英語画面へ(English)

2013年1月号
特集1 - 日本のがん研究から標的薬
インタビュー 自治医科大学 教授 間野博行 氏
がん治療新時代 新手法で原因遺伝子を特定

2011年8月、米国で大手製薬会社ファイザーの肺がん治療薬クリゾチニブ(商品名「ザーコリ」)が承認された。治りにくい非小細胞肺がんのなかで、EML4-ALKという変異遺伝子を持つ患者を対象にした飲み薬である。その後、各国で上市され、日本でも2012年3月に承認がおりている。アジアでは最初に韓国で臨床試験が行われた。その当時、自治医科大学の間野博行教授は、重篤な青年の患者をその臨床試験に送り出した。「あと2週間生きられるかどうか」という状況だったが、間野教授が2週間後に渡韓したときには元気に回復し、毎日おいしい韓国料理を楽しんでいたという。

この薬が開発されたきっかけは、間野教授が2007年にこの肺がんの原因遺伝子を発見し、Natureに発表したことだ。製薬会社が一斉に治療薬の開発に乗り出し、最初に承認されたのがファイザーの薬だった。治療の標的の発見からわずか4年で治療薬が承認されたのは、世界のがん治療薬開発の歴史で最速だ。この薬の驚くべき有効性が評価されての結果である。

間野教授はがん遺伝子を発見するための新しい遺伝子スクリーニング法を開発し、EML4-ALKはこの方法で見つけたものだ。新しい手法による原因遺伝子の発見は、がん治療における分子標的療法の可能性を広げ、がん治療の新時代の扉を開くものと言われている。間野教授に聞いた。

(聞き手・本文構成:登坂和洋)

患者さんを救える研究をしたい

30年ほど前、私は内科医としてスタートしました。研修医として最初に診た方は白血病、血液のがんの患者さんでしたが、治療の甲斐もなく亡くなられてしまいました。そのとき、病理解剖といって、何が原因で命を落としたかを調べる解剖を行わせていただきました。その結果、その方を死に至らしめたのは、白血病そのものではなくて、その治療に使ったお薬のために免疫力が落ちて、それで全身にかびが生えて命を落としたことが分かりました。

がんの治療法って、こんな形のままでは駄目だと強く思いました。結局、最初の患者さんでの経験が、その後の私の人生を決めたような気がします。その患者さんに出会ったおかげで、自分はがん研究をやろうと思いました。それから血液のがんである白血病とか悪性リンパ腫の遺伝子解析の道に進んでいったわけです。

40歳になった時、自治医科大学で自分の講座を持つことができました。それまでたくさん論文を書いたし、遺伝子も新しいものを発見した。しかし、それによって患者さんの命が直接救われるようなことは全くなかった。自分がやってきたことはそんなに役に立っていないなという、内心じくじたる思いがありました。せっかく自分の講座を持ったんだから、しかも医者が臨床をやめてまで研究をしているんだから、患者さんを救える研究はできないものかと、その時強く思いました。

「グリベック」と「その他」

がんのお薬って星の数ほどありますが、本当に目覚ましく効くお薬、例えばそのお薬を飲むこと、あるいは注射することによって、がんが全てなくなるというような薬はほとんどありません。ほとんどないというか、まずない。ただ、当時、奇跡のようなお薬がたった1つだけあって、それがグリベック、化学名はイマチニブというお薬でした。

それは慢性骨髄性白血病に対するお薬です。われわれの正常な細胞の増殖をつかさどる重要な酵素があります。ABLという酵素ですが、それが染色体転座の結果、BCRという遺伝子とつながってしまってがんの原因になっています。それが慢性骨髄性白血病です。染色体転座というのは、染色体が一部切れて別の場所とつながって、異常な染色体ができることですが、ある染色体の切れる断面上にABLがいて、別の染色体上の切れる断面上にBCRがいるために、それがつながってしまうと、2つの遺伝子がくっついて新しい遺伝子になってしまいます。

もともと、そのABLという酵素が正常な細胞を増やす力を例えば1だとすると、BCRとつながることによってそれが例えば1,000とか極端に活性化されて、細胞の増殖をオンにしっ放しになるような遺伝子ができてしまいます。そのABLという酵素を抑える、ABLを選択的にブロックするようなお薬がイマチニブ、商品名がグリベックというお薬なんです。それは本当にものすごくよく効くんですよ。

