2011年12月号
特集 - 市街地対策・まちづくり 学の貢献
旦過市場の「大學堂」
さまざまな企画で小倉の新名所に
顔写真

竹川 大介 Profile
(たけかわ・だいすけ)

北九州市立大学 文学部
人間関係学科 教授


北九州市小倉の生鮮市場「旦過(たんが)市場」にある町の縁台「大學堂」は、学生たちが中心となって2008年から運営している。日替わりの店長がさまざまな企画を展開、小倉の新名所になっている。

無名から発信する

福岡県北九州市・小倉の「旦過(たんが)市場」と「北九州市立大学」と聞いて全国のどれだけの人が、政令指定都市にあるにぎやかな市場やユニークな公立大学をイメージできるだろうか。残念ながら「九州の小倉の名前は知っているけど、市場も大学もよく知らない」という声が返ってくることの方が多い。豊かな自然と歴史遺産、温泉、美食などなど多くの観光地を抱える九州であるが、外の人と話をすると、地元では当たり前のことが、実はあまり知られていない現実をしばしば認識させられる。

例えば、北九州市は関門海峡を挟んで下関市と向かい合っており、在来線でわずか15分の距離にある。小倉・門司・八幡・戸畑・若松これらの街はすべて北九州市にあり、よく間違えられる博多は、北九州市からさらに70キロほど西に位置する福岡市にある。

写真1 川の上の旦過市場

写真1 川の上の旦過市場

そして旦過市場は、そんな北九州市を代表する生鮮市場である。炭鉱や製鉄業でいち早く戦後の復興を成し遂げた北九州市には古い市場が数多く残っている。中でも旦過市場は神嶽川から水揚げする魚河岸を起源とした、日本随一の水上マーケットである(写真1)。

もし旦過市場に足を運べば、地域の海の幸や山の幸がずらりと並べられたトタン屋根の風景に誰しも驚くだろう。旦過市場は、札幌の二条市場、京都の錦市場、沖縄の牧志公設市場など、日本各地の名だたる市場に勝るとも劣らない元気な市場である。

だが、最初に書いたとおり、いかんせん無名である。

しかし、とさらに逆接を重ねよう、この「無名さ」にこそ可能性がある。私たちはそう考えた。

九州フィールドワーク研究会

「大規模小売店舗法」が廃止されて以来、ショッピングモールの隆盛と中央市街地の衰退は、日本のどこの地方都市にも見られる当たり前の景色になってしまった。そんな状況の中で、大学や学生の手による活性化や街づくりが注目されているが、実際にはそれは簡単ではない。例えば一過性のイベントや内輪だけの盛り上がりは実現できたとしても、長期にわたる継続性や対外的な効果に、果たしてどれほど期待できるだろうか。経済性だけはとてもショッピングモールに太刀打ちできない。

写真2 大學堂の外観と市場の様子

写真2 大學堂の外観と市場の様子

「大學堂」*1は旦過市場のほぼ中央にある(写真2)。大學堂を運営しているのは、北九州市立大学で私が担当する人類学ゼミをコアに、学生や市民が集まる「九州フィールドワーク研究会」である。

九州フィールドワーク研究会では、フィールドワークによる社会調査に興味がある人々が、大学のカリキュラムに縛られずサロン形式の研究会を続けている。創設以来12年、これまで国内外での社会調査や村落開発事業など、外部からの事業委託も多数受けてきた。

2000年から04年にかけ北九州市に点在する市場の調査を行ったのも、そうした事業の一環であった。この調査の中で、市場の持つ面白さと人が集まる場所としてのポテンシャルに注目し1つの提案をした。私たちのアイデアは、市場を「劇場」と読み替えていこうというものであった。日々さまざまな人が集まってドラマが生まれる劇場だ。

そしてそのアイデアは数年の経緯を経て、2008年7月7日、「大學堂」として結実したのである。

街の縁台

大学でゼミがある木曜日と、市場が休日の日曜日を除けばほぼ毎日、大學堂は開いている。店長は日替わりで、それぞれの企画を展開している。

写真3 大學堂でのライブ

写真3 大學堂でのライブ

大學堂のコンセプトは「メディアステーション」である。ここでいうメディアとは人と人をつなげる媒体。お客さんに説明するときは「街の縁台」と呼んでいる。劇場としての市場に、大學堂という桟敷が作られ、人々が集まってくる。そんなイメージだ。今では週に1度くらいの頻度で、さまざまなミュージシャンがライブを行う(写真3)。通りすがりの観客も巻き込んだ投げ銭ライブだ。街の反応がそのまま演奏者に返ってくる。刺激的な瞬間だ。

2011年の春には2階に漆喰壁のギャラリーを完成させた。市場通りとトタン屋根が窓から見えるその素敵な空間は、渋沢敬三をリスペクトして「屋根裏博物館」と呼ばれている。お金や時間をかけなくてもできることはある。最小限のエネルギーで最大限の効果を挙げるというのが、こうした事業を持続していくための1つの要点である。

大學丼というヒット商品もそうした発想から生まれた。大學堂はご飯と汁物そして食べる場所を提供する。おかずは市場で好きなものを選ぶことができる。手軽に美味しい旬の地の食材が楽しめるので、小倉の新名所として旅行ガイドブックに取り上げられている。

ないものを新しく作るのはお金もかかり大変な作業だが、すでにそこにある「資源」を読み替えていくだけならアイデア次第である。無名であるからこそ「発見」も多い。

このごろは常連の買い物客に混じって、毎日のように大學堂を目指して観光客や旅人や視察グループがやって来るようになった。面白いことを発見し、人に伝えていく、そんな実践と研究を融合させた学びの方法論が、学生たちのソーシャルスキルを飛躍させ、街の新しい姿を生み出している。

*1
大學堂ホームページ http://www.daigakudo.net/