2012年3月号
単発記事
イチゴの病害虫を防ぐ装置をキャラクターでPR
―「湯苺あみ」誕生の舞台裏―

湯苺 あみ
(ゆいちご・あみ)

茨城大学

矢内 結香 Profile
(やない・ゆか)

茨城大学 教育学部
教育学部専門員(学務担当)
(元 総務部広報係長)

佐藤 達雄 Profile
(さとう・たつお)

茨城大学 農学部附属フィールド
サイエンス教育研究センター
准教授

友田 和美 Profile
(ともだ・かずみ)

茨城大学 産学官連携イノベーション創成機構 首都圏北部四大学連合担当コーディネータ、知的財産マネージャ

お湯をかけることによってイチゴの免疫性を高める技術を活用し、産学官連携で開発したイチゴの病害虫を防ぐ装置。そのPR に大活躍している茨城大学発のキャラクターはいかにして誕生したのか。


写真1 農場のイチゴにお湯をかける自走式温湯散布装置「ゆけむらー」


こんにちは!
 湯苺(ゆいちご)あみですv。

茨城大学農学部附属フィールドサイエンス教育研究センターの佐藤達雄准教授が、「お湯をかけることでイチゴの免疫性を高める」研究*1で、産学官連携によってイチゴの病害虫を防ぐ新方式の装置・自走式温湯散布装置「ゆけむらー」(写真1)を開発したんだけど、あみはその過程で誕生したんだよ。あみは、熱ショック処理技術「ゆけむらー」、佐藤先生のこの一連のイチゴに関する研究「Hot Strawberry Project」と、熱ショック処理技術で育てたイチゴ「湯苺(商標登録出願中)」を応援するキャラクターとしてPR活動をしています。「ゆけむらー」の開発には茨城県の工業技術センター(試作設計・開発)、農業総合センター園芸研究所(栽培試験)、カンプロ株式会社(製作・現地実証)など、地元の技術が結集してます。装置や処理方法には特許*2も取られているんだよ。実際に「ゆけむらー」を使ったら、なんと農薬をまく回数*3を通常の半分から3分の1に減らすことができました。

「Made in 茨大」

実用技術の研究成果として、「幕張メッセで華々しくデビュー!*4」ってことになったんだけど、「あの広い会場で、目立つような展示ができないかなぁ」と佐藤先生と大学の広報担当が悩んでたところ、突如として先生が「キャラでも作ろうか」とつぶやいたんです。その半年前、オタクパワーで街おこしを狙ったイベント「コみケッとスペシャル5 in 水戸*5」で活躍したキャラクターをパッケージにしたお酒やお菓子はいまでも人気があるんです。それで、初めに考えたのは、「誰に」キャラクターを頼むのかということ。学内のサークル活動の研究会や同好会の学生に声を掛けたら、早速、数人の学生がデザイン画を描いてくれました。どれも真剣に研究内容を調べて、しっかりキャラ設定をしてくれました。選考は佐藤先生と広報担当が主体で行ったのだけど、みんな熱意のある作品ばかりで選ぶのに困ったみたい。

写真2 小学館第4回「大学は美味しい!!」フェアで湯苺を使ったお菓子を紹介する湯苺あみちゃん:コスプレーヤーは教育学部情報文化課程の安彦美咲さん


その中で、今の私の生みの親の学生*6は、こんなキャラクター紹介を作ってくれました。「湯苺あみは、お湯の力で変身し、病原体からイチゴを守る。お湯を浴びることで強くなるが、効果は長続きせずコンスタントにお湯を浴びながら戦う。あみが持っている道具は魔法の杖で、先端がシャワーヘッドになっており、ここから散布される細かいお湯の粒を浴びる。シャワーヘッドは可動式なので使いやすいように動かせる。また、シャワーヘッドの背面は打撃に適してる。お湯を作るための水は杖下部から吸引し、吸引した水は貯水量数リットルの花に貯えられる。水があると花は元気に咲くが、減るにつれて萎れていく」。基になるイラストが出来上がるとさらに3次元へと勢いが増し、コスプレでPRしてもらおうということに。普段からコスプレイベントに参加している学生と演劇サークル所属の学生が、会場でコスプレ衣装を着てくれることになり(写真2)、これで衣装が出来さえすればと思ってたらさらに難関が…。衣装をイラストから立体的に起こすと、どうしても無理な部分が出てしまうんです。ところが、イラスト担当の学生としては生み出したキャラクターの設定は変えてほしくないし、それでは衣装としては着られない。紆余(うよ)曲折を経て、デザイナー、コスプレーヤー、研究者の三者三様の思いがブレンドされ、「湯苺あみ」は誕生したの。妥協するのは難しかったみたいだけど、みんな最後は「Made in 茨大*7」という茨大で生まれた研究を広報するという目標で1つになったという感じかな。