当時、抗がん剤は世界的にみても、奇跡のように効く「グリベック(イマチニブ)」と「その他」という感じでした。グリベック以外は、いろいろ組み合わせて、たくさんの副作用を出しながら、ある程度効くという一般の抗がん剤です。私は、どうしてグリベックだけがこんなに効いて、第二のグリベックがなかなか出てこないんだろうと考えていました。そこには何か理由があるはずで、それを見つければ、日本でも第二のグリベックのようなお薬がつくれるんじゃないかと思ったわけです。

本質的な増殖原因遺伝子

私は、恐らくグリベックが抑えようとしているBCR-ABLという異常酵素が、その慢性骨髄性白血病の本質的な発がん原因、本質的な異常増殖の原因だからだろうと考えました。いろんな抗がん剤が目覚ましくは効かないのは、それが抑えているものががんにとって“ある程度”重要だけども、なくてはならないものではないからだ。がんはゲノムの不安定性を利用していろいろ異常なクローンたちをつくりますから、そういう“ある程度”重要なものであれば、それがなくても生きていけるようなクローンさえ用意してやれば、がんは乗り越えることができる。多分それが一般の抗がん剤治療で起きていることなんです。標的としているものが、がんをがんたらしめている本質的なものでないから、がんはそれをエスケープする道を探すことができるのです。

だけど、BCR-ABLの場合には、それこそが慢性骨髄性白血病をそれたらしめている増殖原因なので、BCR-ABLを抑えてしまうと、もうがんは死なざるを得ないだろうというふうに思ったわけです。

もしその仮説が正しければ、われわれに必要なことは、それぞれのがんにおけるそういう本質的な増殖原因遺伝子を見つけることだろう。それを見つけて抑えれば、それぞれのがんに夢のような治療薬がもたらされるだろう。ではなぜ特効薬ができていないかというと、それぞれのがんにおける本質的な増殖原因遺伝子が分かっていないからで、何で分かってないかというと、異常遺伝子を見つける技術が世界にないからだと思ったわけです。その時、じゃあ自分たちの手でそれぞれのがん種における本質的な発がん原因を見つけることができるようなテクノロジーをつくろうと考えました。それは一見遠回りに見えるけど、結局それが一番近道だろうと。それがちょうど40歳ぐらい、ここで自分の講座をつくった時に思ったことです。

新しい遺伝子スクリーニング法

そのテクノロジーをつくり始め、3年ぐらいでがん遺伝子を発見するための新しい遺伝子スクリーニング法を開発しました。もともと私は血液内科医ですけど、人間のがんの死亡の最大の原因は肺がんですから、まず肺がんを解析ターゲットにしました。肺がんの患者さんの検体を使って、その技術を応用して、本質的な発がん原因を探す実験を行ったところ、先ほどお話ししたBCR-ABLと全く同じタイプの「細胞の増殖をコントロールしている酵素が、染色体転座の結果、別のものとくっついて発がん原因になっている」ものを見つけたわけです。それが今回のEML4-ALKという異常遺伝子です(図1)。

図1 肺がんにおけるEML4-ALKの産生

ヒト2番染色体上にはEML4遺伝子(緑色矢印)とALK遺伝子(赤色矢印)が互いに反対向きに存在している。両遺伝子を含む領域が肺がんの一部の症例において逆位を形成することによりEML4-ALK融合遺伝子が産生されることが明らかになった。

それは驚きでした。われわれだけじゃなくて、世界のがんの研究者にとっての驚きでした。なぜかというと、染色体が切れてつながって、つまり染色体が転座をして発がん原因をつくるというのは、当時は血液のがん、白血病とか悪性リンパ腫だけに起きると一般に信じられていて、普通の固形腫瘍――胃がんとか肺がんとか大腸がんなどのように、かたい塊となって増える腫瘍――にはないというのが常識だったのです。だから、肺がんのような代表的な固形腫瘍においても、BCR-ABLと同じような融合型の活性型酵素ができて肺がんをつくるということが分かったことは、大きな驚きだったわけです。

