2010年12月号
特集2  - 第2回イノベーションコーディネータ表彰
イノベーションコーディネータ大賞・文部科学大臣賞
鈴木康之氏
「イノベーション黒衣」を超える
顔写真

鈴木 康之 Profile
(すずき・やすゆき)

独立行政法人科学技術振興機構
JSTイノベーションサテライト静岡
科学技術コーディネータ

●受賞理由
「企業+研究者+コーディネータ」の三者面談や技術の棚卸しなどユニークな活動を中部圏各地域で展開。地域の特徴を生かしつつ『地域のあるべき姿』を描いた受賞者の情熱と行動力は他のコーディネータのモデルとなる。

よく「コーディネータは黒衣*1である」と例えられる。これを「決して表舞台には出ず、陰で仲介役をする」という、「縁の下の力持ち的」と解釈している人は多いのではないだろうか。実は最初私もそうだった。その後、黒衣の真の意味を知り、その奥深さに感動し、なるほど「われわれの仕事」をまさしく言い得ていると、見直した。

私たちは産学官連携の「イノベーション黒衣」である。タイミングを見計らって音も無く舞台に登場し、ある時は後ろから道具を手渡したり衣装の引き抜きに熟練の技を披露したり、ある時は台本を持って後ろから台詞付けを行ったり、さらにある時は背景の総入れ替えをすることも必要であろう。歌舞伎黒衣の、介添え役たる「後見人」・フロアディレクター的な「狂言役者」・舞台転換の際に活躍する「大道具方」といった役どころと同様。場合によっては、文楽のように黒衣がすべてを操ることもあっても良い。

産学官連携のメインキャストは、研究機関や企業で研究開発にあたっている研究者である。プロジェクト中に彼らだけでは対応できない部分が少なからず存在するとなったときに、それを修正補完するのが私たちの仕事である。その局面は意外に多い。そのためには、自分自身が専門性の幅と奥行きを広げ、広い視野と先見性を持ち、すべての当事者と十分な対話をして情報を共有させることが肝要である。

求められる組織の総合力

産学連携を取り巻く環境は、今、大きく変化を始めた。今まで以上に成果を求められる。黒衣の役割もますます重要になっていき、個人の匠(たくみ)の技に加え組織ぐるみの総合力が求められている。産学官連携のポテンシャルを最大限発揮するとなると、従来型「イノベーション黒衣」を超越凌駕(りょうが)し、プロジェクトそのものを総合プロデュースする舞台監督的役割を果たす「黒衣」も必要になってくる。「黒衣がいなかったら役者は輝けない」、黒衣が研究者に代わって主役になる時代が近づいている。

そんな中だからこそ、みんなが「イノベーション黒衣」の殻からはみ出し、一致団結してこの仕事をしたら、この国はすごいことになるだろうなと、ひそかに連想している。精進を重ねたい。

*1
一般的に「黒子」と表記される。黒衣は、「くろご」と濁って発音するのが正しい。