2011年7月号
連載 - 大学の社会貢献・産学官連携 三重モデル
第5回
地域活性化の新しい連携の仕組みを試行
顔写真

西村 訓弘 Profile
(にしむら・のりひろ)

三重大学大学院 医学系研究科
教授、社会連携担当・学長補佐


産学連携を実行する組織・機能の整備を進めてきた三重大学は、地域の活性化を目指して具体的な連携プロジェクトに乗り出している。地方国立大学は、これまで以上に、地域での存在意義を示すことが必要であるとの認識が背景にある。

三重大学は三重県南部地域に、地域の農家と連携して1万本を目標にユズ(柚子)の木を植えている。これは高知県JA土佐あき(土佐あき農業協同組合)およびユズ香料の生産を開始した地域企業とともに進めている取り組みであり、この活動を通じて、疲弊している三重県南部を活性化する地域内連携の新しい考え方、仕組みをつくることを目指している。

地域を巻き込んだ上述の取り組みは、三重大学がこれまでに整備した“産学連携を実行する組織・機能”を本格的に稼働させた1つの事例である。本稿では、現在進行形で行っている「産学官連携による地域貢献」の事例とそれを推進している活動を紹介し、地方大学が今の時代に果たすべき役割について考察したいと思う。

現在進行中の地域活性化プロジェクトの事例

まず、地域活性化プロジェクトの一例である「ユズを軸とした地域活性化プロジェクト」(図1)の経過を紹介したい。三重県松阪市には、辻製油株式会社という菜種油の製造・販売から出発し、現在、食用油メーカー第4位にまで成長した企業がある。辻製油は、食用油製造だけではなく、搾油残渣(ざんさ)の有効利用にも取り組んできた技術主導型の企業であり、コーン油絞りかすから高純度セラミドを精製するなど、高付加価値製品を造り出している。

図1 ユズ栽培を軸とする地域内連携構造のイメージ

図1 ユズ栽培を軸とする地域内連携構造のイメージ

2007年に、高知県のJA土佐あきが、辻製油の技術に注目し、「ユズ搾汁残渣から香料を精製したい」と同社に協力を求めてきた。三重県の「ユズを軸とした地域活性化プロジェクト」は、辻製油とJA土佐あきの連携をきっかけに、同社の辻保彦社長が「高知県と気候が似ている三重県でユズの栽培ができるのではないか」と発案したことが端緒だ。

その後の動きは速く、まず、辻製油が2008年3月にJA土佐あきからユズ苗木300本を入手し、松阪市嬉野地区に植えた。2009年2月には、著者が行っている講義に辻社長を招へいし、辻製油によるユズ栽培の取り組みを紹介していただき、三重大学と辻製油との連携が始まった。その後、辻製油と三重大学が協力することで、三重県南部地域にユズを植えるプロジェクトに賛同する農家を探し、松阪市嬉野地区、多気町、大台町、南伊勢町から参加が得られたため、JA土佐あきから入手したユズ苗1,000本を2010年3月に植樹した。植樹には三重大学から学生も参加し、2011年4月には、さらに1,000本を植樹した。本プロジェクトでは、三重県南部地域に1万本のユズの木を植えることを目指している。

平成20年の三重県のユズ出荷量は7トンで全国第34位であり、1万本植樹によって期待される収穫量は330トンとなり全国7位相当の規模となる。ちなみに、全国第1位のユズ産地である高知県は8,700トン程度を出荷しており、圧倒的な生産地である。また1万本植樹に必要な面積は約17ヘクタールであり、平成20年から21年の間に三重県内で減少した耕地面積300ヘクタールの約5%を利用することで達成できる面積である。想定している反収(1反≒10アール当たりの収穫額)は30万円程度(150円/kgで計算)だが、ユズ生産が過剰となっている日本の状況では、売り先のめどが明確でないと達成できない数字でもある。

ユズは、挿し木苗を植えてから収穫できるまでに5年から6年必要とされており、この期間の取り組みも重要となる。本格的にユズが収穫されるまでに、三重大学は地域企業と連携してユズを原材料とした新製品の開発を進めている。具体的には、地域の乳業メーカーと三重大学とでユズアイスクリームを試作し、大学生協の協力の下、製品化に向けたモニタリング調査を行うことを計画している。また、地域の酒造会社と三重大学が協力してユズ酒を開発し、製造販売することも進めている。

