2011年12月号
特集 - 市街地対策・まちづくり 学の貢献
北九州オアシスマーケットをめぐる商店街と大学の協働
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楢原 真二 Profile
(ならはら・しんじ)

北九州市立大学 法学部 政策科
学科 教授


北九州市のような大都市でも、町丁字あるいは町内会・自治会ごとにみると、超高齢社会になっているところがある。一人暮らしが多く人間関係も希薄だ。商店、スーパーは撤退してしまっているので、住民は困っている。こうした買い物弱者*1の課題に地域、大学は商店街と協働していかに取り組んだか。

北九州オアシスマーケット――21世紀の商店街の生き残り をかけた模索
図1 北九州オアシスマーケットの概要

図1 北九州オアシスマーケットの概要

北九州オアシスマーケット(図1)とは、「食の砂漠(フードデザート)」地域における、買い物の不便さを解消する「場」、出店することでの商いの「場」、そして食の砂漠地域に共通してみられる「コミュニケーション不足」を解決する憩いの「場」として機能することを意図した、商店街、町内会、大学の協働事業(ソーシャルビジネス)である。

「お魚を買いに行きたいけれどもなかなか行けなくて困っている」

「高齢者にとっては商品を持ち帰るのは重くて大変」

こうした高齢者の言葉がきっかけだったと、北九州市民の「台所」旦過(たんが)市場で鮮魚店を営む中村真也さんは言う。そんなに困っているのであればなんとかしてあげられないだろうか。こちらから出向いていくことはできないだろうか。

市場もこのままでは5年先、10年先のことを考えるとどうなるか分からない。今のようにお客さんを待っているだけでよいのか。市場も生き残りをかけて新しいアイデアが必要ではないか、新しいビジネスの形態を模索しなければならないのではないか。

中村さんは、弟で精肉店を営んでいる英夫さん、デザイナーの上田浩二さん、さらには北九州商工会議所スタッフと1年位前から話し合いを始めていたという。

超高齢社会・北九州市の現状

一方、筆者は、北九州市を中心に大都市の局地的高齢化が進む地域を「町丁字別」あるいは「町内会・自治会ごと」に分析し、よりミクロな視点から高齢社会のまちづくり、さらにはコミュニティを再生するにはどうすればよいか研究を進めていた。

局地的高齢化が進む地域は、高齢者がひきこもってしまい普段は誰も人がいないかのように静まりかえっている。一人暮らしが多く人間関係も希薄化し孤独死も頻繁にみられる。また、人口減少も並行して進んでいる地域が多い。

さらに2008年から2011年にかけて八幡東区大蔵で行った一連の調査*2では、スーパー撤退の話や買い物について困っている高齢者の声も頻繁に耳にするようになった。大蔵地区は、人口約8,100人で35の町内会から構成され、そのうち高齢化率が40%以上の町内会が21、50%以上の町内会が6つある超高齢社会である。一般的に高齢者は食べ物の消費量は少ない。高齢化が進みさらに人口減少が進めば、近くの商店街、スーパー等が採算が取れずに撤退し、買い物弱者が生まれるのも当然のことと言えよう。

局地的高齢化が進むコミュニティをどう立て直すかという問題と同時に買い物弱者の問題をどうすればよいか。ちょうどそう思っていた時であった。2011年3月上旬に北九州商工会議所の能美育恵課長より連絡があった。

産(市場)・学協働の成立

買い物弱者の救済事業を考えているが協力してもらえないか。当方サービスの提供はできるが、買い物弱者がどのようなところにいるのかがよく分からず、地域住民に入っていくことがなかなかできないとのことであった。

金もうけ中心ではなく、ビジネスの手法を用いた社会問題の解決、すなわち「ソーシャルビジネス」を事業の理念に据えて行うのであれば協力は惜しまないと提案したところ、まさに「ソーシャルビジネス」として今回の事業を考えているとのことであった。後に「オアシスマーケット」あるいは「移動式市場」と命名した「産(市場)」と「学」の協働の始まりである。

