2011年12月号
特集 - 市街地対策・まちづくり 学の貢献
シンポジウム「まちなか研究室を起爆剤にした学生によるまちづくり」
富山・岐阜経済・岐阜・一橋の4大学が報告し、交流
顔写真

大西 宏治 Profile
(おおにし・こうじ)

富山大学 人文学部 准教授



富山市の中心市街地に7月に開設された「まちなか研究室」。若者を市街地に呼び込むとともに、大学生によるまちづくりの活動を活発にするのが狙いだ。そこで、地元の富山大学と、岐阜経済大学、一橋大学、岐阜大学で同様に取り組みを行っている教員、学生が集まり、まちなか研究室を生かした学生によるまちづくりについて意見を交わした。

今年7月に富山の中心商店街にまちなか研究室「MAG.net」*1がオープンした。MAG.netを学生がどのように活用すればよいのか、学生、商店街、大学、富山市、それぞれが模索している。そこで、まちなか研究室でまちづくりに取り組む大学の活動を紹介し、意見交換を行うシンポジウム「まちなか研究室を起爆剤にした学生によるまちづくり」を開催した。

富山まちなか研究室MAG.net

これまで、富山市のTMO(Town Management Organization)である「まちづくりとやま」は中心市街地での大学生のまちづくり活動を支援してきたが、なかなかその活動がまちなかで定着しなかった。そこで若者の来街促進や学生によるまちづくり活動の活発化を狙い「まちなか研究室」*2を設置した。大学もまちなか研究室のような社会と学生の接点を求めていたことから、設置に協力することになった。

シンポジウム「まちなか研究室を起爆剤にした学生によるまちづくり」

1.シンポジウムの狙い

まちなか研究室を設置して学生が主体となりまちづくりを進める事例に造詣の深い研究者やまちづくり活動をする学生を招聘(しょうへい)し、学生によるまちづくりの事例報告会と意見交換を行った。

シンポジウム1日目は、まちなか研究室を持つ大学の教員による講演とパネルディスカッション(富山大学・地域連携推進機構・地域づくり文化支援部門の特別公開フォーラム)、2日目には学生のまちづくり活動の発表会と意見交換会(富山大学人文学部シンポジウム開催経費による開催)を行った。


2.大学教育としてのまちなか研究室(シンポジウム1日目)写真1
富山まちなか研究室MAGネットの運営と大学教育としての位置づけ
富山大学 准教授 大西 宏治
写真1 シンポジウムの様子

写真1 シンポジウムの様子

まちなか研究室を活用した大学教育としては、①地域社会と大学の接点を形成し、学生たちに地域調査などを実施する際に受け入れてもらいやすい状況を創り出す ②学生たちが地域社会と接点を持った活動をすることにより、学生が体験的に社会を知る経験を積むことができる環境を構築するという狙いである。大学のキャンパス内では学びきれないものを学ぶ場所として設定されている。これまでにまちなか研究室を利用した実践が行われている。例えば経済学部の清家研究室の学生たちが夏休みにまちなか研究室内に店舗を構え、ジェラートの販売を行った。彼らは新川育成牧場からジェラートを仕入れ、その仕入れ値、ランニングコストなどを勘案し、価格設定をして夏休みの間、まちなか研究室で販売を行い、店舗を経営するというのはどういうことなのかを学習した。このように大学教育の場として活用することで、学生たちは授業を離れてもこの場所を学生の活動の場として利用する可能性がある。

岐阜経済大学の大学教育としてのマイスター倶楽部の取り組みについて
岐阜経済大学 准教授 菊本 舞

マイスター倶楽部は1998年10月に大垣商工会議所による「空き店舗対策モデル事業」として商店街内のスペースで活動が始まった。学生たちに国内外の経済情勢の変化と身近な日常生活や商店街との連続性を理解させることのできる実践的な教育の場として大学教育上に位置付けられた。2006年以降は、岐阜経済大学、大垣市商店街振興組合連合会、大垣商工会議所、大垣市の4者で協定を結び設置・運営がなされている。

