2010年12月号
単発記事
検査機器の遠隔画像診断を産学連携の新システムで
顔写真

中山 善晴 Profile
(なかやま・よしはる)

株式会社ワイズ・リーディング代表取締役
(放射線診断専門医、医学博士)


日本は、CT、MRIなど大型画像検査装置の普及率が世界一。画像診断(読影)を行うのは放射線診断専門医(読影医)だが、ここでも医師不足が深刻になっている。読影医のいない医療機関に、遠隔読影サービスを行う事業者がでてきているが、熊本市のベンチャー企業ワイズ・リーディングは、大学、ほかの企業と連携した新しいシステムで、地域密着型のサービスを目指している。

三大疾患をはじめとしたさまざまな病気は、早く見つけ、正しく診断し、適切な治療を行うことが大切である。多くの病気は、CT、MRI、核医学検査などの大型画像検査装置を使って診断される。日本はこれらの機器の普及率は世界一であり、世界に類を見ない画像検査大国である。医療の現場でそれらの画像診断(読影)を行うには、画像検査に精通した画像診断専門医が必要で、現在、放射線診断専門医(読影医)が画像診断の重責を担っている。

しかし、画像診断の分野でも医師不足は年々深刻になっていて、読影医がいない地域中核病院も少なくない。わが国の恵まれた画像検査環境を、十分に生かし切れていない。こうした中、大企業の出資をもとに、遠隔地にいる読影医がインターネットを介して読影するサービスが始まった(遠隔読影)。読影医がいない医療機関にも読影医の診断結果が届くようになり、遠隔読影を利用する施設は年々、増えている。

顔の見えるサービス目指し新会社

私は画像診断の専門医師として、熊本の地域医療に携わってきたが、地域医療の質の格差を痛感するにようになった。遠隔読影は読影医がいない施設にとって、確かに有効な選択肢だが、大手企業が展開する遠隔読影サービスにはさまざまな問題点があるのも事実。読影医のスキルのばらつき、依頼する医療機関側と読影医側のコミュニケーション不足、さらに相手の顔が見えないのでレポートが雑になるなどだ。

図1

図1 顔の見える遠隔読影

私は「顔の見える遠隔読影」(図1)が必要との思いから、平成19年7月、地域密着型読影サービスを提供する会社(株式会社ワイズ・リーディング、本社:熊本市)を設立した。資金に余裕がなかったので、小さな投資でも経営できる会社を目指した。

創業当初、契約施設のサーバーと当社の読影端末をVPN(仮想プライベートネットワーク)*1で直接結んで遠隔読影を行っていた。しかし、契約施設が増えると1人では背負いきれなくなり、読影協力医師を確保する必要に迫られた。しかし、ほそぼそとした経営状況では複数の読影医が読影できる環境づくりは困難だった。

大企業が提供するインフラを利用すればリスクは軽減されるが、それでは単なる下請けになる。第三者に出資してもらえば資金は潤沢となるが、経営に口出しされると自分の思う経営ができない。いずれにしても、自立していなければ、私たち放射線科専門医が望む読影システム、地域医療が求めるネットワークをつくり続けていくことはできない。「何とかならないか」、自問を繰り返していた。

読影結果を2重チェック

解決の糸口は産学連携だった。熊本大学は、県下唯一の医学部を有する大学であり、私の出身大学である。当時、熊本大学放射線科教室は熊本県の画像診断を担う責務から、読影医がいない施設にも画像診断を提供したいとの思いで遠隔読影事業を模索していたが、診療以外に事業を運営することは大きな負担だった。

富士フイルムメディカル株式会社は、画像保存通信システムの分野で業績を伸ばしていた。富士フイルムメディカルは巨大資本であり、ネットワーク構築、保守、開発力はあるが、遠隔読影システム自体は当時、持たなかった。私は、熊本大学放射線科教室、富士フイルムメディカルと当社の三者が連携することで、地域密着型遠隔画像診断事業が展開できると考えた。

当社は事業体の運営を担い、事業運営で培った遠隔読影ノウハウを富士フイルムメディカルの製品開発に提供できる。熊大放射線科教室は人的資源を提供することで、わずらわしい事業運営から解放され、読影業務に専念できる。富士フイルムメディカルはネットワークの構築、保守、製品開発を担当することで、新しい遠隔読影システムの製品を開発することができる。三者それぞれに、メリットのある形を取ることができ、Win-Win-Winの関係を築き上げることができた。

図2

図2 ネットワークの流れ

遠隔読影システムの開発には、多くの時間と労力を要した。何度も打ち合わせ、検証作業を行い、約1年間の開発期間の後、ようやく完成した。各読影医の専門性を考慮しながら画像を振り分ける機能、読影医の読影結果を2重チェックして見落としや誤診を軽減する機能、依頼者と読影医とのコミュニケーションができる機能、遠隔読影業務を効率化する機能などを盛り込んだ、独自の遠隔読影システムである(図2)。このような機能を競合他社は持ち合わせていないので、他社との差別化にもつながり、熊本を中心とした遠隔読影ネットワークは確実に広がりを見せるようになった。

平成22年10月現在、22の依頼施設、16名の読影医がネットワークに参加している。このような試みは、画像の分野だけでなく、医療の分野全体に応用することが可能と思う。遠隔医療が発展することは、深刻化する医師不足に対して、解決の糸口を与えるものと信じている。

*1
専用通信回線の代わりに多数の加入者で帯域共用する通信網を利用し、LAN間などを接続する技術・サービス。