2012年2月号
特集 - 福島 産業創造への扉
福島県ハイテクプラザ
県内ものづくり企業の復興を支援
福島県では、東日本大震災と原発事故により産業活動は大きな影響を受けているが、県の公設試験研究機関の県ハイテクプラザは地域企業を支援するさまざまな取り組みを行っている。平成17年度から、地元企業の要望に基づいて、3カ月程度で製品に直結するような技術を開発する事業を行っている。福島県の清酒は、全国新酒鑑評会で金賞を受賞する数がいつも全国でトップクラス。理由の1つは、県による酵母の開発だ。ハイテクプラザは県内の蔵から集めた多くの酵母を保存しており、津波で流された酒造会社はそれを生かして銘柄「磐城寿」の復活を目指している。
ものづくり復興支援事業
企業の要望に基づき公設試が短期間で技術開発

池田 信也 Profile
(いけだ・しんや)

福島県ハイテクプラザ
企画連携部 産学連携科
専門研究員


平成4年4月に開所した福島県ハイテクプラザは、独立していた福島、会津若松、いわきの各工業試験場を統合・改組し、新たに郡山に中核センターを設立、旧工業試験場を技術支援センターとして再編した、福島県の工業分野の試験研究機関である。

開所から現在まで、県内企業の身近な技術支援機関として、技術相談・移転、依頼試験および試験機器の開放、人材育成、技術開発の4本を柱に活動を続けている。

ハイテクプラザに寄せられる多くの要望の中には、「アイデアはあるが具体的な開発まで持って行ける人材がいない」「技術は持っているが、開発している時間がない」などの理由から、個別企業を対象に短期間に製品に直結するような技術開発をハイテクプラザで行って欲しいというものがあった。これまでにも共同研究や受託研究などの制度はあったが、制度上の制約から「短期間で結果が欲しい」という企業の要望に応えられるものではなかった。

表1 成功事例一覧

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写真1 プランターの設置イメージ(CG)


写真2 原料蜂蜜(栃の木)・発酵中モロミ・ミード製成酒(左から)

そこで、平成17年に「戦略的ものづくり技術移転推進事業 ものづくり短期研究開発事業」という事業を新設し、新たな技術開発事業をスタートさせた。アイデアを企業からいただき、聞き取り調査を経て研究計画や予算の作成をハイテクプラザの職員が行い、3カ月程度で結果を出す。

ハイテクプラザの職員は、いただいた要望に対して、経験と知識を生かし、提案企業の協力を得ながら、ハイテクプラザで所有している機器を最大限に活用することで研究開発を成し遂げており、大規模予算に頼らない解決を可能にしている。

震災後、この事業は「がんばれ福島!産業復興・復旧支援事業」に再編され、「ものづくり復興支援事業 技術開発事業」という名称で企業の災害からの復興・復旧に役立っている。

震災後、事業を再編

写真3 作製したクレヨン(完成品)

震災後は、県内企業の混乱や疲弊もあり、技術開発に関する案件が出てくるか懸念されたが、7月に募集を開始したところ、心配をよそに震災前よりも要望が多く集まり、県内企業の底力を認識したところである。現在、今年度の予算枠25件に対して、1月10日現在、26件の応募があり24件が承認され実施中である(不承認の2件は技術指導等で対応済)。

震災前までに実施されたテーマの中で、実際に製品化されたものや企業の収益に大きく貢献した事例を表1に示す。

デザイン担当部署と連携

写真4 絵付けをした作品


写真5 錐面部のキズ検査装置

概要を説明すると、まず、表1のNo.1のレジンコンクリートの特長を生かしたプランターの開発は、コンクリート製のU字溝や土管を作っている会社から持ち込まれた提案で、駐車場の車止めや仕切りのための大型のプランターの付加機能として、長期間水やりのいらない構造を考案して欲しいとの申請内容であった。詳細な内容の確認のため提案企業を訪問してみると、大型のプランターの場合、周囲の景観などに溶け込むデザインが必要であることなど、保水構造の開発だけでは要望に応えられないことが分かり、デザインを担当する部署と連携して開発を進めることとなった。その結果、最初に給水してから50日間無給水で植物が育成できる保水構造を持ち、コンクリート製では困難な、曲率の小さなR形状のプランターを提案することができた(写真1)。

No.2の蜂蜜酒の製造管理技術の開発については、提案企業が「農商工等連携事業計画」の認定を受けるなどして、コンビニエンスストアのネット販売などでの売り上げが伸びている(写真2)。No.3の加飾クレヨンの開発では、大堀相馬焼協同組合の陶芸教室で、実際に使われていた(写真3、4:組合事務局は原発事故のため避難し、ハイテクプラザに事務局を移設)。また、No.4のバリ取りの研究については、引き続き企業への支援を続けていく中で、特許の出願に至っている。

全体として、表の事例からも、設計法の確立や、工程の改善(写真5)などの提案も含まれており、県内企業からの要望が多岐にわたっていることが分かっていただけると思う。

ハイテクプラザではこの事業を、今後も県内企業の復旧・復興のための重要な事業として位置付け、引き続き事業を行っていく予定である。


清酒酵母開発と被災企業鈴木酒造店「磐城寿」の復活

鈴木 賢二 Profile
(すずき・けんじ)

福島県ハイテクプラザ
会津若松技術支援センター
醸造・食品科 科長

全国新酒鑑評会 日本一を目指して!

