2011年12月号
特集 - 市街地対策・まちづくり 学の貢献
デザインによる地域貢献の可能性
顔写真

赤川 貴雄 Profile
(あかがわ・たかお)

北九州市立大学 国際環境工学部
建築デザイン学科 准教授


研究テーマとする建築設計と都市計画における「デザイン」は「実践」を伴わないと、社会的に意味のある貢献にならないし、教育にもならない――こうした観点から、実践の場として北九州市・黒崎熊手商店街を選び、2006年からさまざまな活動を行ってきた。

「デザイン」を通した商店街と大学の連携
写真1 黒崎熊手交流スペース(2006年)

写真1 黒崎熊手交流スペース(2006年)


写真2 大連交流店舗の設計と施工のプロセス(2009年)

写真2 大連交流店舗の設計と施工のプロセス(2009年)

北九州市立大学赤川研究室では、2006年から福岡県北九州市八幡西区の黒崎熊手商店街と連携して、さまざまな活動を行ってきた。われわれの研究室は建築設計と都市計画を主な研究テーマとしているが、両者ともに、「実践」を伴わないと社会的に意味のある貢献にならないし、教育にもならないという観点から、実際に建築を設計し、まちづくりに参加することを重視し、われわれの住む都市環境を実際に「改善」できるかどうかということを行動基準としてきた。活動はアートイベント実施から、交流スペースの設計・施工などに及ぶが、その活動の根底には「デザイン」というキーワードが共通している。

黒崎熊手商店街は、旧長崎街道沿線に位置するだけではなく、衰退の進む北九州黒崎地区の商店街の中でも、危機感を持ち、さまざまな努力が払われている商店街であった。また、細い路地などが残っており、魅力的な空間が存在することもわれわれが活動対象として選んだ要因であった。

学生の活動と商店街の方々との相互関係
写真3 黒崎路地裏アートプロジェクト2010(2010年)

写真3 黒崎路地裏アートプロジェクト2010(2010年)

商店街で活動する中で重視していることは「デザイン」を通じた貢献である。われわれは「デザイン」の専門家であり、将来「デザイン」を稼業としていく学生が「デザイン」を通して商店街に貢献するというポリシーを持って活動している。とはいっても、「デザイン」を通した貢献は非常に広範囲にわたるので、あらゆることを試してきた。「デザイン」という行為の多様性のケーススタディーとして、以下に示すように毎年その可能性を実験してきたともいえる。

【熊手商店街で行ってきた活動】

2006年: 熊手交流スペースの設計と施工(写真1
2007年: 販売カートと案内マネキンの製作
2008年: カフェの実施
2009年: 大連交流店舗の設計と施工、あんどんの製作、モニュメントデザイン提案(写真2
2010年: 舗装提案、デザイングッズの作成と販売、黒崎路地裏アートプロジェクト(写真3

学生にとってみれば、商店街での活動は未知の世界での経験となり、商店街の方々にとっては普段あまり接することのない学生という異分子が商店街に来ることが刺激となっているようである。通常あまり出会わなくなったグループが出会う機会を設けることそのものが、現在の都市の在り方を考える良い機会となっていると考える。

体験としての失敗

われわれが行ったさまざまな提案がすべて受け入れられてきたわけではない。完全に拒絶された提案もある。活動を引率する教員として、なんとか学生の思いを実現させてあげたいと考えてきたが、ある段階で、「実現しない理由」を考えさせて、実現しないということもそのまま体験させた方が良いと考えるようになった。商店街のニーズと一致しない提案が受け入れられないという事実を体験することも、学生が将来実務家として社会に出るまでに経験するべき重要な体験だと現在では考えている。

設計の仕事と同じプロセス

本プロジェクトでは、商店街のニーズを調査する→そのニーズに対して提案を行う→商店街の反応を見て修正を行う→提案を実現する方法を考える→コスト制限の中でどうやって実現するか考える→プロと連携するか自ら施工する→納品、というプロセスで案件を実施してきた。

こういったプロセスは実社会において、設計の仕事を行うプロセスと基本的には同じであり、そこで要求される暗黙知的なスキルもまったく同じである。課題解決型の教育方法をPBL(Project-BasedLearning)と呼称するが、本プロジェクトが学外で実際にプロジェクトを実施する点が、学内の設計製図課題と大きく異なる点であり、かつ、学生の探求心、野心、モチベーションを向上させている要因である。

また、上記のプロジェクト実施プロセスは基本的には大学での研究プロセスと類似するものであり、大学での研究にも寄与していると考える。

まとめ

建築設計、都市計画のような実学的な分野においては、プロジェクトを実際に実施することが教育上も有効であり、そのことが地域貢献にもつながるという思いがわれわれのプロジェクトを支えてきた。課題も多く、活動を継続することは困難であるが、これからも継続的に活動を行っていきたいと考えている。