JA土佐あきと連携

同様の製品開発を県内企業と順次行っていく。目標は、三重県産のユズが本格収穫されるまでに、三重県発で全国販売(世界販売)されるユズ製品を複数種類つくり出すことだ。

なお、製品開発に使用するユズ果汁はユズ苗木の提供で連携するJA土佐あきから購入している。JA土佐あき産果汁を利用して三重県発の新たなユズ製品をつくることでWin-Winの関係を構築し、将来、三重県産のユズを土佐産と合わせて地域企業に利用してもらうなど、確実な売り先を準備しておきたいと考えている。

ユズの利用を果汁販売に限定せず、高知県で辻製油が行っているユズ皮から香料を絞る利用法、また、ユズ香料を絞った廃棄物を堆肥化し、農業用肥料として再利用することを目指している。研究開発を始めたばかりであるが、三重県南部で行っているマダイ養殖の餌に混ぜることで「ユズマダイ」という銘柄の養殖魚を実現することにも取り組んでいる。このように、ユズ栽培を軸として、地域内連携を進めることで、地域内の多様な立場の人々が共に元気になることを実現したいと考えている。

このような地域内連携はユズ以外の農作物にも適用可能である。同様の取り組みを何層にも重ねていくことで農業による収入額を増やせれば、過疎化と高齢化が進んだ三重県南部地域に子育てを行う若い世代が戻り、地域が少しずつでも活性化できるのではないかと考えている。

三重大学ではメディカル、バイオ、アグリ等の分野で成長が期待される企業を支援するために、野村證券、百五銀行と共に「創業革新プロジェクト研究室」を平成20年7月に立ち上げた。平成23年7月からは、「創業革新プロジェクト研究室」を三重大学地域戦略センター内に組み入れ、地域戦略センターが実施する地域活性化プロジェクトに連動して、地域企業の成長を支援できる体制を構築する予定である。

「ユズを軸とした地域活性化プロジェクト」においても、三重大学地域戦略センターは地域シンクタンクとして、地域内連携の全体施策立案と個別プロジェクト遂行に関与するのにとどまらず、「創業革新プロジェクト研究室」で築いてきた機能を活用して地域企業の成長を支援することまで行う。このような地域活性化のための総合的な取り組みは、地域を熟知した地方大学であるが故に可能であり、三重県地域においてその基軸的な役割を果たすことが三重大学には求められている。

今の時代に求められる地方国立大学の役割

国立大学は平成16年の法人化後、運営費交付金(運営のための基礎的資金)が年々減少し、競争的資金、外部資金等の自己調達資金を増やすことを進めている。国立大学の属性、性格によって運営資金の構成が変化しており、「国立大学法人等の平成21年度事業年度財務諸表の概要(文部科学省)」によると平成16年から平成21年度の間における1大学あたりの増加額は大規模総合大学の145.6億円に対して、三重大学が含まれる医科系学部を有する中規模総合大学では12.9億円と、上位国立大学とそれ以外の国立大学との配分額には10倍以上の差が生じている。

このように大規模総合国立大学と地方国立大学では国家における位置付けが明確に区別されてきていると認識すべきであり、各大学がそれぞれの特徴(国家における立ち位置)を自覚することが今後、ますます重要となる。国立大学が今後も発展する(生き残る)ためには、それぞれの特徴に基づく存在意義をこれまで以上に明示することが必要であり、場合によっては、存在価値を認めてもらえる所からの資金供与によって自立を目指すことも必要になるかもしれない。

三重大学でも、平成16年の法人化後、運営費交付金収益と学生納付金収益は減少したが、病院収入と外部資金を増やすことで、経常収益が約10%増加している。特に法人化後は産学連携に注力することで、主に地域企業との共同研究を増やすことを進めており、平成21年度には、民間企業との共同研究の実績が、件数別で15位、研究費別で13位となった。ちなみに、平成21年度の運営費交付金ランキングでは86校の国立大学法人中で29位であったことを考えると、共同研究の受け入れについては良く頑張っていると思う。

三重大学の中期目標では、社会貢献の目的として「教育と研究を通じて地域づくりや地域発展に寄与するとともに、地域社会との双方向の連携を推進する」を掲げている。法人化後、将来にわたって存続していく根拠として「地域社会に貢献すること」を明確に位置付け、これを実行するための産学官連携体制を整備してきた。三重大学は、三重県地域に存在する唯一の総合大学として、地域社会に貢献することが重要な役割であると認識し、「地域活性化プロジェクト」の実施など、これまでに構築してきた産学官連携を担当する組織・機能を本格的に動かし始めている。

次回は、本連載の最終回として、地域社会と地域企業と地域大学の理想的な関係を考察することで、三重モデルの底流にある考え方を総括したい。