それを見つけたときに、最初は、これは本当かなということで、いろんな形で試しました。症例数を増やしていっても、やっぱり繰り返し見つかるんですね。だから、これはものすごくまれなイベントをたまたまわれわれがラッキーに見つけたわけではなくて、人間の肺がんの中に一定頻度で存在する発がん原因だということが分かりました。大体、非小細胞肺がんの5%ぐらいに存在します。

EML4-ALK 遺伝子を検証

われわれはEML4-ALK遺伝子の存在が間違いないことが分かった時、ああこの発見はこの遺伝子を持つ肺がんの患者さんたちの命を永遠に変えるだろうとすぐに確信しました。なぜならばBCR-ABLと同じだから。もともと正常な細胞増殖をつかさどる酵素が、染色体転座の結果、白血病ではABLがBCRとつながって活性化される。EML4-ALK遺伝子の場合、ALKと呼ばれるやっぱり正常の細胞増殖をつかさどる酵素が転座の結果、EML4とつながって、活性が極端に上昇して、肺がんの原因になる。グリベックが白血病にとって夢のお薬になったわけだから、ALKを選択的に抑えるお薬をつくれば、EML4-ALKを持つ肺がんの患者さんの命を救えると。

それを検証するために、EML4-ALKを肺でつくるようなネズミをつくってみました。そうすると、そのネズミは、生まれた瞬間に胸を開くと、両肺に何百個も肺がんができていて、われわれの予想は間違いないことが分かりました。この遺伝子は極端に強いがんの原因遺伝子であるから、ネズミが生まれた瞬間に何百個も肺がんをつくってしまいます(図2)。

図2 疾患モデル動物を用いた治験実験の成功

EML4-ALKを肺選択的に産生するネズミは、生後直ぐに肺がん腫瘤を形成するが、飲み薬としてALK阻害剤を投与すると、治療25日で肺がんのほぼ全てが消失した。Proc Natl Acad USA誌(105巻19893-19897ページ)より改変。

EML4-ALK以外のがん遺伝子を入れてモデル動物をつくってももちろんがんはできますが、がんができるのは大体生後3カ月とか半年ほどしてからです。つまり、それが意味していることは、あと1個とか2個とか3個とか、付加的な遺伝子異常が生じて初めてがんができてくるということ。ところが、EML4-ALKは余りに強力なので、もうそれが発現しちゃうとネズミが生まれた瞬間に何百個も肺がんができてしまう。

がんの研究者は、これまでがん遺伝子はみんな同じような力でがんをつくる遺伝子だと思っていたけど、実はそれは間違いで、強いのもあれば弱いのもあるということ。弱いがん遺伝子の場合に、それを抑えてもなかなか効かないのは、ほかに幾つも集まってがんをつくっているから、単一のものだけを抑えても効かないんだろう。それに比べると、EML4-ALKは極端に強いがん遺伝子なので、がんは恐らくこれに依存してきているだろう。だから、それをたたけば第二のグリベックが肺がんにもたらされるだろうということが予想されたわけです。

実際、ALK阻害剤を製薬会社につくってもらって、さっきのネズミに飲ませると、肺がんはあっという間に死滅してしまう。ここに至って、われわれの見つけたものは、予想どおり、この遺伝子を持つ肺がんの患者さんの本質的な原因であって、その選択的な抑制物質、阻害物質は、肺がんの全く新しい、奇跡のようなお薬になるだろうと思いました。

ALK阻害剤の開発競争

われわれの研究成果をもとに、世界中の製薬会社によるALK阻害剤の開発競争が始まりました。これほどの大ブームはかつてないと思います。ほぼ全ての製薬会社がALK阻害剤をつくっていて、今臨床試験に入っているものだけでも恐らく6~7種類はあるでしょう。その中で一番最初に米国で承認されたALK阻害剤が、製薬会社のファイザーがつくった化合物のクリゾチニブ、商品名はザーコリです。もう日本でも販売されているので商品名もついています。

