2012年9月号
特集 - 新産業創造
有機エレクトロニクスの新しいコンセプト
塗る太陽電池を開発した株式会社イデアルスター

藤川 昇 Profile
(ふじかわ・のぼる)

独立行政法人科学技術振興機構
産学連携展開部
産学連携グループ 産学連携アドバイザー


大学等との連携で、有機エレクトロニクスデバイスの新しいコンセプトの製品を提案している研究開発型ベンチャー企業のイデアルスター。金沢大学および東京大学との連携で開発した「塗る太陽電池」(有機薄膜太陽電池)は企業と組んで2カ所で実証実験を行っている。

東日本大震災により試験研究機器等に大きな損傷を受けながら、いち早く立ち直り、産学連携を基軸にしてユニークな有機薄膜太陽電池(塗る太陽電池)を開発し、圧電事業に意欲的に取り組むハイテクベンチャー企業があると聞き、その秘密等を探るべく、篠島義明社長および表研次副社長(技術担当)にお話を伺った。

はじめに

株式会社イデアルスターは、2002年に繊維エレクトロニクスデバイスの研究開発を目指して設立されたベンチャー企業である。

写真1 塗る太陽電池(有機薄膜太陽電池)

大震災を乗り越えて10年経た現在、塗る太陽電池(有機薄膜太陽電池)(写真1)、繊維形状の有機エレクトロニクスデバイスをはじめとして、高分子圧電材料を用いた有機デバイス、強誘電性高分子単結晶フィルム、不織布圧電材料など、新しいコンセプトの製品開発を行っている。

同社の経営理念は、「社会が必要とする価値を、知恵と科学技術を駆使し、現実のものづくりを通して提案し続ける」ことにより「新しいかたちの開発型企業を創生する」としている。

具体的には、同社の原点とも言うべき「高分子単結晶透明フィルム」に関するコア技術を基に、多くの大学および大企業と連携しながら、大企業も欲しがる「ものづくり」を心掛けている。

塗る太陽電池(有機薄膜太陽電池)、編む太陽電池(繊維形状の有機太陽電池)

新しいコンセプトの製品を次々に生み出す背景には、技術力をベースにした「開発・試作」事業展開に対する見識と技術の冴えがある。さらに外部の大学、研究所からの協力体制も充実しており、有機薄膜太陽電池については、金沢大学理工研究域サステナブルエネルギー研究センターの高橋光信教授の研究室、東京大学大学院理学系研究科の松尾豊教授の研究室、繊維形状の有機太陽電池については、静岡大学、金沢大学、慶応義塾大学、東北大学、九州産業大学、小林理学研究所の協力を得ている。

これらの太陽電池は、ナノテクノロジーの代表的な物質の1つであるフラーレンを電子受容体(アクセプター)として用い、有機発電材料を電子供与対(ドナー)とすることによりその機能を発現させている。

最も進んでいる有機薄膜太陽電池は、今年はじめ、JR東日本と、JR日光線鶴田駅舎の屋根での実証実験を、製造部門を受け持つ株式会社倉元製作所(栗原市)と、東北新幹線くりこま高原駅前のバス停屋根での実証実験を、それぞれ始めている。

一方、同社の技術ポテンシャルを頼りに、大企業を含む幅広い分野の企業から試作依頼が相次いでおり、応用に関するさまざまな試作品を提供している。

なお、知財については、コア技術である高分子単結晶透明フィルムに関する基本特許は保有するものの、試作を依頼された応用製品に関する特許は依頼先に委ねることとしている。この戦略により、幅広い企業との継続的な取引関係を構築している。

力の源泉

取材で見えてきた“力の源泉”は、次の3点に集約されると考えられる。

1.表副社長の先見性とコア技術の絶え間ない深掘りにより技術の優位性を確保し、マーケットを見据えた「開発・試作」に特化した事業展開を進めていること(事業化リスクの軽減、少額の設備投資、少ない人員で対応する)。

2.高い技術ポテンシャルを基に大学等との幅広い緊密なネットワークを形成するとともに、弾力的な知財戦略により顧客企業との信頼関係を構築していること。

3.研究開発力の強化のため、国や自治体の公的資金を積極的に活用することにより、技術リスクの軽減を図るとともに社会的信用を向上させていること。

取材を終えて

大震災で大きな打撃を受けたベンチャー企業であるにもかかわらず、いち早く立ち直り、学界、産業界からの強い支持を得て目覚ましい事業展開を可能にしているのは、ユニークなコンセプトを打ち出すことができる技術力を基にして、外部との信頼関係の構築に格別の意を用い、連携を積極的に進めていこうとする姿勢にあると考えられる。

このような事業戦略を可能にしているのは、同社の篠島社長の柔軟な経営判断と表副社長の高い技術的ポテンシャルの組み合わせにあると思われる。

今後、多くの大学、企業との信頼関係を基盤に生きる東北のハイテクベンチャーが、それこそ東北復興の「スター」に育つことを期待したい。

(株)イデアルスター

本社宮城県仙台市青葉区南吉成6-6-3 ICRビル
設立2002年(平成14年)9月
資本金1億6百万円
事業有機太陽電池、有機圧電デバイス、有機エレクトロニクスデバイスのR&D
売上高8千4百万円(2011年)
役員代表取締役社長 篠島義明
代表取締役副社長 表 研次 他4名
従業員5名  顧問9名

篠島 義明 社長

略歴

東京大学法学部卒、通産省(経産省)生活産業局長、三菱信託銀行顧問、三井造船(株)専務取締役、基盤技術研究促進センター理事長など歴任。2003 年(株)イデアルスター顧問、2010 年前社長の後を受け代表取締役社長

表 研次 副社長

略歴

山形大工学研究科(工学博士)、アルプス電気(株)にて量産ライン立ち上げ、製品設計開発に従事、2002年(株)イデアルスターを設立、2005年副社長 静岡大学客員教授(電子工学研究所)