2011年5月号
連載 - 大学の社会貢献・産学官連携 三重モデル
第3回
産学官連携担当の大学院研究科で発言力
顔写真

西村 訓弘 Profile
(にしむら・のりひろ)

三重大学大学院 医学系研究科
教授、社会連携担当・学長補佐


三重大学の産学官連携の取り組みのポイントは、この部門を担当する大学院研究科(地 域イノベーション学研究科)の設置。これによって、学内での発言力、産学官連携への 学内理解を得ている。

三重大学では、「産学官連携活動で結果を出す」ことを念頭において法 人化後の体制づくりを行ってきている。特に、平成20 年度からは「産学 官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム)特色ある優れた産学官連携活 動の推進」(現在は大学等産学官連携自立化促進プログラム【機能強化支 援型】)の採択を受け、5カ年計画で「地域課題を解決するための三重地 域活性化プロジェクトを地域振興プロデューサーが中核となり企画・遂行 することで地域活性化を図る仕組み」を確立し、永続的な自立運営ができ る体制整備を進めている。今回は、三重大学が構築を目指している産学官 連携活動で結果を出すための仕組み(=産学官連携の三重モデル)につい て説明を行いたい。

産学官連携担当部門の体制整備

大学において産学官連携で結果を出す体制を構築するには、「産学官連 携の担当部門」を教育・研究部門と実質的に対等な学内組織とすることが 重要である。一般的な傾向として、大学における産学官連携組織は、教育 研究を行う学部・研究科とは切り離した組織として存在し、運営を担当す る人員も兼務で参加する教員もしくは期間契約で採用する特任教員・職員 となっている場合が多い。言い方を換えると、大学の本体機能(学部・研 究科)ではない「補足的な組織」として認識されており、脆弱(ぜいじゃ く)な存在根拠の組織形態であるが故に、学内での発言権が弱く、活動へ の学内理解も得られにくい(活動がしにくい)というのが実情ではないだ ろうか。

三重大学での産学官連携組織の体制整備を行う上で最も重要視したこと は、産学官連携を担当する部門の学内における位置付けである。法人化と 同時に産学官連携を担当する全学的な組織として創造開発研究センター (現在は社会連携研究センター)を平成16 年4月に設置したが、設立当 初からしばらくは「補足的な組織」として認識される状況が続いたのも事 実である。しかしながら、コツコツと実績を重ね学内での認識を向上させ るとともに、三重県内の産業界、自治体からの信頼を高めていくことで、 平成20 年ごろには学内外から産学官連携を担当する部門への期待値も上 がってきた(このころに三重大学が中小企業との共同研究では国内大学で もトップクラスということが文部科学省のアンケート調査結果で発表され た)。

このようなタイミングで行った改革が、地域産業界と連携した教育・研 究に特化した大学院を設立するという構想であり、1年半ほどの設置準備 を経て平成21 年4月に「地域イノベーション学研究科」を開設すること で、「産学官連携の担当部門」を既存の教育・研究部門と実質的に対等な 学内組織とすることができた。現在は、地域イノベーション学研究科と社 会連携研究センターが協調して地域活性化のための産学官連携活動に積極 的に取り組んでおり、将来的には両組織を一体化して「教育・研究・研究 成果の社会還元」を一元的に行う体制を整備し、三重大学における産学官 連携を担当する組織の存在を盤石なものにすることを構想している。

地域振興プロデューサーによる産学官連携プロジェクト遂行と人材育成

体制整備を進めるとともに、三重大学では産学官連携活動で結果を出す ための人材づくりと運営方法についても平成20 年ごろから力を入れてい る。具体的には、「産学官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム)」とし て行っているものであり、三重大学が進める産学官連携のための体制整備 (地域イノベーション学研究科の設置、社会連携研究センターの充実など) を有効に活用することで、「地域振興プロデューサー」が地域の産業界、 自治体との協働作業によって地域社会の活性化に実効性があるプロジェク ト(=三重地域活性化プロジェクト)にじっくりと取り組むことができる 仕組みを構築している。

前回の稿で、「産学連携を組み上げる担当者」は、産学官連携のプロフェッ ショナルとして大学研究者、企業関係者と対等に関わり、理想的な連携を 企画し、仕上げて行く「プロデューサー」として機能することを理想とし ていると紹介したが、三重大学では、それを実践している。「産学官連携 戦略展開事業(戦略展開プログラム)」を実施するに当たり、次の3名の プロデューサー人材を配置し、本格的なプロジェクト(各3プロジェクト を担当することをノルマとしている)を遂行するとともに、次世代のプロ デューサーをOJT 方式で育成することも担当させている。

〈三重大学の産学官連携活動を推進している地域振興プロデューサー〉

梅村時博: 本事業予算で採用した特任教授であり、大手企業での研究開発マネジメントの経験を生かした工学分野におけるプロジェクト遂行に強いマネジメント能力を有している。
松井 純: 本事業予算で採用した特任教授であり、三重県出身者としての地域愛が強く、特に過疎化と高齢化で疲弊した地域社会の再生を地域自治体と連携して実施することに強いマネジメント能力を有している。
西村訓弘: 社会連携研究室長・教授でありバイオベンチャーの経営経験を基にした医薬・食品分野での新規事業の立ち上げ支援に強い能力を有している。

また、地域イノベーション学研究科には企業での経験を有し、プロジェ クト・マネジメントの教育を担当する2名の教授を配置しており、平成 22 年度からは「地域振興プロデューサー」として活動を本格化している。

次の時代の地域振興プロデューサーとしてOJT 教育を行っている三重 大学の産学連携を担当する将来の中核人材(3名)についても、全て三重 大学の常勤教員として採用しており、安定した立場で自己の能力向上に取 り組むことができる環境となっている。地域イノベーション学研究科が設 立され、プロジェクト・マネジメント教育を担当する教授職が新たに2名 の枠を設けられたことから、彼らには、学内でのキャリア形成が可能とな るチャンス(産学官連携職でのキャリアを基に教授になる道)も提供して いる。

「産学官連携の三重モデル」について

以上の説明でお気付きかもしれないが、「産学官連携の三重モデル」とは、 実は特別なものではなく、当たり前のことを忠実に行っているだけである。 まず、「産学官連携を担当する組織が本格的に機能するための学内基盤(= 学内での存在意義・価値)と産学官連携活動を担当する人材がプロフェッ ショナルとしての能力を存分に発揮できる (=プライドを持って働ける)環境を整え る」、すなわち、組織が動くための足場を 整え、その上で、三重大学における産学官 連携活動のミッションである「地域立脚型 中小企業の成長を支援することで地域社会 の発展に貢献する」を実現する取り組み(= 地域振興プロデューサーが三重地域活性化 プロジェクトを実施する)を動かしている だけである。

「三重大学」「地域産業界」「戦略(三重 地域活性化プロジェクト)」という「地域 内連携の歯車」を「地域振興プロデュー サー」が動かすことで、地域産業界を発展 させる永続的で盤石な仕組みが「産学官連 携の三重モデル」の姿(図1)である。

図1

図1 「産学官連携の三重モデル」のイメージ

次回は、三重大学が次のステージの産学 官連携を実現するために推進している新た な取り組みについて、紹介したいと思う。