2012年1月号
特集2 - 復興に大学の力 2
石巻専修大学
住民とともに歩む息の長い活動を展開
顔写真

坂田 隆 Profile
(さかた・たかし)

石巻専修大学 学長



津波被害のあった沿岸部に近い石巻専修大学は、被災した住民を施設内に受け入れ、きめ細かい支援を行った。大学のグラウンドは自衛隊や支援のNPOのヘリコプターが使用する臨時着陸場になった。NPO などのボランティア機関の活動の拠点でもあった。石巻市などとの連携による研究プロジェクトも進めており、住民とともに歩む息の長い活動が目標だ。

石巻専修大学の被災状況

石巻専修大学は現在の石巻市、東松島市、女川町から誘致を受けて、学校法人専修大学のもとに平成元年に開学した。建学の精神は「社会に対する報恩奉仕」である。

東日本大震災によって本学でも在学生6名、入学予定者1名が自宅付近で尊い命を奪われた。学内での死傷者は無かった。教職員は全員無事で、大学の校舎もほとんど被害が無かった。ただし、学生・教職員の約3分の1が一部損壊以上の住家被害を受けた。

地震によってライフラインや通信も絶たれた。石巻北バイパスを介した道路交通は確保されていた。配電は3月19日に、水道は4月4日に、ガスは4月13日に、インターネットへの接続は4月22日に復旧した。

配電の復旧まで自家発電機(3系統、合計83キロワット)を連続運転した。3系統を臨時工事で接続し、補完態勢を取った。学内には合計で120トンの上水タンクがあったので当面は水使用を節約し、その後は石巻市から避難者の分も含めて毎日10トンの給水を受けた。外部との通信は困難で、発災後数時間以降はソフトバンク社の携帯電話しかつながらなかった。同社から音声端末およびデータ通信端末の提供を受けたのが、大変に役に立った。その後、NTTの災害電話が学内に設置され、3月17日にはNTT Docomoの無線Wi-Fiルータも使用可能になった。

3月20日に予定した学位記授与式は中止し、当日は事務室前で学内に避難していた卒業者や近くからやって来た卒業者に学長と理工学部長が個々に学位記を授与した。交通や学生の宿舎の確保ができなかったので、前期授業の開始を5月20日からとし、5月22日に入学式を行った。幸い、5月19日にJR石巻線が東北本線の小牛田から石巻まで開通した。

発災当日、私は札幌に出張中であったが、学内にいた鈴木均理工学部長、今野健吾学校法人常務理事、山本静事務部長らが中心になって指揮をした。私は12日に東京都千代田区の専修大学本部に移動し、17日に大学に戻った。

避難者の受け入れと施設の提供

震災直後から大学に市民が避難してきた。「『社会に対する報恩奉仕』という建学の精神を掲げているのに断るわけにはいかない」という現場の判断で、避難者を受け入れた。

石巻市、女川町、東松島市とは平成20年に包括連携協定を結んでおり、日ごろからさまざまなレベルで顔の見えるお付き合いをしていた。また、大学の元地権者が中心になって設立された東北総合サービス株式会社に大学の管理、清掃、警備などをお願いしているが、この方たちを通じても近隣の市民とお付き合いをしている。

2010年にチリ地震による津波警報が発令されたが、この時も「近所の人が避難してきたら、入ってもらって下さい」という指示を学長名で出しており、事務職員や近所の人もこのことを覚えていた。そこで、発災直後から近隣からの避難者を収容した。11日には、学内の学生・教職員約200名、学外者約200名が大学に避難した。学生の保護者の組織である育友会から寄付をしていただいた備蓄食糧を放出した。また、実験棟の安全を確認し封鎖した。

翌日になるとヘリコプターやバスによって多数の被災者が大学に避難してきた。石巻専修大学のグラウンドは宮城県警や東北電力のヘリコプターが使用する臨時着陸場になっていたのと、自衛隊の基地となった石巻市の総合グラウンドから近かったことがきっかけであった。濡れたままの方も多かったが、学生・教職員の私物の衣料などを提供した。

最大で学外者千人以上、学生・教職員約200名が学内に避難をした。学外者は4号館の教室を利用してもらった。教室は天井も低く、窓が大きいので、日差しも良く入った。特に階段教室が好評であった。自家発電によって避難所には明かりがともり、水の供給も一定量は可能であったが、初期の段階では食糧や毛布の公的配布が遅れた。発災当日に市内の建設業者から仮設トイレを6基借用して4号館近くに設置し、のちに石巻市からも仮設トイレを設置してもらった。避難所の管理は石巻市が行ったが4月28日に閉鎖となった。

3月14日には日本赤十字社の臨時救護所が設置された。石巻赤十字病院の負担を軽減するためである。毎日100人を超える人を診療し、4月10日まで活動した。

かねてから石巻市とはボランティアセンターの設置などを旨とする防災協定を準備し、3月30日に調印予定であった。この内容に沿って石巻市から本学にボランティアセンター設置の依頼が3月14日にあり、3月15日に石巻市社会福祉協議会が5号館1階に事務所を開設した。