少し経過を振り返りますと、われわれは2007年にNatureに発見を報告して、2008年にネズミの実験結果を「PNAS」という雑誌に報告したのですが、2008年にはもう臨床試験が始まりました。極端に速いスピードです。2010年に臨床試験の初期の成果が発表されました。EML4-ALKが陽性の患者さんにそのお薬を使うと、奏功率が大体9割になるという、圧倒的に優れた治療効果だったんです。おそらくというより、間違いなく、今地球上に存在する固形腫瘍の抗がん剤でこれが最もよく効くものです。それが翌2011年にはもうアメリカでは承認されました。2007年のわれわれの遺伝子の報告からたった4年後に抗がん剤が承認されるというのは、抗がん剤の開発の歴史の上でも最速のスピードです。圧倒的な短さです。これを超える記録は多分出てこないんじゃないかと思うくらいですね。

一般に抗がん剤の開発では、第Ⅰ相、第Ⅱ相、第Ⅲ相の3段階の臨床試験を行います。まず第Ⅰ相で、人に投与しての副作用が出ないかということをチェックして、そこで重篤な副作用が出ないギリギリの投与量を決定して、第Ⅱ相に入って、薬が効くかどうかを調べます。効くとなれば、第Ⅲ相を大規模にやって、今までのスタンダードの治療法に比べて少なくとも同等以上の効果があるということを証明しないといけない。その第Ⅲ相はたくさんの患者さんをリクルートしなければならないので、全体で10年以上かかるのが一般的です。

第Ⅱ相までのデータだけで承認

ところが、アメリカの規制当局であるFDA(米国食品医薬品局)という政府機関は、第Ⅱ相までのデータだけで、つまり第Ⅲ相のデータなしにこのお薬を承認したんです。それは本当に画期的なことで、だからこそ4年での承認という奇跡のようなことが実現したのです。

私はそのFDAの人と話すチャンスがあったんですが、彼らは、これだけよく効くお薬を、例えば第Ⅲ相で二重盲検査、ダブルブラインドというんですが、クリゾニチブと一般の抗がん剤とをランダムに――投与する医者も、もらう患者さんもどちらの薬か分からないような形で――投与することが、医の倫理に反すると思わないかと言っていました。要するに、これだけ効く薬があるのに、例えば、自分がEML4-ALK陽性だと分かっていた場合に、一般の化学療法のグループに割り振られるのはおかしいだろうと。生きる権利を奪う行為だということで、第Ⅲ相をやらないで直接承認したんです。本当に画期的な判断でした。さすがアメリカはすごいなと思いました。こうして日本のがん研究の成果が、実際に極めて短期間、世界最速のスピードで世界で最もよく効く抗がん剤を社会にもたらしました。

CRESTの研究で発見

日本は当初クリゾチニブの臨床試験の対象国になっていなくて、アジアでは韓国で臨床試験が行われました。そこでわれわれはEML4-ALK陽性の肺がんであることが分かった日本の青年を韓国に送ったのです。その患者さんはみるみる症状が悪化するような状態で、飛行機で向こうに行っている間にも投与酸素量を増加せざるを得ない状況でした。ところが、それから2週間後に僕がソウルにお見舞いに行ったら、もうその患者さんはピンピンしていて、元気に毎日おいしい韓国料理屋さんを探して回るような状況だったんです。

このEML4-ALKを見つけたときは、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)というプログラムでサポートをしていただいていたときでした。クリゾチニブによって青年が元気になったのを見たとき、僕は東京のCRESTの担当者に国際電話をかけ、「こんなになりましたよ」と興奮して伝えたことを覚えています。それぐらいよく効くお薬だったわけです。

われわれはもっと多くの日本の患者さんを何とか救いたいと思い、ボランティアで日本中の主要な臨床施設と連携して、無償でEML4-ALKの診断をする診断ネットワークをつくりました。そこで陽性の人がいれば、その人たちにソウルでの臨床試験の情報を教えて、もし患者さんが行くことを希望すれば、それをサポートするという活動です。

この医師によるボランティアネットワークのキックオフシンポジウムを、JSTの同事業のプログラムの中の「研究加速課題」の支援で開催し、対象患者の方々をいち早く見つけることができました。JSTの支援って、研究者を育てよう、研究者をサポートしようというのがまず最初にあるような、本当に優れた研究費枠だと思います。大変感謝しています。

