2012年9月号
特集 - 新産業創造
大学における望ましいライセンス管理の手法
顔写真

中山 俊彦 Profile
(なかやま・としひこ)

あさかぜ特許商標事務所 代表/弁理士



大学の研究シーズや技術を産業界で事業化する場合、「ライセンス活動」の果たす役割は大きい。しかし、大学におけるライセンス管理には多くの課題がある。人材不足、契約になれていない、契約のバリエーションに対応できるノウハウの不足等だ。医学系大学産学連携ネットワーク協議会はワーキンググループを作って、大学等における望ましいライセンス管理の手法について検討を行った。

medU-netライセンス管理ワーキンググループの活動

医学系大学産学連携ネットワーク協議会(略称:medU-net)は、わが国の大学等における望ましいライセンス管理の手法についての指針を示すため、大学関係者、産業界、法曹、知財、会計、官庁の各立場のメンバーで構成するライセンス管理ワーキンググループ(以下、WG)をつくり、2011年11月から約半年にわたり多面的な検討を行った。

本稿では、WGの活動内容について触れつつ、アカデミア、特に医学系大学と産業界との連携におけるライセンス管理上の課題とこれに対する考え方について述べたい。

【medU-netとは】

文部科学省「大学等産学官連携自立化促進プログラム(機能強化支援型)」の活動の一環として、東京医科歯科大学が中心となり2010年6月に設立された。医学系産学連携の推進を目指し議論・企画提案等の活動を行っている(2012年8月7日現在、会員総数186名)

産学連携におけるライセンス管理上の課題

研究を発展させ、これによって社会貢献をすることは大学および研究機関(以下、アカデミア)の使命であり、アカデミアと産業界との連携の必要性はますます高まっている。連携の形態はさまざまであるが、アカデミア発の研究シーズや技術を産業界で事業化する場合、「ライセンス活動」の果たす役割は大きい。

ライセンス契約書の書式集も多く発刊されており、また多くの大学では産学連携推進本部が中心となって契約書雛形を策定している。契約書を作成することだけでライセンス管理が完結するのであれば、適切な管理のための材料は十分に用意されている。

しかし、実際には、雛形にそって契約書を作成するだけでは事足りず、アカデミアの立場からみて、以下の点においてライセンス管理には困難な点がある。

①ノウハウおよびマンパワーの問題

例えば、契約上ロイヤリティ監査権が認められていても、これを実行するための人材・人員を十分に有している大学は多くないのが実情であろう。ライセンシーからの実施状況報告が適時にされないケースがあることも管理に当たっての人材・人員面の問題と無関係ではないだろう。

②契約主体としての“意識”と“慣れ”の問題

大学によるライセンス契約には、大学の研究成果の社会への還元による社会貢献という側面と、研究費用の一部回収・新たな研究費用への充当による知的財産創造サイクル活性化、という側面――という性質の異なる2つの面がある。大学研究者にとって両者をバランスよく契約および契約管理に反映させることを意識すること自体が容易なこととは言えない。また抽象的にそうしたバランス意識を持ち得たとしても、実際の契約行為においてCSR(企業の社会的責任)と事業収益を両立させることに慣れるには多くの時間と経験を要する。

③バリエーションの多さの問題

一口にライセンスといっても、ライセンシーの性質や契約に至るまでの過程はさまざまである。大企業との共同研究開発を経た上でのライセンス契約と、発明者が関与する大学発ベンチャー、TLOのマーケティングにより選定された企業との契約とでは、契約それ自体、ライセンス管理の勘所はおのずと異なってくる。

WGにおける検討事項

WGでは、上記を含めた大学におけるライセンス管理上の問題点について検討を行った。そのうち、「①人材・人員面」での充実については、外部人材を活用するための産学連携人材バンク構想やその前段階としての士師業との連携体制、そのために必要な制度的な手当て(例えばロイヤリティ未収金の回収代行を委託するにあたってのサービサー法上の課題)について話し合われた。外部人材の活用スキームについては、今後さらに検討を加えていく予定である。

一方、「②契約主体としての“意識”と“慣れ”の問題」および「③バリエーションの多さの問題」について、特にアカデミアにおける契約従事者にとって参考となるガイドライン、および契約条項モデルについて取りまとめを行った。その結果として、得られたのが以下の2点である。

1.ライセンス契約についての考え方

この「考え方」では、上記の通り種々のバリエーションが考えられる産学官のライセンス契約にあって、大学と企業間でのライセンス契約の締結に際しての基本方針として共通する点につき、いわば契約当事者としての総論的な“心構え”をまとめたものである。

具体的には、次の4点について記載している。

(1)継続的・発展的なライセンサー/ライセンシーの関係を築いていくために、あらかじめ準備されている雛形をもって足るとするのではなく、双方から必要な説明や資料の提出を行うべき点

(2)不必要なトラブル回避のために、ライセンス契約に係る条件について明記すべき点、特に医療系の技術は事業化の過程で当初想定以上の経済的価値を持つことがあり、事前に認識合わせを行うべき点

(3)契約遵守状況について確認するため、実施報告書を作成すべき点

(4)契約締結後もお互いに疑義が生じたときはすぐに双方で確認すべき点

この「考え方」は、ライセンス契約が、一回的な締結がクライマックスでそれ以降は単なる管理負担なのではなく、むしろ将来に向けた継続的な関わり合いのスタートであるという考えがベースとなっている。これは、一見ごく当たり前のことにも思われる。しかし、産学間のライセンス契約において、こうしたベースとなる考え方を表明しておくことにより、契約に不慣れな主体である大学側としても自らの説明責任を果たし、かつライセンシーへの情報開示を求める契機になるものと思われる。

なおこの「考え方」は、ライセンス契約の相手方企業に対して、基本的な考え方を簡潔に示すことを目的としており、契約締結に際して重要となるポイントを網羅的に示したものではない。

2.ライセンス契約における各条項の規定例

一方、「規定例」はライセンス契約における各条項の考え方につき、規定例とともに各論的にまとめたものである。特にアカデミアがライセンスアウトする際に重要な条項について、目的や状況において使い分けられるよう、複数の規定例を掲載しつつポイントについてコメントを付している。契約主体に応じたバリエーションも記載している。

この「規定例」の意図するところは、ライセンス契約の従事者が各条項の意味合いを正しく把握するための参考書としての位置付けである。特に産学間でのライセンス契約において注意すべき条項について相対的に厚く説明を施したとともに、1つの条項に濃淡異なる規定例を設けた。これにより、提示された契約書案と対比しつつその意味合い、規定振りによる効果の違いを確認することができる。

つまり、この「規定例」も、その記載している条項の規定振りが推奨されるものであることを意味していない。実際の契約に際しては、学内はもとより、適宜専門家の助言を得るなど、適切な手当てを取ることが肝要である。

なおこれらの成果物の詳細については、medU-netのサイトで閲覧することが可能である*1

結語

本稿で紹介した「考え方」「規定例」が活用されることにより、上述のライセンス管理上の問題点が緩和されることが期待される。これにより、産学間のライセンス契約が促進され、結果としてイノベーションの更なる進展に寄与することができれば望外の極みである。最後に、半年超にわたって本WGにご指導・ご協力を頂いた先生方および経済産業省知的財産政策室松岡徹氏に深く感謝申し上げ、結びの言葉に代えさせていただきたい。