写真1 ボランティア活動の拠点となった大学敷地<br>(撮影日:平成23年4月8日)

写真1 ボランティア活動の拠点となった大学敷地
(撮影日:平成23年4月8日)

その後、社会福祉協議会は石巻復興支援協議会などをはじめとするさまざまなNPOと協力して、「石巻モデル」と呼ばれるボランティア活動を組織し、10月末までに25万人のボランティアが石巻地域で活動することになった(写真1)。本学も駐車場やキャンプサイト、野球部の室内練習場を転用した倉庫などを提供した。キャンプサイトは9月に閉鎖となり、ボランティアセンターは11月末に学外に移動した。また、NPO等と石巻市の間の調整をする石巻復興支援協議会にも会議室を提供している。

上記の協定の趣旨に沿って、飲酒の禁止や自動車の通行規制など大学の規則をボランティアの方たちにも守っていただいた。

3月18日には石巻市長から、自衛隊の一部駐屯を依頼され、これも直ちに了承し、グラウンドの一部と本館南側の路上を提供した。

石巻市には東部地方振興事務所など宮城県の諸機関があり、石巻駅の北にある石巻合同庁舎に入っているが、ここも浸水したので大学への移転を要請され、ほぼ全機関を体育館に9月末まで収容した。復旧に関わる手続きをする被災住民の利益を考えた判断である。

海岸近くにあった石巻赤十字看護専門学校の校舎が著しく損壊したために、今年度いっぱい石巻専修大学に移転している。

復興共生プロジェクト

石巻専修大学では「被災地域の防災と復興に関わる事業を行い、これを通じて石巻専修大学の研究と教育の高度化を図る」という「復興共生プロジェクト」を開始した。地元の2市1町や宮城県、石巻圏域の諸企業、国内外の諸団体と協力して、地域支援、産業支援、講演会・研究会・演奏会などの支援、施設提供、研究(表1)などを行っている。また、本学の震災直後の対応をまとめて、石巻専修大学研究紀要の特別号として発行予定である。


表1 現在進んでいる復興共生プロジェクトの研究


共創研究センター
①研究プロジェクト(石巻市との連携による主な事業)

・石巻専修大学・東日本大震災デジタルアーカイブ制作のための調査研究

・牡鹿半島に生息するニホンジカの北上ルートの解明

・石巻地域における東日本大震災後の教育および教育支援に関する調査研究

・換金作物による農地の塩害および重金属汚染の除去ならびに農家の収入確保に関する研究

・東日本大震災の被災地石巻圏における復興初期のボランティア・ツーリズムの円滑な実施のための条件の研究

・東日本大震災の津波による自動車災害の発生状況調査

・石巻ボランティア情報センターの設立・運営による石巻市復興支援の実証的研究

・生活活動量を基軸とした健康介入プログラムが石巻市高齢者の健康管理度と自己効力感に与える影響

・有用海産微細藻類の大量培養に関する応用研究

・エンジョイ・スーパーサイエンス

②サテライトキャンパス企画(石巻市との連携による主な事業)

・復興活動の関係者の状況報告と意見交換とを目的とした“共生プラザ”の開催

IS奨学研究員(石巻信用金庫からの若手研究者向け研究助成)

・ヒラメ無眼側体色異常の発現機序解明および同防除法の検討

・細胞性粘菌Dictyostelium discoideumのRNA結合性タンパク質DlaAの分子遺伝学的解析

・3Dプリンタ活用による石巻市沿岸部の復元立体模型の製作に関する研究

IK地域研究員(石巻地域高等教育事業団からの研究助成)

・仮設住宅に居住する買い物弱者に対する地域商店街・地域事業者のサービス創出に関する研究

・石巻地区被災体験アーカイブ化と復興まちづくりに関する研究

学外学術研究助成

・小形の風力発電機を大学や住宅に設置しその緊急時電源としての有用性を検証する

・環境調和型の新しい太陽電池の作製と評価


経費のほとんどを学納金で賄う私学として、事業の成果が現在や将来の学生諸君に還元されることを指標に企画を立てている。迅速な対応のため学長と、共創センター長、大学開放センター長が随時相談して運営している。また、若手の教職員にも運営に参加してもらって、後の世代に状況が伝わるようにしている。さらに、プロジェクトの進行状況を伝えるために、学内外で「共生プラザ」を催して、肩の凝らない形で発信している(図1)。

図1 復興共生プロジェクトの概要

図1 復興共生プロジェクトの概要

災害対応拠点としての大学

石巻専修大学は震災直後から復旧・復興に積極的に関与してきたが、これには広大で安全な敷地と頑強な建物、私学ならではの迅速で柔軟な判断、地域連携についての教職員の共通理解、職員と管理会社の高い能力が重要であった。

被災地の最前線に位置する石巻専修大学は被災地域の復興のために住民と共に歩む息の長い活動を進める。そして、こうした活動によってしかできない研究と教育を元にして、これまでになかった形の大学を目指す。