2011年1月号
特集  - 大学特許の活用戦略
大学の知的財産管理組織は今後どうなるのか?
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伊藤 正実 Profile
(いとう・まさみ)

群馬大学 共同研究イノベーションセンター
教授、知的財産戦略室長/
特定非営利活動法人 産学連携学会 会長

知的財産推進計画2010は、「産学官共創力を世界最高水準に引き上げる」方策の1つとして、既存の大学知財本部・TLOの再編(ネットワーク化、広域化、専門化)を提言している。複数の特許でポートフォリオを構築することを念頭に置いているが、国立大学法人が他大学の知的財産を取り扱うことには、ある種の法的制約がある。

2010年5月21日に知的財産戦略本部が策定した知的財産推進計画2010では、「産学官共創力を世界最高水準に引き上げる」ことがうたわれ、そのために「大学の産学連携力を向上させる」ことが必要であるとし、具体的な取り組みとして、「既存の大学知財本部・TLOの再編・強化」を行うとしている。これは、「産学双方にとって有効な産学連携を促進する観点から、知的財産活動に関する指標を含め産学連携機能の評価の在り方を見直しつつ、既存の大学知財本部・TLOの再編(ネットワーク化、広域化、専門化)、知的財産マネジメント人材の質的強化により産学連携機能を強化する」(同計画から抜粋)ことを意図している。

活用の在り方を見直し

国立大学の法人化前から、大学とは独立した法人格を持つ技術移転組織であるTLOの在り方として、広域で複数の大学に所属する多数の理工系の研究者と関連を持てば、多数の研究シーズを確保して技術移転活動を行えることになり、経営上のリスクを軽減させることができるのではないかという議論がなされていた。これにより、幾つかの地域でいわゆる「広域型TLO」が設立されている。

その一方で、国立大学のほとんどは平成16年の法人化後、大学研究者の発明の権利を原則として機関帰属にすることを決定し、これを担う組織として、各大学で知的財産本部などと称する部署を設置した。これにより、大学外TLOと各大学の知財部署がそれぞれ技術移転活動にかかわることになり、その二重性が問題になった。こうしたことが、大学外のTLOを大学内部に吸収合併する等の動きにつながり、広域化されたTLOの活動の在り方の議論は立ち消えになっていった。

実際、平成16年度より前に文部科学省・経済産業省両省に承認された広域型の外部TLOは18あったのに対して、平成16年度以降に承認された広域型TLOは3つであり、特に平成17~21年度の間は、これに関する国の承認は皆無である。

しかしながら一部の大規模大学を除いて、こうした大学の知的財産の管理と活用を担うことに対して、ヒト、モノ、カネを潤沢にリソースできる大学は決して多くはなく、多くの大学では、必ずしも万全の態勢で知財に関連した業務が実態としてなされている訳ではない。その一方で、大学における知的財産活動に対して費用対効果の効率をどう上げるか、さらには、その“効果”をどうとらえていくかという問題も含めて、かなりの割合の大学で研究成果の財産権としての管理と、活用の在り方の見直しがなされている状況と言っても過言ではないであろう。

複数特許でポートフォリオを構築

以上のことから、大学の基本特許ひとつで企業への移転を目指すより、複数の特許でポートフォリオを構築して、これを持って技術移転活動を進めるほうが実績が上がるのではないかという考え方も生じているなか、前述の大学知財本部・TLOの再編(ネットワーク化、広域化)に関する政策提言は、時宜を得た事であると思われる。しかしながら、広域で大学知的財産を取り扱う上で、国立大学法人にはある種の法的制約がある。国立大学法人法第22条では、以下のように国立大学法人の業務内容を規定している。

第22条 国立大学法人は、次の業務を行う。
1 国立大学を設置し、これを運営すること。
2 学生に対し、修学、進路選択及び心身の健康等に関する相談その他の援助を行うこと。
3 当該国立大学法人以外の者から委託を受け、又はこれと共同して行う研究の実施その他の当該国立大学法人以外の者との連携による教育研究活動を行うこと。
4 公開講座の開設その他の学生以外の者に対する学習の機会を提供すること。
5 当該国立大学における研究の成果を普及し、及びその活用を促進すること。
6 当該国立大学における技術に関する研究の成果の活用を促進する事業であって政令で定めるものを実施する者に出資すること。
7 前各号の業務に附帯する業務を行うこと。

第5項に示されるように、国立大学法人の研究成果の普及は、当該国立大学法人の成果に限定され、国立大学法人が他大学の研究成果を取り扱ってその普及を行うことは条文での記述がない。従って、国立大学法人を含む複数の大学の知的財産を、ひとつの組織で管理・活用を意図しようと思えば、大学外に設置されている広域TLOのような当該国立大学法人以外の組織にこれを委ねる必要が出てくる。しかしながら、国立大学が法人化される前と異なり、かなりの割合の大学が当該大学の研究者の発明の機関帰属をうたい、そのための知財管理部署を設置していることから、今後、新たに広域型のTLOを大学の外に設置する上で、そのハードルは高くなってしまっていると見るのが妥当であろう。いずれにしても、大学の知的財産に関連した活動は、新たな方法論やシステムを模索しつつある段階にきたと言える。