2011年1月号
連載1  - 成熟化社会における超産業戦略
(前編)
1次、2次、3次産業の総合化、融合
顔写真

板倉 宏昭 Profile
(いたくら・ひろあき)

香川大学大学院 地域マネジメント研究科
教授、副研究科長


超産業とは、素材供給から、加工、サービス提供まで行うビジネスモデルである。1次、2次、3次産業の総合化、融合である。「地域コミットメント」「地域プロデューサー」「外部力(ヨソモノ)」が重要である。

はじめに

わが国は、世界最先端の成熟化社会に突入している。また、成熟化は、地方圏で先行している。本稿は、特に地方圏に有効な地域力創出モデルとして、内部力(ジモティ)と外部力(ヨソモノ)の新結合による超産業戦略を示したい。

成熟化社会における地域力創出のためには、新たな産業観が必要である。農林水産省の2010年の農林業センサス(速報値)によると、日本の2010年の農業就業人口は2005年より75万人減少し、260万人になった。5年間の減少率は22.4%である。また、過去1年以上作付けがなく、今後も数年は耕作する見通しのない耕作放棄地が5年前より2.6%増加し、香川県の2倍以上の40万ヘクタールに達した。農業の就業人口の平均年齢は65.8歳と5年間で2.6歳上昇した。地方圏は、さらに高齢化している。平均年齢が最も高い広島県は、70.5歳であり、山口県や島根県も70歳を超えている。

こうした状況では、新たな耕作地を開拓することより、既存の耕作放棄地をまとめて、後継者に引き継ぐことが有効である。引退する農家などが農地をほかの農業法人等に貸与する傾向がある。2010年の農林業センサス(速報値)によると、法人を含む経営体数で見た場合、経営規模が5ヘクタール未満は減少し、5ヘクタール以上は増加した。経営体の平均経営面積は5年前より0.3ヘクタール拡大し、2.2ヘクタールとなった。また、農業経営の多角化がみられ、農産物加工に取り組む農業経営体が4割以上増えて、3万4,000となり大幅に増加した。

超産業化の概念

超産業化とは、素材を生かしながら加工・製造によって付加価値を高め、サービスを提供する産業を超えたビジネスモデルである。農業で言えば、素材である農産物の栽培だけでなく、農産物を加工・製造し、食品として付加価値を高め、さらに、レストラン、農業体験、観光などのサービス業を行うことである。6次産業化、あるいは農業の総合産業化といった概念に近いが、超産業は2次産業から1次産業や3次産業、あるいは3次産業から1次産業や2次産業への融合も含まれる。

スマイルカーブで示されるように、コモディティ化している製品・サービスの場合、加工・製造段階で付加価値を得ることは難しくなってきている。アーキテクチャーが共通化され、オープン化・モジュール化すると、加工・製造プロセスは、安い労働コストの国や地域で行うことになる。従って、労働コストが高い日本で十分な利益を得て、競争優位性を獲得することは難しい。素材といった上流のプロセス、あるいは、下流のサービスのプロセスでの企業戦略が求められている。

なお、超産業戦略は地方ビジネスに限らない。グローバルなビジネスに当てはまる。加工・製造(第2次産業)からのサービス(第3次産業)への超産業化の例としては、アップル社が挙げられる。ハードウエアのiPod(アイポッド)と音楽配信サービスiTune(アイチューン)を結合している。

第3次産業からの超産業化の例としては、ワタミが挙げられる。ワタミは、農業へ進出し、農業生産法人有限会社ワタミファームを通じて、7つの直営農場を経営している。ワタミは、有機JASチーズやバター、バニラやチョコレートのソフトクリームミックスなど、食品を加工・製造している。また、ワタミは、介護ビジネスなど異なる3次産業にも進出している。外食事業のノウハウを生かして、おいしく、安全で食べやすい介護食の提供を通じて満足度を高めている。

第2次産業から第1次産業への超産業化として、植物工場が挙げられる。鉄鋼大手のJFEスチールがJFEライフとして参入したほか、オリンパス、カゴメ、キユーピーなどが参入している。これらは、三菱化学が工場内の遊休地を活用したことが元になっている。成熟化したわが国では、余剰設備や遊休地を利用するための戦略が必要である。

超産業化戦略の要素

それでは、超産業化のための戦略の要素とは何であろうか。

第1に、「地域コミットメント」である。これは私がネーミングしたものであるが、人々と地域の関係性を示すものであり、地域愛、地域を自分のこととして内在化させること、功利的に関与すること、地域への使命感の4つの要素からなっている。

地域コミットメントの延長線として「ゾーニング」という概念を挙げたい。特定のビジネス上でまとまった空間を設定するということであるが、必ずしも行政区画と一致する必要はない。むしろ広めすぎない方がいい。例えば1つの県単位で何かを売り込もうとすると、「この商品とあの商品の売り込みを平等に扱わなければならない」といったジレンマも起きる。国単位、県単位ではなく、もっと小さい単位だからこそ、より効果が生まれることもある。地方ビジネスにおいては、地域コミットメントを通じた顔の見える関係が重要な働きを示す。

第2に、地域の担い手を地域プロデューサーと呼んでいる。地域の担い手は、地域内部の狭義の先導型リーダーシップの要素だけではなく、異なる複数の要素が必要であり、担い手も外部力(ヨソモノ)とのネットワークが大きな役割を演じていることが多いからである。

第3に、外部力(ヨソモノ)である。地域外の専門家、文化人、企業などによる課題発見力、需要動向の把握力、企画・デザイン力、販路開拓力が挙げられる。地域内だけでは人材も資金も不足していることが多い。いかに外部力(ヨソモノ)を取り込むかが課題である。

なお、成果(パフォーマンス)の考え方は、経済的指標だけで十分であろうか。そうではないだろう。もはや、高齢化、人口減少、コモディティ化した製品サービスの加工・製造プロセスは、海外移転を前提としなければならない。図1右側の成果(パフォーマンス)の指標は、経済的指標だけではなく、例えば、その地域を訪問したいかという「訪問魅力度」、地域の製品・サービスを購入したいかという「購入魅力度」、その地域に居住したいかという「居住魅力度」等で測ることが有効であろう。

図1

図1 超産業戦略

以上のように、地域コミットメントが基盤となり、地域プロデューサーが内部力(ジモティ)と外部力(ヨソモノ)の新結合を図り、素材を生かして、加工・製造や付加価値の高いサービスと組み合わせて超産業化する戦略が、超産業戦略である。そして、地域プロデューサーを育成するのが学の役目となる。