大学ブランドが地域ブランドに

熱ショック処理技術をみんなに使ってもらうには装置があるだけでは難しいし、このイチゴの付加価値の1つはブランド力かな?って「湯苺」という名前を広めることも考えたの。地元の洋菓子屋さん*8と大学で育てた湯苺をケーキに使った時の特徴とかも研究して、おいしい湯苺のお菓子が誕生したわ。学園祭や髙島屋*9、店頭や技術展示*10で試食してもらって市場調査っていうのもしてるみたい。「湯苺」にはまだ分からないことも多いから、佐藤先生は近隣の研究所*11や他の大学と協力して機能分析ももう少しできないかなって考えているところ。実証実験から「ゆけむらー」はイチゴの病害抵抗性誘導だけではなく、熱による殺菌・殺虫効果も期待されているの。燃焼ガスをそのまま炭酸ガス施肥に利用することもできてとってもエコ! でも、栽培にガスを使わない農園や規模の小さな農場のため、もっと幅広く導入の容易な装置になるよう研究開発をしてくれる企業さんとか探してます。

「湯苺あみ」のネーミングは、研究が生まれた「阿見町(茨大農学部)」に由来していて、しっかり生まれたところに愛着を持ってるんだよ。あみの誕生は、学内連携を強め学生の創造性・自発性等を引き出しただけじゃなく、地元産学官連携を促進し、大学ブランドを地域ブランドに育てて農商工の地域活性を支援することにつながったみたい。「あみ」も「湯苺」も学生と教職員が知恵を絞って誕生し、多くの人の協力で全国に広まったの。みなさん、茨城大学の「湯苺あみ」をこれからもよろしくね。

*1
平成19年度科学技術振興機構シーズ発掘試験「熱ショックを利用した農作物の病害抵抗性誘導技術の開発と応用」でイチゴにも効果があることを確認し本格研究をスタート。農林水産省新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業「温湯散布による施設イチゴの農薬使用量削減と保鮮技術の確立」(平成20~22年度)に採択。ほかにも複数の競争的資金により研究を推進。

*2
特許第4863305号「農業用植物の熱ショック処理装置及び熱ショック処理方法」

*3
一般的なハウス栽培で農薬を散布する回数は48回(茨城県の平均的な使用成分回数)。

*4
2010年3月に幕張メッセで開催された農林水産省主催の「アグリビジネス創出フェア2010」にイチゴの温湯散布装置、愛称「ゆけむらー」を出展。

*5
全国を巡回しながら5年に1度開催されるコミックマーケットの祭典。2010年3月21・22日に茨城県水戸市で開催され1,500団体が出展。
http://cmksp.jp/mito/

*6
「湯苺あみ」のデザインは大学院理工学研究科博士前期課程情報工学専攻の佐野充氏。

*7
地元では「茨大」と書いて「イバダイ」と呼ぶ。

*8
農学部近くの龍ヶ崎市にあり地元高級食材や米粉を使ったお菓子の開発も行っている。オーナーの稲田夫妻が大手店で研究開発に携わっていた経験があることから共同研究を実施。湯苺を使った代表的なお菓子に「ぬく森バウム湯苺」や「いいおかお湯苺」などがある。
http://plaisir2010.com/

*9
新宿タカシマヤタイムズスクエアで2011年9月22~26日に開催された全国の大学の研究技術成果を用いた食品を展示販売するイベント第4回小学館「大学は美味しい!!」フェアに出展。

*10
首都圏北部4大学連合(4u)の地域ブランド創出支援の一環として関東圏内での技術説明会、食の安全と健康シンポジウム、ビジネスマッチング等の各種イベントに技術ポスターとともに出展、PR を展開中。
http://www.ccr.gunma-u.ac.jp/4u/

*11
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所