また、このネットワークのおかげで、企業からの寄附などを集めることなく日本の患者さんを救うというボランティア活動を続けることができました。

第二世代の臨床試験

少し時間が戻りますが、クリゾチニブの臨床試験の中で、治療で薬が効かなくなった患者さんが出てきました。その効かなくなる原因もわれわれが世界で初めて明らかにすることに成功したのです。EML4-ALKという遺伝子の中に新たに二次変異が生じて、薬が結合できなくなり、耐性になるということが分かりました。それもJSTの研究費でサポートしていただいた結果─当時は研究加速課題だったと思いますけど―です。その結果をもとに、その変異があっても効くような第二世代のALK阻害剤がすごいスピードでつくられて、今、世界で5種類の第二世代のALK阻害剤の臨床試験が始まっています。

2007年にわれわれが遺伝子を発見して、2010年に最初のファイザー社のクリゾチニブの臨床試験のデータが「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」という雑誌に発表され、その同じ号に、われわれが最初の薬剤耐性の原因を発表したんです。2011年には、その耐性があっても効くタイプのALK阻害剤の臨床試験がもう始まっていました。だから抗がん剤の開発もものすごいスピードになってきています。このスピードには多くの製薬会社はついてこられないですよね。

最初のファイザー社のクリゾチニブが承認された2011年に、もう他のメーカーの第二世代のALK阻害剤の臨床試験が始まっていて、2012年その成果が報告されています。例えばあるメーカーのALK阻害剤なんかは、ファイザー社のクリゾチニブで効かなくなった人たちの過半数が劇的に効くというふうな優れたお薬が出てきたり、あるいは、別のメーカーのALK阻害剤ですけど、過去にALK阻害剤を使ったことのない人にそれを投与すると、一人も腫瘍が大きくならない、全員が小さくなるという、本当に奇跡のような結果が報告されています。恐らくクリゾチニブと同じような経過をたどって、極めて短期間の間に承認されて販売されていくと思います。

米国との物量の差

私たちが2007年に最初にEML4-ALKについて報告した後、アメリカのハーバード大学に呼ばれて講演をしました。その時、彼らのコアファシリティ、次世代シーケンサーをたくさん入れたような中核施設に連れて行ってもらいましたが、圧倒的な物量の差でした。

私はそのころ日本で次世代シーケンサーを1台購入しました。日本で最初に次世代シーケンサーを導入した研究者の一人だと思います。

ところが、ハーバード大学のその施設には、その機械が既に40台ぐらいあって、かつ、そのメーカーの人がいて、一緒にキットをつくっているんです。彼らは3年ぐらいアドバンテージがあるわけですよ、一緒にキットをつくっているのですから。そのキットを使って解析ができます。しかも、1つのフロアはインフォマティシャン、バイオインフォマティクスの人たちがいて、プログラムをつくり続けている。必要なところにはいくらお金をかけてでも、インフラストラクチャーを構築して外国に負けないような体制をつくるというのは、日本には全くない発想だと思いますね。

日本では、例えて言うと、優れた人が何人かいて、その人が手弁当で24時間仕事をしているような状況です。アメリカはインフラから攻めていく、それで漏れがないようにして勝負していくという形です。圧倒的な物量の差ですよね。多くの日本人のがん研究者はこうした実態さえも分かりません。

そのときに思ったことは、ああ僕は新しい技術を使ってやっていて本当によかったということ。同じプラットフォームで同じ勝負をしたら勝てるわけがない。100回に1回も勝てない。こんなに物量が違うのだから。われわれは固有の武器を持たないと勝てません。だから、同じ次世代シーケンサーを使うにも、例えば精度が極端に高い解析法をつくるとか、自分たちの知恵を絞ったアプローチが必要ですね。

年間5万~7万人

先ほど、BCR-ABLを持つ白血病に対するイマチニブがものすごくよく効くと話しましたが、BCR-ABL陽性の白血病よりも、EML4-ALK陽性肺がんのほうが患者さんが多いんです。毎年、世界で5万人から7万人ぐらいの人がこの遺伝子のために命を落としています。10年間だと50万人から70万人になり、薬ができればこれだけの人の命を救うことになります。医者として研究を始めて、何とかがんの患者さんを救いたいと思ってプロジェクトを進めてきましたが、実際にこのお薬のおかげでよくなった人が研究室に訪ねてきてくれたり、命が救われたという報告を聞きます。医者・研究者としての人生の中でそういう経験をさせてもらえたのは、大変幸運だと思っています。