2012年9月号
特集 - 新産業創造
健康科学ビジネス推進機構の設立
―健康科学産業の一大拠点の形成に向けて―

南 泰夫 Profile
(みなみ・やすお)

公益社団法人関西経済連合会 産業部


“健康”は、インターネットで検索すると約20億件がヒットするほど、現代人の一大関心事。政府の施策も病気を治す治療医学から病気にならないようにする予防医学にシフトしている中で、健康科学産業は注目を集めている。公益社団法人関西経済連合会では、昨年度から、関西バイオメディカルクラスター健康科学推進会議と連携して、住宅、情報家電、食品、スポーツ用品等、すそ野の広い健康科学産業の振興に向けて、産学官協働で取り組んでいる。

健康とは「単に病気でない、虚弱でないというだけでなく、身体的、精神的そして社会的に完全に良好な状態を指す」ことと定義されている(1946年WHO提唱)。健康の包括的指標である平均寿命では、日本は世界最高水準を誇っているが、生活習慣病の発症率が高齢になるほど高く、寝たきりや認知症の増加が社会問題化しており、“健康寿命”を伸ばし、平均寿命との乖離を縮めることが重要だ。政府の施策では、医療費による財政負担を軽減するべく、治療医学から予防医学(先制医療)へとシフトすることを目指している。また、昨今、健康に関心を持つ人が増加し、生活の一部として定着しているとともに、健康に関するニーズは生活習慣病の予防だけでなく、美容、アンチエイジング、抗疲労(アンチファティーグ)、QOL(Quality of Life)の向上など多様化している。

新成長戦略では、グリーン(環境・エネルギー)、ライフ(医療・介護・健康サービス)イノベーションを2本柱としている。日本が抱える少子高齢化問題にいち早く取り組むことは、新たな産業を育てることにつながり、今後、高齢化社会を迎えるアジア諸国等でもビジネスチャンスが見込まれるとされている。また、第4期科学技術基本計画でも「ライフイノベーションの推進」が主要な柱に位置付けられ、大学、産業界との協働の下、革新的な予防法および新しい早期診断法の開発、高齢者の生活の質(QOL)の向上等、研究開発等の関連施策の重点的な推進が盛り込まれている。

関西における健康科学のポテンシャル

関西にはライフサイエンス研究の拠点が多数あり、さまざまな取り組みが進められている。医薬品業界発祥の地である上に、住宅、情報家電、食品、スポーツ用品等、関連する大手企業も集積している。2011年末に認定を受けた「関西イノベーション国際戦略総合特区」では、未来社会の構築に向けての核心として、①医薬品 ②医療機器 ③先端医療技術(再生医療等) ④先制医療(健康科学) ⑤バッテリー ⑥スマートコミュニティの6分野を重点的に取り組んでいる。

関西経済連合会では、関西地域のライフサイエンス分野のポテンシャルおよび取り組み状況を踏まえ、関西を健康科学産業の一大拠点とするべく、産業振興委員会ライフビジネス専門委員会の下に、産学官が参画する「健康科学産業研究会」*1(以下、「研究会」)を2011年8月に設置した。研究会では、関西バイオメディカルクラスター*2、健康科学推進会議*3と連携して、健康関連製品のエビデンス(科学的根拠)ベースト化(evidence based)の推進および新たな健康科学ビジネスの創造について、シリーズ講演会を開催するとともに、研究会メンバーで検討・討議を行ってきた。

健康科学に関するエビデンス構築、評価支援体制の確立

健康に関心を持つ人が増加しているにもかかわらず、健康関連製品のエビデンスベースト化が進まない理由として、エビデンス構築を支援する相談窓口がないこと、健康関連製品の効果・効能について科学的に検証する専門評価機関がないことが挙げられた。研究会では、その問題を解決するために、関西バイオメディカルクラスター健康科学推進会議と連携して検討を進め、健康科学に関するエビデンスの構築、評価支援体制を確立することとした(図1)。

図1 エビデンス構築、評価支援に係る体制

それは、従来のエビデンス構築に加えて、エビデンス構築に係る実証試験内容の検証を行う機関「健康科学評価・標準化研究部会」(健康科学推進会議)、エビデンス構築のためのワンストップ窓口「健康科学ビジネス推進機構」(以下、「機構」)を立ち上げるというものである。それぞれの機関が独立組織として分立して、従来のエビデンス構築に検証プロセスを追加して発展させることにより、エビデンスの客観性・信頼性をより一層高めて、健康に関心を持つ方々が安心して健康関連製品を購入できる環境づくりを行うことが狙いである。上記体制の確立により、日本、さらには世界に先駆けて、新たな健康科学ビジネスの創造、エビデンスに基づいた評価支援システムを確立し、健康科学産業の一大拠点を形成することを目指していく。

機構の業務の柱としては、健康科学分野におけるエビデンス評価支援、健康科学ビジネス創出支援、人材育成・普及啓発等のその他の健康科学ビジネス推進の大きく3つを挙げている。具体的には、エビデンス構築のためのコンサルティング、エビデンス評価支援、健康科学ビジネスアワード、ビジネスマッチング、実証試験支援、健康科学ビジネス人材の育成、ヘルスケアイベントの開催等としている。

2012年6月29日、そして、7月31日、機構の設立に向けて、設立発起人、健康科学産業研究会、健康科学推進会議、設立準備会事務局の産学官で構成された機構の設立準備会を開催し、設立趣意書(案)、事業計画(案)、規約(案)について、活発に議論を行ったところである。引き続き、おおむね月1回程度の設立準備会を経て、10月をめどに機構の設立総会を開催する予定としている。

*1
健康科学産業研究会
[主査]渡辺恭良(理化学研究所分子イメージング科学研究センター長/大阪市立大学大学院医学研究科システム神経科学教授/関西バイオメディカルクラスター健康科学推進会議議長)
[アドバイザー]卯津羅泰生(淀川キリスト教病院事業統括本部局長付課長)
【産24社】アサヒフードアンドヘルスケア㈱、江崎グリコ㈱、大阪ガス㈱、オムロンヘルスケア㈱、オリックス㈱、カネカ㈱、関西電力㈱、サントリーウエルネス㈱、シャープ㈱、積水ハウス㈱、㈱大広、大和ハウス工業㈱、田辺三菱製薬㈱、㈱デサント、西日本旅客鉄道㈱、㈱日本トリム、ハウス食品㈱、パナソニック㈱、 ㈱日立製作所、富士通㈱、ミズノ㈱、三菱商事㈱、㈱村田製作所、ロート製薬㈱
【学】堀洋(神戸大学連携創造本部客員教授、千里ライフサイエンス振興財団総括調査役、関西バイオメディカルクラスター健康科学推進会議議員、事務局長)
【官】近畿経済産業局、大阪府、大阪市、兵庫県、神戸市、京都市

*2
関西バイオメディカルクラスター:文部科学省・経済産業省によって産学官協働の重点支援地域として選定された「グローバル産学官連携拠点」の1つ。

*3
健康科学推進会議:関西バイオメディカルクラスターの中に設置された健康科学に関する評価科学の確立と合理的な規制科学の整備等を目的としたアカデミア側の会議体。