2012年9月号
特集 - 新産業創造
海外にも広がる旭川医大の遠隔医療ネットワーク
顔写真

吉田 晃敏 Profile
(よしだ・あきとし)

旭川医科大学 学長



早くから遠隔医療に取り組んできた旭川医科大学は、そのシステムの改良を重ねるとともに、ネットワークを広げ、これまでに国内50医療機関、海外9医療機関(4カ国)を支援してきた。遠隔医療の実施件数も増加している。

旭川医科大学は、インターネットが普及する以前から、ICT(情報通信技術)を活用して遠隔地の医療従事者および患者を支援する遠隔医療を実践しており、地域間の医療格差の解消に大きく貢献している。また、中国政府からの協力要請により、遠隔医療を中国全土に普及させるための支援も開始した。

眼科学講座が関連病院へ遠隔医療支援を開始

北海道は、従来から専門医不足や医師の偏在化が深刻な問題となっており、患者が適切な治療を受けることが困難な地域が少なくない。そのため、医療サービスや医療技術水準に関して地域間の格差を解消することが長年の課題であった。これを解決するため、旭川医科大学眼科学講座は、1994年に遠隔医療システムを開発し、関連病院眼科からリアルタイムに伝送される患者の眼球像を見ながら診断や手術を支援する遠隔医療を開始した。

最初の遠隔医療システムは、CCDカメラ(SDTVフルカラー、30 frame/sec)で撮影した眼球像をISDN回線INS net64(64 kbps)で伝送するものだった。しかし、帯域不足によって眼球の色や細かな動きは再現されなかった。その後の技術改良により、INS net64×3回線(192 kbps)での伝送が可能になり、画像品質は改善されたものの、伝送フレームレートは15 frame/secが限界であった。そこで1995年、INS net1500(1.5 Mbps)に対応したCODEC(データを双方向にやり取りできる装置)を開発し、30 frame/secでのリアルタイム伝送を実現した。このシステムは、13カ所の関連病院が導入し、現在の遠隔医療システムに更新する2005年まで活躍した。

国内初の遠隔医療センターを開設

1999年、旭川医科大学病院に遠隔医療センターを開設し、眼科以外の診療科でも、順次、遠隔医療を実施できる体制を構築した。その後、安価で高速な通信回線と高精細画像(HDTV)に対応したテレビ会議システムが普及し始めたことから、2005年にセンター内の全システムをIP化・デジタル化・高精細化し、低コストで拡張性のある遠隔医療ネットワークを再構築した。このネットワークは、VPN(特定のユーザーが、通信のセキュリティを確保した状態でインターネット回線を利用するための技術)によって安全性を確保しており、これに参加する医療機関のほとんどは、光回線(実行速度は10 Mbps程度)でVPNに接続している。一方、眼科学講座が中心となって研究開発してきた3D-HDTV対応の遠隔医療システムも完成し(写真1)、支援先医療機関の設備に合わせて2D映像・3D映像を選択できるようになった。以来、遠隔医療ネットワークは拡充し、これまでに国内50医療機関、海外9医療機関(4カ国)を支援してきた。

写真1 旭川医科大学の眼科専門医が3D-HDTV遠隔医療システムを使用して
遠隔診断支援を行っている様子

図1 遠隔医療センター開設(1999年)以降の
遠隔医療実施件数

ネットワークの拡充に伴い、遠隔医療の実施件数も増加している(図1)。眼科では、年間200~300件の遠隔診断支援を行っており、必要に応じて複数の医療機関と同時に交信する多地点カンファレンスも実施している。また、眼科と耳鼻科の境界領域である涙嚢手術を遠隔地にいる眼科医が執刀し、その支援を本学の耳鼻科医が行うなど、診療科間の連携による遠隔医療も実施している。放射線部が実施する遠隔放射線画像診断は、読影依頼が年々増加しており、今では年間2,500件以上の診断を行っている。また病理部では、地方の病院で手術中に摘出した病理組織を、本学の病理医がリアルタイムに診断する術中迅速遠隔診断を年間50件ほど行っている。

退院患者の在宅フォローアップ

糖尿病などの生活習慣病患者は、退院直後の食事・栄養の管理が最も重要となる。しかしながら、その管理を患者自身に委ねるしかなく、自宅に戻ってから病状が悪化するケースも少なくなかった。そこで2007年からは、退院後の在宅患者を遠隔からフォローアップする遠隔在宅医療支援サービスも開始した(写真2)。具体的には、サービスを希望する患者に、在宅支援端末と血圧計・体重体組成計などのバイタル測定器一式を貸与し、患者が自宅で測定する日々のバイタルデータを医師・看護師が病院からチェックしている。また、バイタルデータが急激に変化した時は、テレビ電話機能を使用して患者の容体を確認している。在宅支援端末は、本学が独自に開発したものであり、タッチパネルディスプレイ一体型のパソコンと、操作性を重視したアプリケーションソフトウエアで構成する。バイタル測定器は、Bluetooth(デジタル機器用の近距離無線通信規格の1つ)に対応した機器を採用しており、測定データの自動登録が可能である。このサービスを始めたことで、通院中から退院後(自宅療養中)まで、患者に対する切れ目のない医療支援が可能となった。

写真2 在宅支援端末のテレビ電話機能を利用して旭川医科大学の担当医(左)が
70km以上離れた地域に住む在宅患者(右)をフォローアップしている様子

中国が旭川医科大学の遠隔医療を採用

都市部と農村部の医療格差問題を抱える中国政府からの協力要請で、2011年5月、中国衛生部との間で「中日遠隔医療プロジェクト無償援助協定」を締結した。この協定は、本学が有する遠隔医療センターの運用ノウハウや3D-HDTV遠隔医療システムに関わる技術を、中国国内4カ所の遠隔医療モデル病院(北京市、上海市、四川省、陝西省)へ提供し、それを中国全土へ普及・展開させるというものである(図2)。

図2 中日遠隔医療プロジェクトの全体構成

まず、遠隔医療モデル病院から8名の研修者を受け入れ、運用面・技術面での指導を実施した。その後、各病院が遠隔医療センターを設立し、本学と4カ所の遠隔医療モデル病院を結ぶ国際間遠隔医療ネットワークが完成した。そして2012年5月、5拠点間で同時にプロジェクト始動式を開催した。この時、遠隔医療モデル病院(北京市、上海市)で実施している手術のライブ映像(3D-HDTV)が本学へ伝送され、式典に出席した全員が3Dメガネをかけて視聴した。現在、中国衛生部や遠隔医療モデル病院と連携しながら、中国国内における遠隔医療の普及活動を支援している。