2012年2月号
単発記事
産学連携で生まれた調湿木炭「炭八」
―エアコン使用電力減少の効果を確認―
顔写真

北村 寿宏 Profile
(きたむら・としひろ)

島根大学 産学連携センター 教授
産学連携学会 関西・中四国支部代表



住宅の天井や床下に木炭を敷設して、家の中の湿度を調節できないか――こんなアイデアから地元企業が島根大学と連携して開発した調湿木炭について、事業化後も大学と共同でその利用方法などについて調査を続けてきた結果、大きな省エネ効果があることが分かった。新しい産学連携の在り方である。

はじめに

住宅や住環境の改善につながるようにと10年近く前から島根大学と地元企業・出雲土建株式会社が共同で開発を進めてきた調湿木炭「炭八」に、調湿効果以外にもさまざまな効果があることが分かってきている。その中で、調湿木炭を天井や床下に敷設することにより、エアコンの節電効果が期待できることが明らかになり注目を浴びている。

開発のきっかけから商品化まで

調湿木炭「炭八」*1 が生まれた大きなきっかけは産学官連携である。島根県出雲市にある土木建設業を主な事業とする出雲土建が、島根大学や島根県などと連携して開発に取り組み事業化に至った。

出雲土建は平成12年ごろ、建設業の先細りを見通し、不要な木材を木炭としてリサイクルする事業を新規に立ち上げることを決めた。木炭を調湿材として利用するため、調湿性能に優れた木炭の製造技術の確立、木炭の性能評価、さらには木炭を調湿材として利用したときの効果の検証が必要となり、大学や公的機関の研究所と連携してこれを進め、調湿木炭「炭八」の開発に成功した。

当初は住宅の床下調湿材として「炭八」を製造販売したが、ユーザーからのアンケート結果に基づき、室内用の調湿木炭とその利用方法についての開発を進めた。室内用の調湿木炭「炭八」の効果を調査し、室内の温湿度の変化が穏やかになること、カビやダニの数が減少すること、アトピー性皮膚炎や小児ぜんそくが改善されること、階上からの音が軽減されること等を明らかにするとともに、効果をもたらすメカニズムの解明を進めた。一連の開発においては幅広い分野の専門家を必要としたが、産学官連携を効果的に活用し解決した。島根大学では総合理工学部、医学部、産学連携センターに在席する6名の教員が共同研究を実施した。

これらの研究成果を元に、平成16年に調湿木炭「炭八」を天井や床下に入れた賃貸マンション「炭の家」の提案を行い、現在までの8年間に島根県出雲市を中心に施工している。受注額は約45億円に上り出雲土建の新たな事業に成長している。

調湿木炭「炭八」の省エネ効果の実証
写真1 天井用の調湿木炭「炭八」

写真1 天井用の調湿木炭「炭八」


写真2 エアコンの消費電力の測定風景

写真2 エアコンの消費電力の測定風景

このような開発を続ける中で、調湿木炭「炭八」を住宅の天井裏や床下に敷設することでエアコンの電力使用量を大幅に削減できることを明らかにした。これも、ユーザーが「炭の家に暮らしてからは、夏場にこれまでのアパートよりも涼しく感じる。エアコンをあまり使わなくなった」という声を聞いたのがきっかけである。

出雲土建は島根大学と共同研究を行い、島根県出雲市内のマンションを利用して ①床下と天井に炭八を敷設した部屋(写真1)と ②全く敷設しない通常の部屋とを設けて、それぞれエアコンを20℃に設定し冷房状態で連続運転させその消費電力を比較した(測定は2011年6月に実施)。

写真2に示すように、部屋を閉め切ってエアコンを連続運転し、外気と室内の気温と湿度、エアコンの消費電力を所定の時間ごとに測定し記録した。エアコンの消費電力の経時変化を図1に示した。この図に示すように、エアコンの消費電力は、測定した全期間において木炭を敷設した部屋の方が通常の部屋よりも低く推移していることが分かる。エアコンの消費電力量は、木炭を敷設した部屋では敷設しなかった部屋に比べ、測定した期間の日ごとの平均で約24%少なく、天井や床に木炭を敷設することによりエアコンの消費電力が節電でき省エネに貢献できることが分かった。これは、調湿木炭「炭八」の断熱・蓄熱効果が大きな要因と推測されているが、現在、その原因について解明を進めている。

図1 エアコンの消費電力の推移(木炭を敷設した部屋と敷設しなかった部屋の比較)

図1 エアコンの消費電力の推移
(木炭を敷設した部屋と敷設しなかった部屋の比較)

事業の展開には継続的な連携が必要

出雲土建は一連の事業を行うにあたり、木炭の製造を行う新会社、出雲カーボン株式会社を設立し連携しながら進めている。両社の事業は、床下用調湿木炭「炭八」の製造・販売、天井用調湿木炭「炭八」の製造、賃貸用マンション「炭の家」の受注・施工と展開していった。特に、開発した木炭を活用した賃貸用マンションの提案という出雲土建の本業である建設業に展開したところが大きなポイントであろう。中小企業が事業の多角化を目指すに当たって、新規事業を単独で軌道に乗せることも重要であるが、全体を成長させるために新規事業と本業との連携を行うことも大きな選択肢であることが示された。

この事例では、10年を超えて継続的に大学などとの共同研究を実施し、製品や用途の開発を続けている。このように継続的に産学官連携を実施し、実用化に結び付けて行くためには、企業側が主体的に行動し、学側をリードしていくことが有効であったと考えられる。この事例は、企業側のニーズを明確にし、その解決と製品の性能や効果の検証を学側で進めていくことが、産学官連携が有効に機能する1つのパターンであることを実証している。

大学側では、地元産業の活性化への貢献や共同研究の成果が多くの論文や学会発表につながっただけでなく、研究とは異なる開発に携わることができ、研究分野の広がりのきっかけとなるなどいろいろな面でメリットがあった。

今後もこの調湿木炭「炭八」の開発が産学官連携で続き、新たな展開が生まれることを期待している。

*1
「炭八」ホームページ http://www.sumi8.jp/