2012年7月号
単発記事
株式会社フローテック・リサーチ
大企業では困難な業務を専門スタッフが推進

武田 伸一郎 Profile
(たけだ・しんいちろう)

株式会社フローテック・リサーチ
代表取締役社長



横浜国立大学発ベンチャー企業である株式会社フローテック・リサーチは、複雑な流体現象をとらえるさまざまなサービスを提供している。規模拡大を追求する大企業とは異なるユニークなビジネス手法とは?

流体現象を解明することは、さまざまな産業分野で開発設計過程における重要な課題である。タービン、エンジン、水車、燃焼器、自動車、空調機器、電子機器、家電、反応槽、医用機器等、その適用範囲は広い。株式会社フローテック・リサーチ(以下、「弊社」)は、横浜国立大学西野耕一教授の研究成果を事業化した大学発ベンチャー企業であり、流体計測に関わる計測システムの開発販売と弊社が開発した計測システムを用いて流体計測のアウトソーシングサービスを実施することを事業としている。

大学発ベンチャーは、技術革新に基づく新産業の創造という期待を持たれているようである。しかし弊社の存在意義は明らかに異なる。企業として離陸しつつある秘訣(ひけつ)は、確かなニーズが存在する大企業では困難な業務を専門スタッフが着実に実施したということであろう。

コンピュータシミュレーション単独では困難な場合も

「流体」という言葉自体がなじみのない方も少なくはないのではないか。あるいは、流体解析という言葉をご存知の方の大半が、コンピュータによる数値計算を思い浮かべるに違いない。実際に近年のコンピュータの演算能力の発展と相まってコンピュータによる流体計算は発達し、企業の開発設計分野に普及している。ところが、コンピュータシミュレーション単独では複雑な流体現象を正確に把握し、解明することが困難であることが実際である。実測、実験による計測により計算結果の検証を行う、あるいは、実測・実験により求められた計測結果をパラメータ化し、計算に反映させることにより信頼性を有するものとなる。

このように非常に重要な流体計測であるが、専門家を要する上に、試行錯誤を要する流体実験業務自体が開発計画に乗せ難く、アカウンタビリティーを要求される近代企業経営に適応し難い側面を持つ。もちろん、大企業は自ら流体計測・実験を行っているが、一部基幹業務に限られるのが通例であるし、流体計測が労力と時間を要し、かつ、これらのコストが測り難い業務であることに変わりはない。ここに弊社の事業である「多次元流体計測ソリューション」のニーズが存在する。弊社は、流体計測の専門家を擁し、計測システムを保有、改良・開発を日々行うことにより、さまざまな流体計測のニーズにお応えすることを事業内容としている。

図1 FtrPIV統合型PIVシステム

現在の代表的な流体計測手法は、PIV(Particle Image Velocimetry)と呼ばれる技術である(図1)。名称にあるように、水や空気などの流体中に微粒子を流し込み、強力なレーザ光などで3次元空間中に2次元断面を生成、微粒子を照射することにより可視化し、CCDカメラ等で微粒子の運動を撮影、コンピュータに記録、微粒子の運動を解析することにより速度を計算するという手法である。光を用いる以上は、光が通らない場は計測できない。

図2 屈折率マッチングの効果

このような問題に対して、流体計測においては、実機だけでなく、形状を実機と同一にした内部を観察しやすくする透明モデルを製作して計測することも多い。ここで光が通るようになっても、光の屈折が発生する場、つまり複雑な形状をした場では、さまざまな問題が発生する。モデルの材料の光の屈折率と流体の屈折率の相違により、内部が明瞭に可視化できない、像が歪んでしまい高精度の計測が困難になることも多い。弊社は得意技術の一つとして、モデル材料の屈折率と流体の屈折率を合致させることにより光の屈折の影響を排除して(図2)、ステレオで、かつ、高速度に計測するという技術を有する*1

図3 エンジンシリンダー内流動計測速度分布図

図3は、エンジンシリンダーモデルにレーザライトシートを照射することにより輪切り断面を生成、複数断面の速度3成分を計測することにより、シリンダー内部の速度3成分をフル解像した事例である。現在は、科学技術振興機構(JST)の支援を受けつつ、トモグラフィーを応用した3次元速度場計測システムの開発を行っている。

規模拡大の要求から離れたもの

大企業がなかなか扱いたがらない業務を対象としている弊社の事業は、規模の拡大という近年のビジネスの要求からも離れたものである。しかし、「計測」という業務が重要な基盤技術であることに異を唱える人は皆無であろう。弊社は現在設立7年に満たない会社である。この間に100年に一度とも称される世界不況に見舞われ、売り上げが低迷する苦境も経験した。支援機関の存在がなければ、存続できなかったかも知れない。国内には、規模の拡大可能性が少なくとも、大企業では事業化を行い難い独自の技術を有する確かなニーズに支えられた中小企業が数多く存在するはずであるし、今後もそのような事業が起業されるべきであると考えている。弊社も含めこのような専門技術を有する中小企業の役割は小さくないはずである。

*1
複雑流路計測のためのダイナミックステレオPIV計測システムは、JSTの平成15年度大学発ベンチャー創出推進事業の一環として開発された。