話し合いはとんとん拍子で進んでいった。そして、まず社会実験を行うことにした。場所は、北九州市門司区市営後楽町団地。後楽町団地は、2007年の筆者の調査*3では、高齢化率87%でほとんどが一人暮らしの高齢者からなる超高齢社会、「限界団地」であった。2006年5月23日に生活保護問題に端を発した孤独死で有名となった団地でもあるが、現在では、住民、行政、大学などの支援のもとコミュニティの再生が進んでいる。

第1回目の実験(6月22日)では8店舗が出店。後楽町団地にこれまで見たことのないような数の人たちが買い物に顔を出した。団地再生に力を注いできた者としては非常に感慨深い光景であった。当日は大学生も販売の手伝いから、アンケート調査、さらには出張喫茶などで大活躍をした。

写真1 オアシスマーケットの様子

写真1 オアシスマーケットの様子

7月29日に行われた第2回目の実験では出店は前回を上回り11店舗。前回のアンケート結果から今回は、八百屋とパン屋が参加することになった。しかし、当日は暑かったこともあり、前回より客足は減ったが、どの程度の人が必要としているかニーズは把握できた。一人暮らしの高齢者対策を意図した大学生の出張喫茶は、前回同様大好評であった。座ったまま帰りたくないといった高齢者もでたほどである(写真1)。

こうした実験を受けて、大型のオアシスマーケットを1・2カ月に1度、生鮮3品を中心とした小型のオアシスマーケットを毎週行うことにし、9月からは毎週火曜日の11~12時に集会所で小型のオアシスマーケットを開催することにした。回数を重ねるごとに固定客もつき、始まる前から待っている住人も大勢でてきた。

オアシスマーケットの意義と課題

さて、オアシスマーケットの意義は何か、再度みておきたい。

まず、市場の側からは、新たなビジネスチャンスとなることである。換言すると市場の生き残りをかけた新しい試みとして重要な意味を持つ。

次に、町内会にとっては ①買い物問題が解決でき、②ひきこもりがちな高齢者に対して最低でも週に1回は住民相互に交流できる場、コミュニケーションの場、憩いの場を設定でき、地域ににぎわいをもたらすことができる。また大学生の出張喫茶などでは普段誰とも話す機会のない一人暮らしの高齢者にとってはまさに精神的なオアシスとなっている。

最後に、大学としては新しい形の地域貢献になるであろう。大学の教員にとっても自分の研究を社会のために活用することができる。また、大学生が高齢者ばかりの地域に入って活動することは地域の活性化につながるであろう。


現在のところオアシスマーケットの第1の課題は、採算が取れる形で、住民の満足度を維持し継続していくことである。現時点で開催場所は1カ所であるが、これを2カ所3カ所と増やしていき、採算が取れるビジネス形態として継続していく必要がある。

第2に、学生が社会貢献をしながら生活費が稼げるような仕組みを作ることである。大学生は親からの仕送りも減り、多くの学生が奨学金をもらったり働きながら大学で研究している。こうした学生の手助けはできないかと模索中である。

第3に、オアシスマーケットに訪れる高齢者の安否を確認することである。現状ではまだここまでは至っていないが今後検討すべき重要課題であろう。

21世紀、市場も大学も新しいアイデアが必要とされており、新たな協働が求められているのではなかろうか。北九州オアシスマーケットが新しい協働形態を切り開いていくことを期待してやまない。

*1
「買い物難民」と言うことも多い。

*2
楢原真二監修.大蔵地区高齢者の実態・ニーズ調査報告書―単身高齢者編.2009.
楢原真二監修.大蔵地区における高齢者世帯の生活実態・ニーズ調査報告書―二人暮らし高齢者編.2011.

*3
楢原真二.芳賀祥泰編著.“大都市における局地的高齢化と限界コミュニティ―北九州市を中心にして”.福祉の学校―安全・安心・快適な福祉国家を目指して.エルダーサービス,2010,P.68.
楢原真二.“北九州市門司区市営後楽町団地の現状と問題点―2回にわたる調査からみえてきたもの”.北九州市立大学法政論集.2010,第37巻,第4号.