現在では32名で活動し、学生たちが幾つかのプロジェクトを立ち上げ活動している。都市と農村をつなぐコミュニティビジネスとして産直野菜を販売するプロジェクトや大垣市の魅力的なまちづくりについて検討するプロジェクト、中心市街地に若者のたまり場を創出するプロジェクトなどである。このように社会との接点を持ちながら学生が自ら活動をすることで学生たちは成長していくので、この仕組みを安定的に維持できる学内的な体制の整備が必要である。

人間環境キーステーションの取り組みと大学教育について
一橋大学 教授 林 大樹

人間環境キーステーションとは商店街、国立市、一橋大学、国立市民が協働してまちづくりを行う団体で、その原点は「くにたち2001プロジェクト研究会」にある。高齢化や衰退する商店街という地域の課題を解決する方法を模索するものであった。それを受け、2002年から一橋大学では「まちづくり」授業が始まり、まちの課題解決に取り組む活動に単位を与えられるようになった。2003年には富士見台商店街内に地域活動拠点「くにたち富士見台人間環境キーステーション」(通称:KF)がオープンし、そこを拠点とした学生の地域活動が行われた。例えば、学生が中心となりコミュニティカフェが運営されたり、地産地消の店「とれたの」が営業されるなど、ユニークな活動が行われている。2004年にはこの活動が文部科学省の特色ある大学教育支援プログラムに選定された。プログラムの終了後も活動拠点の運営やまちづくり授業も継続している。

ここでの活動を通じて、学生たちは地域課題の発見やそれに取り組む方法などを実践的に学ぶ中、成長していくし、まちづくりの背景に数多くの人が関わっていることを学んでいく。このように大学と社会の接点は、学生たちが成長を感じられる学習環境を生み出している。また、現在はKFがNPO法人化して独立して運営されるところまで組織が成長している。このような例はあまり他の地域では見られない。

パネルディスカッション

3者の講演を受けて、岐阜大学の富樫幸一教授の司会でパネルディスカッションが行われた。パネルディスカッションに先駆け、富樫教授の岐阜市での取り組みを紹介しながら論点整理が行われた。岐阜大学では地域科学部設置により、学生が地域学実習で地域調査を行うことになったこと、ぎふまちづくりセンターの設置により、まちづくり活動の拠点ができ、学生の中にはまちづくり活動に積極的に取り組むものが出たことが報告された。

パネルディスカッションでは ①大学にとって地域とつながる意味 ②大学が置かれている地域の事情 ③まちづくりとして学生は何を得るのかの3点で議論が行われ、どの大学も社会貢献の意識でこのような活動に取り組むことにはなったが、学生の成長につながるものになっていったこと、学生のこの活動を継続的に支援できるような大学の体制の整備の必要性などが指摘された。


3.学生のまちづくり活動(2日目)
写真2 ワークショップ形式での意見交換

写真2 ワークショップ形式での意見交換

2日目は学生のまちづくり活動に関する報告会と討論会、そして徳島活性化委員会内藤佐和子氏の講演が行われた。まず、午前中には、富山大学人文学部人文地理学研究室2年生による富山と彦根、大垣、岐阜、名古屋の商店街との比較が報告され、次に国立市(一橋大学)、高松市(香川大学)、大垣市(岐阜経済大学)、岐阜市(岐阜大学)、金沢市(金沢まちづくり会議)、富山市(富山大学)の学生によるまちづくり活動が報告された。そして、「学生と地域の連携を踏まえたまちづくり活動in徳島」と題した講演が内藤氏により行われた。午後には学生討論会として、まちなか研究室に特大のこたつが設置され、ワークショップ形式でまちづくりに関する意見交換を行われた(写真2)。

2日間にわたるシンポジウムであったが、学生によるまちづくりによる大学教育上の意義が確認され、また学生たちは相互にまちづくりに関する新たなネットワークを得ることができ、有意義なシンポジウムとなった。

*1
MAG.net
 M まちなかの
 A あすを
 G. 学生が考える
 net ネットワーク

*2
富山市からの委託事業で「株式会社まちづくりとやま」が運営している。