2011年3月号
特集1  - 経営者に応えるコーディネート術
「何かしたい」という企業の意欲を形にする
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雨森 千恵子 Profile
(あめのもり・ちえこ)

財団法人神奈川科学技術アカデミー
イノベーションセンター
産学協働グループ 主査

産学官連携コーディネータの役割というと、大学の技術(シーズ)を起点にして、その技術を移転する企業を探す方法が一般的とされるが、「何か新しいことに挑戦したい」という企業の意欲を形にしていくのもコーディネータの仕事ではないか。いまひとつのコーディネータ像を検討する。

規模の大小を問わず企業の方々から「何か新しいことをしたい」という声をよく聞く。そのしたい“何か”は、現在の事業範囲から半歩だけ踏み出した新規事業という意味の場合もあれば、製造ラインから出る廃棄物を活用したいという場合もある。時に、希望のレベルがもう少しかみ砕かれて技術的な課題(例えば「廃棄物の中の特定物を分離分別する方法はないか」)を持っている経営者もいるだろう。

テーマが絞られ、必要な技術など課題がはっきりしてくれば企業は動き出すが、ほとんどの中小企業はそこまで到達しておらず、切実だけれども「何かしたい」という“希望”にとどまっている。

他方、大学の産学連携担当部署において、こんな話を聞いたことがないだろうか。

「今日相談に来た企業、あれじゃあどの先生も紹介できない、ニーズが明確じゃないんだから。何がしたいのかはっきりさせてから来てくださいと言ってお帰り願ったよ。」

大学で産学官連携を担うコーディネータは、企業から「これこれの新規技術(特許)はないか」と相談されれば対応できるが、何か新しいことに挑戦したいという経営相談には乗れないということだろう。

コーディネータの1機能

しかし、前述のような、「具体的には言えないが、何かしたい」という要望に応えるのも、コーディネータの機能の1つである。ただし、考慮すべき点がある。以下の3点である。

1. もはや産学連携=ニーズとシーズのマッチングではない

大学の知財本部整備が進められていた当時は、大学等のシーズと企業のニーズをマッチングさせる技術移転がしきりに叫ばれたが、最近の産学連携の潮流は、多様なニーズとシーズを巻き込んだコンソーシアム(共同体)をつくり、共通成果と参加者個々の利をバランスしていこうというものである。

コンソーシアムでは、まず、どの企業に声を掛けるかが大きな問題だが、候補企業が挙がると、次にその企業が抱えていると推測されるニーズを充足させることを条件に、コンソーシアムの一定の役割を分担してもらいたいという交渉をすることになる。言い換えれば、ある程度上位概念的なニーズを引き出して、コンソーシアムのテーマと結び付けて具体的な成果(下位概念的ニーズの充足)の見通しを示すことが求められると言える。

コンソーシアムに企業ニーズを上手に組み込んで成功した事例を示すことは難しいが、共同体を構成する段階において、「何かしたい」企業を取り込むことは非常に重要である。

2. 立場により、企業とのかかわり方が異なる

企業の潜在的なニーズをかみ砕いて顕在化させるのをどこの誰がやるかというのは一概に語れない問題である。例えば、共同研究や実施許諾に関するノルマを課されたコーディネータには、そこに割ける時間は限られているが、地域と共生する大学づくりをミッションとするコーディネータにとっては、企業のニーズについて共に考えることは大事な仕事になろう。

ほかにも、産業が集積している地域と、企業が少なく産業の基盤が弱い地域とでは、企業のニーズの掘り起こし方は当然、違ってくるだろう。

3. 大学側が扇動することの危惧(きぐ)

大学のコーディネータは、内部の研究者の技術を活用してくれる企業を見つけだして、ライセンシング等に結び付けるのを目的として活動しているが、一生懸命のあまり、大学のコーディネータ・研究者が旗振り役になってしまい、企業が責任を持って判断しながら進めるべき産学連携活動が、企業の思惑と乖離(かいり)したまま進んでしまうことがある。

開発テーマにブレイクダウン

「何かしたい」という企業の経営課題を、コーディネータや各種機関が上手に具体的な技術ニーズへと転化させ、それが契機となって産学官連携へと発展する事例はある。言い換えると、「ニーズがはっきりしない」企業を産学連携のプレーヤーとして参画してもらうケースである。そうして始めた新しい事業(製品)が、業容拡大の原動力となっているケースも少なくない。2つ紹介したい。

1つは、非常にきめ細かいコーディネートに定評のある川崎市産業振興財団の支援事例である。「コスト勝負のアジア勢に打ち勝つため、自社技術に何か加えて将来に発展させたい」と考えていた順送プレス加工の株式会社JKBが、富士通からレーザー溶接加工技術(特許)を導入した。中小企業が、コーディネータや大手企業と交流する中で、勝ち残りのために自社が必要とする技術ニーズを明確に意識し、最終的に開発テーマまでブレイクダウンすることができたものである。

もう1つは、古くから総合大学としての利点を武器に多くの技術移転実績を上げられている日本大学の事例である。このケースは、まず企業から「廃タイヤを使って何かしたい」という相談があった。これに対し、大学の研究者らがいろいろと検討し、新たな活用方法を提案をするなかで「ボラード(車止め)」に絞り、事業化された。具体的な提案をした大学教授の事業センスの良さと、迅速に知財化した知財センタースタッフ、そして出来上がった商品を採用し実績づくりに貢献した大学購買部門のチームワークが特徴である。提案したシーズがデザインであることも面白い*1

6支援機関と12大学参加の協議会

企業のニーズを明確な形に整理し、大学等の先端的な技術導入などに結び付けていく「仕組み」もさまざまある。多様な産学連携関係者が、企業ニーズをもんで新しい技術に結び付けていく試みを紹介したい。

それは、かながわ産学公連携推進協議会(略称:CUP-K=カップケー)である。私の所属機関である財団法人神奈川科学技術アカデミー(KAST)も参画をしているが、CUP-Kは協議会形式をとっており、神奈川県内に位置する6つの公的産学連携支援機関と、12の大学が参加している。

この仕組みでは、企業ニーズが大学研究者に紹介されるまでに次のステップを踏む。

[1] 企業が支援機関にニーズ情報を伝える(支援機関が日々の活動の中で、企業の潜在的な要望を把握し、それを当該企業とのやりとりを通じて「ニーズ」とすることもある)
[2] 支援機関がCUP-Kの総合窓口に相談
[3] 総合窓口のコーディネータが当該企業を訪問し、時には広がりすぎて絡んでしまっているニーズの糸を解きほぐし、何が求められているかを明確にする。調査票に記入し参加大学の産学連携窓口に一斉に呼び掛けをする
[4] 大学の産学連携窓口から研究者に発信する

大学と地域企業、公的機関が加わった仕組みは各地で多くあろうが、企業ニーズを解きほぐす役割を重視して人を据えているところに特徴がある。

自治体のコーディネータだけでなく、大学のコーディネータも「何かしたい」という意欲と成長の可能性を秘めた企業に対応するようになれば、産学連携の機会はもっと多くなるはずである。

*1
2つの事例は、本号(JST「産学官連携ジャーナル」2011年3月号)にそれぞれのコーディネータが詳しく紹介している。