2013年2月号
特集 - 農と食 起業入門
国産ラズベリーの市場創出に向けて
顔写真

渡邊 雅生 Profile
(わたなべ・まさなり)

秋田県立大学 地域連携・研究推進センター
コーディネータ


国内初のラズベリー(キイチゴ)の産地形成に向け、秋田県立大学や公設試験研究機関が地元農家を支援している。40軒の農家が手掛けるまでに広がっている。

ラズベリー (キイチゴ)は、多年生の小果樹であり、欧米ではジャムや洋菓子などによく用いられる果実の1つである。寒冷な気候に適し、独特の味覚と芳香を有する。近年はわが国でも需要が伸びているが、大半が輸入品(生果・冷凍果実計で年間約3,000トン)で、国産品の供給が望まれている。

本レポートでは、秋田県立大学の保有するシーズ(ラズベリー品種と栽培技術)を基に、「あきたを日本一のキイチゴ産地にしよう!」というスローガンを掲げ、産学官連携によるラズベリーの産地形成を進めてきた活動の経緯を述べる*1

なぜ秋田でラズベリーか

本学が音頭をとってラズベリー栽培の普及に本格的に取り組んだのは平成20年からである。生物資源科学部の今西弘幸准教授(小果樹園芸学)の保有する十数種類のラズベリー品種の中から、秋田県での栽培適性があり、かつ市場性が高いと考えられる5品種を選定し、生産振興を開始することとした。

写真1 五城目町キイチゴ研究会

先行モデル産地として県央の五城目町が手を挙げ、本学と同町の共同研究がスタート(現在も継続中)、農家を主体とする「五城目町キイチゴ研究会(写真1)」が発足した。また、当初から需要の創出にも取り組み、生産農家、洋菓子店・食品加工業者などを会員とした「あきたキイチゴ利活用研究会」(現在会員約160名)も同時期に発足した。

今西准教授が研究のために収集してきた“他県にはない”品種は地域ブランド化の有力な基盤となったが、さらに産学官連携の枠組みで産地形成と地域内の需要創出を同時に進めたことが、秋田県におけるラズベリー生産振興の“面的な広がり”を特徴づけた。

“米どころ”秋田県の農業は、うち続く減反政策・米価下落により稲作が苦しい状況に陥っているが、稲作複合部門の1つとしてラズベリーが期待された。また、経営的あるいはマーケティング的な観点から、同学部アグリビジネス学科の宮入隆助教(農業経済学)が参加し、いわゆる出口に関する支援を行った点が、生産者にある種の安心感を与えた。こうした幅広い大学の人材を活用し、異分野融合的な支援体制を構築したこともポイントである。

実用技術開発事業を活用

2009年度に農林水産省の「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」に、共同研究の代表機関として「国産ラズベリーの市場創出および定着のための生産・流通技術の開発」という課題で応募し採択された(2009~2011年度)。

この実用技術開発事業は、総合防除技術を含めた栽培技術の確立はもとより、日持ちの悪いラズベリー果実の保存技術やパッケージを含めた流通技術の開発と、生産者数を増やすための経営指標・新規参入モデルの提案を柱と定めた。同時に研究成果を生産者に提供し普及活動の一助とした。本研究成果は、「国産ラズベリーの栽培・流通のてびき」としてマニュアル化され、本学ウェブページで公表している。

2010年度から秋田県立大学地域連携・研究推進センター内に「キイチゴ産地形成支援プロジェクト」を設置し、あきたキイチゴ利活用研究会の事務局として強力に“支援”することとなった*2

ラズベリー産地形成へ

その後、五城目町に加え、大館市早口(旧田代町)でも組織的な取り組みが始まり、「たしろラズベリー研究会」が結成された。両組織生産者数は合わせて40名程度まで増えた。今年度の果実の生産量は3トン弱に達し、来年度は今年の1.5倍程度まで増えることが期待される。収穫物の大半は秋田県内の実需者に供給されている。菓子類・ジャム、リキュール、アイスクリームなどの特産品が開発され、飲食店では生ジュースやシャーベット、カクテルの原料となっている。

写真2 県内企業が商品開発した「たしろの恵みたっぷりん」

生産者からは「米以外の換金作物。お客さまにもとても喜ばれ、栽培の大きな励みになる」「県立大学に専門家がいるし、自治体もいろいろ支援してくれるので心強い」などの声が聞かれる。加工業者からも「輸入品に比べて品質が良く、味・香りも良い」と評価をいただいている。その中には株式会社食の森たしろの「たしろの恵みたっぷりん(写真2)」やぜんげつ堂の「五城目きいちごのあきたロール」など、県外でも十分に競争力がある商品が開発されてきており、今後の伸展が期待される。

今後の課題

秋田産ラズベリーの現在の生産量は、国内需要の数%にも満たない量であり、県内の限られた範囲に供給されているにすぎない。産地形成の初期段階にある。今後、生産技術を高位平準化し、栽培農家を増やし、県外出荷を目指した集出荷体制の整備するのが課題である。

一般的に生産の拡大とそれに見合った販路の確保を同時に進めるのは難しく、秋田県のラズベリー産地形成はこれから正念場を迎える。特に生産農家の自主的な販売組織によって担われている( JAのような既存の販売ノウハウを持った組織ではない)上、需要を掘り起こして新たに市場を創出しなければならないので、今後も継続的な生産組織化、マーケティング戦略策定の両面での支援を必要としている。

産地形成を支援するわれわれ大学は、地域内の産学官の連携を強化し持続的なものとしたり、県外への情報発信を効果的に進めることなどで、“地域に根差した大学”の機能を発揮したいと考えている。

*1
本稿で取り上げた秋田県における国産ラズベリーの産地化の取り組みは、科学技術振興機構の「目利き人材育成研修」でコーディネート事例研究課題としても検討した(編集部)。

*2
地域連携・研究推進センターの主な活動は、以下の4 点である。
① 会員向け「キイチゴニュースレター」の取材、編集、発送(4 回/ 年)
② 研修会・総会等の開催支援
③ 生産者と実需者との情報伝達(販売促進)
④ 農林水産省主催「アグリビジネス創出フェア」における秋田産ラズベリー、ラズベリー加工食品の試食提示などによるPR

特に、「ニュースレター」は、生産者間の栽培技術情報の交流や実需者との良好な協調関係を維持するのに寄与していると考える。