平成5年、全国新酒鑑評会において福島県の清酒が13 点もの金賞を受賞した。平成2年には1点も金賞を得ることができなかったのにである。

この快挙の要因の1つとなったのが、平成3年に県が開発した「うつくしま夢酵母」である。当時、“YK35”でないと金賞を取るのは難しいと言われていた。Yは酒米「山田錦」、Kは酵母「きょうかい9号」、35は「精米歩合35%」の意味である。その時代に、吟醸香の酢酸イソアミルを高く生産し、さらに低生酸性である「うつくしま夢酵母」は、まさに画期的な酵母であった。

ただし、何事にも完全ということはない。酒は大ざっぱに言えば、米と水が原料である。この「うつくしま夢酵母」は香りは良いが、造るのは「きょうかい9号」よりも難しい。濃糖に弱いので、すなわち米が想定よりも溶けてしまうと、後半になって発酵力が弱ってしまい、ひどい時は発酵が止ってしまうことさえある。

そこで、福島県酒造協同組合においては、夢酵母委員会を立ち上げ、酒質審査を行い、認定された酒以外は夢酵母清酒としての販売をできなくするという措置を取った。この「うつくしま夢酵母」の純米吟醸酒は当時の吟醸ブームに乗り、好調な販売実績となった。

現在は、平成12年に開発された福島県初の酒造好適米「夢の香」を原料にして仕込んだ酒造りを奨励しており、毎年、県の春の鑑評会で「夢々の部」が開催され、「うつくしま夢酵母」使用清酒のさらなる技術研さんが図られている。

しかし、この間、鑑評会出品用大吟醸酒の酵母が、これまでよりはるかに香りの高いものが主流となり、各県で、これらの高香気性酵母の開発が盛んとなった。日本醸造協会からも「きょうかい1601」酵母、近年では「きょうかい1801」酵母が開発され、香りの主流も従来の酢酸イソアミル系からカプロン酸エチル系へと変化した。このことに伴い、福島県においてもカプロン酸エチル系の酵母開発を試み、平成21年に「うつくしま煌酵母」を開発した。この酵母は、香りが高、中、低の3種類あり、従来の高香気性の酵母よりも発酵力が強く、醪(もろみ)管理が比較的容易なのが特徴である。

この「うつくしま煌酵母」の登場もさることながら、これまで「うつくしま夢酵母」で培ってきた技術が実を結び、福島県は、平成18年の全国新酒鑑評会において金賞受賞数全国1位の栄誉に輝いた。その後も上位に位置し、平成22年の鑑評会においては再度全国1位となった。その後も常に上位の成績を誇り、昨年は、東日本大震災による被災があったにもかかわらず、全国2位の金賞数を獲得することができた。

『磐城寿』~大震災からの復活~

しかし、何よりも悲惨だったのは、この震災により造りができなくなってしまった蔵があることだ。その1つが「磐城寿」醸造元、株式会社鈴木酒造店である。本県双葉郡浪江町にある同社は恐らく日本で1番太平洋に近い蔵で「海の男酒」と呼ばれていたが、10メートルを超す大津波に蔵も主家も酒造道具もその全てが流されてしまった。

写真6 震災前に預かっていた酵母(鈴木専務(右)と筆者)

震災前の1月にたまたまだが、杜氏兼専務の鈴木大介氏から電話で「ウチの山廃酒母の香りが極めて良い。良い蔵付酵母がいるかもしれないから預かって欲しい」との連絡を受けた。さっそく氏から山廃酒母4点が送られ、それをマイナス80℃の超低温冷凍庫に保管した(写真6)。

写真7 2011 年7月に出荷した復興の酒

被災後、氏にその旨を話すと、どうも忘れていたようで、「蔵の一部が残っていた!」と本当に喜んでくれた。さっそく酵母の分離作業を行い、6月には県内の蔵で復興の酒造りを行うこととなった。せっかくなので、まだ、中途段階ではあったが、分離した酵母も加えることにした。ひと月後には良酒が完成、復興のシンボルとなった(写真7)。

その後、鈴木酒造店は、山形県酒造組合からの仲介もあり、山形県にてこの冬から造りを再開した。まだ、酵母の分離は途中段階、さらに選定を行う予定である。

「酒の母」「磐城寿」の酒質を生み出す酵母をいつか見いだし、本当の意味での「磐城寿」の復活を目指したい。