2012年9月号
特集 - 新産業創造
被災地の皆さまへ
次の世代のために新しい医療を創造
顔写真

山本 雅之 Profile
(やまもと・まさゆき)

東北大学 東北メディカル・メガバンク機構長



東日本大震災の復興事業である東北メディカル・メガバンク事業の柱は、宮城・岩手両県の住民の協力を得て、遺伝情報を預かり、長期にわたって健康情報を追跡すること。追跡調査の対象として15万人を想定し、10年間の計画で取り組む。最先端の研究としても注目されているプロジェクトである。

2011年の東日本大震災から1年半、私ども「東北大学 東北メディカル・メガバンク機構」の関係者一同は決意を新たにしています。大震災で宮城県沿岸部の6つの公的病院が流され、地域医療は崩壊の危機に瀕しました。この災害から立ち直り、創造的な復興を成し遂げるために、私どもは“未来型の地域医療モデル体制”を提案し、国の支援を得て、今年2月から10年間の計画で事業に取り組んでいます。

東北地方では、震災以前から医療過疎が叫ばれてきました。被災地の医療施設を新たに建設・復旧するだけでは、本当の医療復興・再生になりません。医療は日進月歩です。私どもの機構は、皆さまの子や孫の世代が最高の医療を受けられるようになるとともに、研究や医療活動が地域の新しい産業創出にも結び付くような創造的な復興の拠点を目指しています。東北メディカル・メガバンク事業は、「岩手医科大学 いわて東北メディカル・メガバンク機構」とともに進めます。

遺伝情報を預かり健康情報を追跡

事業の柱は3つあります。1つ目は、被災地を含む宮城・岩手両県内に住む皆さまの協力を得て、遺伝情報をお預かりしつつ、長期にわたって健康情報を追跡することです。長期健康調査の方法は「3世代調査」と「地域住民調査」があります。「3世代調査」は、宮城県の新生児とその両親、さらに同居する祖父母を対象にするものです。約7万人の方々に協力をお願いしたいと思っています。いまひとつの「地域住民調査」は健康診断などの機会を通じて、多くの方を追跡するものです。対象は太平洋沿岸部を中心にした地域で、宮城、岩手両県で合わせて8万人を想定しています。調査で得られた遺伝情報と健康情報は、東北大学に設けられた保管センターで厳重に保管された上で、世界中の研究者によって解析されます。その結果は未来の医療づくりに役立てます。

2つ目の事業は、医療情報を地域で活用できる仕組みをつくることです。情報通信技術を活用するので、医療データが二度と災害で失われることはありません。データはネットワークで結ばれるので、地域内のどこでも同じ医療を受けられます。遠隔地の専門家も参加したチーム医療も可能になります。一方、一人ひとりの遺伝情報に合わせて、同じ病気でも違う投薬や治療方法をとることができます。いわば「オーダーメイド」の医療です。同時に、一人ひとりに最適な生活習慣の改善方法など「予防」も個別化が可能です。

3つ目の事業は、高度専門人材を育てることです。この調査プロジェクトの中核になるような人材(高度臨床研究支援者)を対象にした大学院修士課程のコースは既に設けていますし、2013年度から遺伝カウンセラー(遺伝情報を患者さんなどに伝え、共に考える役割を担う職種)、バイオインフォマティクス科学者・バイオインフォマティシャン(生命科学の膨大な情報を情報科学的に扱う専門家)、その後も、サイエンスコミュニケーター(科学について社会と双方向にコミュニケーションをする役割の職種)らの育成を始めることを計画しています。

地域医療支援の役割も

東北メディカル・メガバンク事業には、地域医療を支援する役割も期待できます。

国家試験に合格した医師は一人前になるのに10年くらいかかります。しかし、研修制度の変更により研修医は大都市の有名病院に集中しがちであり、このことが地方の医師不足を生んでいます。私は、若い医師の研修期間に、東北メディカル・メガバンク事業を組み込めないかと思っています。被災地で働いてみたいと思っている研修医は少なくありません。一方で、彼らは大学病院などでの最先端医療の勉強もしたいとも考えています。両方の希望を叶えるのが東北メディカル・メガバンク事業の計画です。「地域病院」でしばらく活動したら、次は「大学(大学院医学系研究科)・大学病院」で活動、そしてまた「地域病院」へ――というように医師がチームで交代する循環型医師支援システムの整備が目標です。

世界最先端の研究

女川町にある東日本大震災の慰霊碑を参拝

多くの方々から遺伝情報をお預かりし、健康情報を長期に追跡するわれわれの調査は世界最先端の研究でもあるのです。世界を見渡すと、病院に来た患者さんを対象にした遺伝情報・健康情報追跡調査はいろいろありますが、大規模な住民調査は珍しいのです。こうした先進的な調査、研究から、医療を東北の新たな産業の柱にしたいと思っています。

私は、今年の春以来、被災地の各地を訪問し、私どもの事業への協力をお願いしています。一方で、効率よく質問し、検査するにはどういう内容にしたらいいのか、などについても検討を重ねてきました。皆さまに協力していただくことによって、初めてこの事業を進めることができます。

私どもの機構の略称は、英語名(TOhoku Medical Megabank Organization)から採った「ToMMo(とも)」です。地域の皆さまと共に歩みます。

子や孫の世代のため、東北の新たな産業創出のため、東北の創造的復興のため、皆さまのご協力をお願い申し上げる次第です。

(本文構成:本誌編集長 登坂和洋)