2012年9月号
特集 - 新産業創造
干物製造法開発で三陸水産支援
―酸化抑制にハーブ抽出物―
顔写真

三浦 靖 Profile
(みうら・まこと)

岩手大学三陸復興推進機構 水産業復興推進部門 水産新素材・加工技術・加工設備開発班長、農学部 教授


岩手大学三陸復興推進機構は水産業の復興支援もテーマにしている。1年以内にある程度成果が出せる案件の1つとして、天日乾燥の代替として、高品質な乾製品を効率よく製造する手法の開発を行っている。代表的なハーブで、脂質の酸化抑制効果のあるローズマリーの抽出物を用いている。「ハーブ干物」としてブランド化を目指している。

岩手県沿岸地で水産学分野の研究・開発を進めてきた北里大学が、東日本大震災での設備・施設被害により一時撤退を余儀なくされたため、その代わりの役割が岩手大学に期待されている。そこで、2011年10月に「岩手大学三陸復興推進本部」を立ち上げ、地域のニーズを最優先して復興支援の取り組みを行うとともに、「釜石サテライト」を設置し、三陸沿岸中部の被災自治体を対象に積極的に情報の収集・提供を行ってきた。2012年4月1日からは、各部門に専任教員・研究員等を配置し、全学組織の「岩手大学三陸復興推進機構」に改組した。また同月には、三陸沿岸北部の被災地自治体のニーズを汲み上げるため「久慈エクステンションセンター」を設置した。そして、東日本大震災直後から掲げてきた「『岩手の復興と再生に』オール岩大パワーを」のスローガンのもと早期復興を目指している。

SANRIKU(三陸)水産研究教育拠点形成事業に着手

岩手大学三陸復興推進機構は6部門(教育支援、生活支援、水産業復興推進、ものづくり産業復興推進、農林畜産業復興推進、地域防災教育研究)で構成されている。そのうち水産業復興推進部門は、水圏環境調査班、水産・養殖班、水産新素材・加工技術・加工設備開発班、マーケティング戦略班の4班で構成され、東京海洋大学および北里大学と連携する体制をとっている。このうち「水産新素材・加工技術・加工設備開発班」は、機能性成分の探索、熱・物質・運動量移動の解析、装置・設備の効率化および水産関連作業の分析・伝承、食品加工技術の革新を担当している。

「今日の一円、明日の百円、明後日の一万円」構想

東日本大震災で壊滅的な被害を被った水産加工設備・施設を再建するためには、多大な費用と日数を要する。そこで、早期になりわいを再生させつつ、水産資源の生産・加工技術を革新することを目指している。すぐに着手し、1年以内にはある程度の成果が出せる案件を「今日の一円」、1年以内には着手し、若干の研究・開発(R&D)が必要な案件を「明日の百円」、さらに、2~3年以内には着手し、本格的なR&Dが必要である案件を「明後日の一万円」と呼ぶことにした。この順序あるいは並行させてR&Dを進めることにより、水産業再生・復興を早期に実現するように努めている。

「今日の一円」から着手

筆者は、これまでに陸生食品素材を主な対象にして製造・保蔵・品質評価に関して研究してきており、水生食品素材で研究したことがあるのは魚肉すり身や生ワカメ、生ウニくらいである。本事業では、低経費で収入を得ることが期待できる乾製品から着手することにし、天日乾燥に替わって、高品質な乾製品を効率よく製造する手法の検討を開始した。他産地品よりも安価かつ高品質(脂質酸化が抑制され、食塩含量が低く、保存性が良好)な製品を「ハーブ干物」としてブランド化するのが目標である。

低温除湿乾燥法による魚介乾製品の試作と試験販売

乾製品は、水分活性(保存性の指標)を低下させて保存性を向上させ、生鮮品にはない独特の風味を付与するために製造されている。しかし、製造中に酵素反応や化学反応が進行するために、低温・短時間での加工、酸化防止剤の使用が必要になるばかりでなく、微生物汚染の危険性が高いために、洗浄・殺菌などの前処理や、清浄な環境での加工が必要である。

筆者らは、食塩を水分活性低下剤としてではなく、適度な塩味を付与する調味剤と位置付け、水分活性の低下ならびに内在酵素を失活させるための食品素材としてグルコン酸塩を選択した。さらに、脂質の自動酸化を抑制するためにローズマリー(ハーブの1種)抽出物を用いている。乾燥方法には、低温除湿乾燥法を適用し、段階的に設定した低温・低湿の低速気流中で、原料表層からの水の蒸発速度と内層から表層への水の拡散速度の均衡を図りつつ乾燥させている。

ホッケ乾製品「ハーブ干物」製造の浸漬工程と低温除湿乾燥工程



ホッケ乾製品「ハーブ干物」の試験販売

まず、有限会社北三陸天然市場(岩手県久慈市)から三陸沖産原料の提供を受けて乾製品を試作し、3月28日に「北三陸天然市場 本宮店」でホッケ乾製品を試験販売するとともに風味、食感、販売価格および商品名についてアンケート調査した。商品名を再考する必要があったが、風味および食感は良好と評価された。その後は、ハーブ干物の優位性を確認するために、他産地品の水分活性と過酸化物価(脂質劣化の指標)を測定してデータ蓄積するとともに、原料漁獲時期の関係から、生イカへの低温除湿乾燥法の適用も検討している。そして、乾製品を実需レベルで製造するための低温除湿乾燥器を開発し、来春には本格的に製造・販売したいと考えている。

現在を水産加工業革新の好機と捉え、科学的根拠に基づいた製造方法を開発し、津波被害地域へ提案・定着することにより、水産加工業復興の一助になればと考えている。