2011年4月号
連載 - 大学の社会貢献・産学官連携 三重モデル
第2回
研究活性化の手段としての知財戦略
顔写真

西村 訓弘 Profile
(にしむら・のりひろ)

三重大学大学院 医学系研究科
教授、社会連携研究担当・学長補佐


三重大学では、知的財産(IP)取得主義ではなく、研究者ならびに本学の研究活動の活 性化に必要な手段としてIP を活用すべきとの考え方に立っている。

産学連携に対する米国の最近の考え方について

本稿は米国アリゾナ州ツーソン市に滞在中に執筆している。ツーソン市 では、アリゾナ大学における技術移転を調査するために技術移転部門の担 当者2 名と面談した。Nina Ossanna 博士は技術移転室(Office of Technology Transfer: OTT)のメンバーであり、アリゾナ大学が設置している戦略的な 研究機関BIO5 の知的財産(IP)担当部長である。Nina Ossanna 氏は、大学 で生命科学研究者として10 年余りの経験を経てから民間企業に転職し、 そこで知財マネジメントに従事した後、故郷であるツーソン市に戻り、現 職を4 年前から担当しているとのことであった。また、OTT 本体の部長職 にあるPatrick L. Jones 博士も化学分野での学位を生かして、大学での基礎 研究と企業での技術開発を交互に経験しながらキャリア形成し、6 年前か らアリゾナ大学の技術移転部門の責任者を務めている。

両氏との意見交換から明確となったことは、米国の技術移転担当者には 大学と産業界の両方での実績が重要であることだ。アリゾナ大学では技術 移転の専門職が6 名と少数であるが、このことから、米国における技術移 転担当職は相当の実績を持った人材が勝ち取ることができる狭き門の職種 であると考えられる。彼らの表現では、科学者としての能力とプロジェク ト・マネジメントの能力の両方を兼ね備えていることが技術移転担当者に 必須な要件とのことであった。Jones 氏からは、遺伝子情報のデータベー スを蓄積していた研究者を支援した事例の紹介があり、特許は取得せず、 データベースへのアクセス権を付与することで企業ニーズに応え、研究者 の研究に必要な、潤沢な研究費を継続的に企業から集めたとのことであっ た。アリゾナ大学における技術移転では、必ずしも知的財産(IP)の取得に はこだわらず、研究者にとって最良の手法をつくり出すことが技術移転担 当者としての重要な職務だと強調していた。

同時期に訪問した、同じくツーソン市にあるCritical Path Institute でも、 製薬企業と大学等が連携して、米国食品医薬品局(FDA)の承認可能なバイオ・ マーカーの創出を行う活動を行っており、この活動では、大学から参加す る研究者はIP に関する権利を放棄する代わりに、製薬企業から集めた基金 から潤沢な研究費を供与されるとの説明を受けた。これらのツーソン市で の交流から、米国の大学におけるIP 取得と活用に関する考え方(哲学)が、 転換期を迎えていることを感じた。Jones 氏は、技術移転担当者に必須の 要素としてビジネス、法律、サイエンスの3 分野での専門性を挙げ、3 要 素の中のサイエンスの専門性について土台がある人材が法律、ビジネスを 理解して行く場合が最も成功確率が高いとも語っていた。

産学連携活動の根底にある三重大学の哲学

三重大学における産学連携活動の根底にある考え方は、上述のアリゾナ 大学の事例に近い。三重大学では、IP 取得主義ではなく、研究者ならびに 本学の研究活動の活性化に必要な手段としてIP を活用すべきとの考え方に 立っている。また、大学研究者と企業のマッチングについても、大学研究 者と企業を会わせるだけのコーディネーションでは効果が低いとも考えて いる。このような考え方は、学内の社会連携部門(地域イノベーション学 研究科を含む)、知的財産統括室、三重TLO のメンバーで構成される知的 財産評価委員会において、知財評価を行う事例を題材として、本学におけ るIP 活用、共同研究の組み上げ方などを関係者間で議論することで、本学 の産学連携活動に関する考え方(哲学)として構築し、認識の共有化を図っ ている。

図1

図1 著者が理想とする産学連携担当者の姿(プロデューサー型人材)

産学連携の組み上げでは、 本学との連携を希望する企 業に適当な大学研究者を紹 介するだけではなく、大学 研究者と企業が協働するこ とでどのような世界が広が るのか(新たに生み出される 技術・事業の将来像)を考え て取り組むことを若手ス タッフには伝えている。こ れは、産学連携を組み上げ る担当者が産学連携のプロ フェッショナルとして、大学研究者、企業関係者と対等にかかわり、理想 的な連携を企画し、仕上げて行く「プロデューサー」として機能することが 産学連携を成功させる必須条件であり、産学連携担当者の望ましい姿であ ると著者が考えているからである(図1)。法人化後6 年以上が経ち、国立 大学の産学連携の現場(大学の知の社会還元の活動)でも、真に結果が出る 活動が求められており、プロフェッショナルとして産学連携を実行する技 術移転人材が活躍する時期に入っている。また、その段階に進まないと産 学連携自体が必要のないものとなる可能性がある。米国での事例はまさに それを物語っており、三重大学の産学連携では同じような指向性を持ちな がら考え方を構築し、日々の活動を行っている。

次回は、三重大学の産学連携を支えている人物像と次の時代の人員を育 成する仕組みについて、紹介したいと思う。