2011年3月号
連載  - 大学の社会貢献・産学官連携 三重モデル
第1回
地域立脚型中小企業の成長を支援する
顔写真

西村 訓弘 Profile
(にしむら・のりひろ)

三重大学大学院 医学系研究科
教授、社会連携研究担当・学長補佐


地域大学の中で、産学官連携の自立的な取り組みで実績を挙げているのが三重大学である。大学の予算で内部の体制を整備し、一歩一歩活動を積み重ねる中で、産学官連携の目的と大学の立ち位置が明確になった。「大学知的財産本部整備事業」に採択されなかったことが、自らの視点を明確にし、足腰を強め、多くの地域企業との共同研究などにつながった。

三重県は、紀伊半島の東側に位置する南北に細長い県で、北中部地域は中京工業地帯に属する工業地域、南部地域は豊かな自然と伊勢神宮、熊野古道などの観光資源を活用した農林水産業と観光業が中心の地域で構成される、人口が約186万人(47都道府県中22番目)のごく普通の県である。

三重大学は、学生数が7,400人、教員数が750人の中堅規模の総合大学として三重県内の唯一の国立大学として存在している。本稿から開始する連載では、三重大学が三重地域で推進している産学官連携の取り組みについて紹介を行う。

産学官連携は協働する目的の共有から

三重大学の事例を紹介する前に、産学官連携活動の在り方について、著者の考え方を提示したい。本来、企業、大学、行政は、目的が異なる存在であり、そもそも同じ方向を向いて活動を行っているわけではない。ただ、違う方向を向いていた企業、大学、行政が、目標・課題を共有化し、その達成・解決に向けて協働することが必要となったとき(目標・課題の共有化)、初めて連携関係が生まれる。また、その連携関係は、企業、大学、行政の背景にある状況・条件(=立ち位置)が共有できる場合に、より強い推進力が生まれる(背景の共有化)。例えば、 燃料電池など先端領域での国際競争力の獲得を、先端研究を行う大学・グローバル展開する日本企業・経済産業省が取り組む(国策の共有)場合や、地域の活性化を同じ地域内で課題を共有している三重大学・三重県・県内企業が取り組む(地勢的背景の共有)場合などに、企業、大学、行政が協働する目的が鮮明となるため、産学官連携が有効に機能する(図1)。

図1

図1 産学官連携の在り方について

また産学官連携には、対峙(たいじ)する目標・課題によって最適の形態があり、「国際競争力獲得のための連携」と「地域活性化のための連携」では、必要な体制・戦略・予算規模は異なり、それぞれに最適な方法を構築し、取り組むべきである。すなわち、産学官連携の最適スキームは千差万別であり、産学官連携を成功させるには、参加する当事者に合わせて最適な形を作ることから取り組むべきであると著者は考えている。

活動を積み重ね、目的と立ち位置が明確に

三重大学が産学官連携に本格的に取り組み始めたのは法人化後であるが、当初は近隣の東海地域の大学の中でも活動は遅れていた。最大の原因は、平成15年度から開始された「大学知的財産本部整備事業」に落選したことである。ただ、この落選が結果的にその後の三重大学における産学官連携への取り組みを強くしたのかもしれない。平成16年の法人化後、研究担当理事を責任者とする「知的財産統括室」を設置し、本学予算で専任教員1名と事務職員を配置することで体制整備を進めた。また並行して、企業との共同研究の組み上げを担当する組織として「創造開発研究センター」を設置し、こちらにも本学教員枠を1名割き産学官連携を担当する専任教員として活動させるとともに、産学連携コーディネーターを間接経費で採用するなど身の丈に合った産学連携体制を地道に積み上げてきた。また、人員体制が脆弱(ぜいじゃく)であったこともあり、三重県との連携関係(県からの人員の受け入れと県内企業との産学連携活動への補助金制度の設定などで協力を得た)、ならびに株式会社三重ティーエルオーの協力を得ながら地域企業との連携関係(小さい額でも共同研究を受けること)を構築してきた。その積み重ねが、平成19年度に行われた文部科学省調査において「中小企業との共同研究数が国内大学ではトップクラス」という実績につながったと考えている。

「産学官での連携を成功させるには最適な形を作ること」と前述したが、三重大学における産学官連携活動は、法人化後、時間をかけて一歩一歩積み重ねてきた結果、大風呂敷を広げるのではなく、身の丈に合った活動、すなわち、「地域と共に成長すること」が最適であることに自然と落ち着いたように思う。産学官連携の目的と立ち位置が明確となってからは、三重大学における産学官連携の活動は一気に加速したように思う。最大のターニング・ポイントは「産学官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム)特色ある優れた産学官連携活動の推進」に採択された平成20年度であり、この時点で、「地域立脚型中小企業の成長を支援することで地域社会の発展に貢献する」ことを三重大学における「産学官連携に対する基本的な考え方」として明確化した。

大学院地域イノベーション学研究科で実践

以降、それを実践するための体制整備を戦略的に推進し、その中心的な出来事が、地域産業界との連携による研究と教育に特化した大学院として「地域イノベーション学研究科」を平成21年に立ち上げたことである。現在、地域イノベーション学研究科には10名程度の企業経営者が大学院生として入学しており、地域内での産学連携による取り組みを大学内に持ち込み実践するまでになっている。


三重大学は平凡な県の普通の地方大学であり、特別な予算支援を受ける機会に恵まれてきたわけではない。このため華やかな産学官連携のモデルからは程遠いと感じている。しかしながら、地に足の着いた産学官連携を地域行政・産業界との間で実践できてきているという実感を持っている。本連載では、三重大学が推進している地味な取り組みを人間くさく紹介できればと思っている。