2011年7月号
巻頭言
顔写真

井深 丹 Profile
(いぶか・まこと)

タマティーエルオー株式会社
代表取締役社長



産学官連携で中小企業は元気になる

平成10年に大学等技術移転促進法が制定されて以来、「産学連携」は、わが国の産業振興の柱として、その成果が期待され、技術移転機関として承認TLOが数多く設立された。大学の中に蓄積された研究成果が、特許権という知的財産の譲渡・流通で産業界に供給され、新製品を生み出すストーリーが描かれたのである。

企業にとって、新製品開発は本来業務であるが、開発経験のない大学の成果を活用するときのリスクを避けるために、公的資金投入による研究開発制度が用意された。経済産業省関係では、地域新生コンソーシアム研究開発事業や大学発事業創出実用化研究開発事業といった制度がそれである。特に、地域新生コンソーシアム研究開発事業は、産学連携による企業の新製品開発を国の委託事業として、開発の人件費も支給したのが画期的であった。

平成15年から3年間、ロボット部品と金型の分野で、中小企業の技術力向上を目指す事業が行われ、工業会や商工会議所をまとめ役として、大きな目標を与え開発人件費を支給した。この試行をベースにして、経済産業省は平成18年から戦略的基盤技術高度化支援事業(通称サポイン事業)という部品・部材開発制度を開始したが、順調に発展し、中小企業の技術開発支援の中軸として活用されている。この事業の対象分野は、主に自動車と情報家電であり、基盤技術は機械加工、組み込みソフト、電子デバイス実装など20品目である。主役は中小企業であるが、元請けである管理機関がおり、基本設計や性能評価は大学や公設試験研究機関が支援し、開発目標と販路は「川下製造事業者」である大手企業が支援するという連携体である。

タマティーエルオー株式会社は平成15年の試行と平成18年からの事業で、すでに10件のプロジェクトの事業管理機関を担当してきたが、主役の中小企業の経営者が意欲的であれば、非常に効果的な産学官連携研究開発事業となることを実感している。特に最近の傾向として、開発ニーズを提供した大手企業の技術者が熱心にアドバイスをしている。大手企業の産学連携への関与が、研究者から事業部技術者に変わってきていることや、金融機関の支援もあり、ビジネス性の高い活動となっている。法制定から12年経過して、目標に近づいているとの感がある。

しかし、3月の東日本大震災は産学官連携研究開発に大きな教訓を与えた。大きな投資を行ってきたロボット技術が、この緊急時に役に立たなかったことと、わが国の計測・分析機器が数量、管理体制も含めて極めて弱体であったことである。どちらも結局は世界の先進国の支援を受けることになった。産学官連携による先進科学技術の実用化と、安全・安心社会を支える計測・分析機器技術の強化が、世界の支援に対するお礼であろう。