械すきに応用され、かつての障子紙製造に加え、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、京花紙などと多様に変遷し、科学技術を取り入れた不織布生産も増えている。

理科・知財・科学で地域活性化を目指す

現在の土佐市長である板原啓文氏は、地域資源の活用による地域再生施策の一環として、青果の栽培やジュースを製造販売する市内企業の2つ目の工場誘致を進めた。そして、次のような産学官連携を市の主導で行ってきた*1

上記の企業と県内大学研究者の研究連携協定締結
市民を対象とした健康食品の臨床試験について県内企業、大学、市の共同研究契約締結

また、土佐市では地域振興の一端として、理科教育や知財教育による市民の意識向上に向けた「知的財産事業」を2008年度より展開してきた。同年度には市内小学校高学年を対象とした「知的財産出前授業」を日本弁理士会との連携のもとで開催したほか、全国的にも著名な実験指導者を招いて一般市民向けの「空想科学実験ショー」などを開催した。

2009年度からは、学校の部活動の一環である「科学実験部」を、土佐市として初めて高岡中学校に立ち上げた。同じく2009年度には、国際化学オリンピック*2のプレイベントとして全国を巡回する化学実験カーを呼び、県外の大学・高校教員による中学校生徒向けの実験教室や、小中学校教員を対象とした研修会を開催した*3。2010年度には地元中学校生徒を対象として、地元の大学や公設試験研究機関の研究者による「出前授業」を開催する予定である。これらの企画立案にJSTイノベーションサテライト高知が協力している。

ワンコインで科学を語る
-イブニングレクチャー&チャットin土佐-
図1

図1 「ワンコインで科学を語る-イブニングレク
    チャー&チャットin土佐-」の様子*4

こうした科学・技術による産業面・教育面での地域活性化の延長として、同市はJSTイノベーションサテライト高知と連携し、科学・技術のみならず教育一般についてフランクな雰囲気の中で語り合う「ワンコインで科学を語る-イブニングレクチャー&チャットin土佐-」と称する地域密着型の産学官交流会を2009年10月に企画・開催した。以来、2010年11月19日までに計4回開催した(図1)。

“官”が核となった地域連携:“官学産”連携モデル

ここで紹介した土佐市での事例は、地方自治体である“官”が中心となり、その“官”が持つ地域情報が核となった地域連携、すなわち“官産学”の連携がポイントとなる。このことは、図2に示すように、地域資源のみならず地域の人たちのネットワークを“官”(=地方自治体)が核として活用された地域活性化モデルと言える。産業技術のみならず科学・技術をより効果的に地域振興につなげるためには、地方自治体が中心となった「場」の創出と活用に向けた戦略的展開が有効と考えられ、この考え方は一般性を持つものと思われる。

図2

図2 “官学産”連携による地域活性化のモデル図*5

*1
一例として、プレス発表:有限会社池一菜果園、土佐市、高知女子大学地域創成センターとの研究協定締結(2009年8月4日)。

*2
第42回大会が2010年7月19日(月)~28日(水)の日程で東京で開催された。詳細は国際化学オリンピック・ウェブサイト(http://icho.csj.jp/)および(http://www.icho2010.org/ja/home.
html
)を参照。

*3
これらの活動については「子どもの創造力伸ばせ」(2009年7月30日、高知新聞)で詳しく紹介されている。

*4
JSTイノベーションサテライト高知 イベントレポート。ほか、報道記事としては「科学で産業活性化を」(2009年10月23日)、「科学で創造力育成を」(2010年2月4日)、「失敗から起き上がれ」(同8月5日、いずれも高知新聞)。

*5
科学技術を軸とした地域活性化モデル ~高知県の事例から見た地域に役立つ科学技術とは~.ビジネスモデル学会創立10周年記念出版「ビジネスモデル論 論考集」.2010.原図:地方都市からの“官学産”連携の湧出-土佐市との連携取り組み.産学連携学会第8回大会予稿集.2010.