2013年2月号
単発記事
地方大学が地域に必要な大学となるために
三重大学・地方大学シンクタンクの地域貢献
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西村 訓弘 Profile
(にしむら・のりひろ)

三重大学 地域戦略センター長



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武田 保雄 Profile
(たけだ・やすお)

三重大学 理事・副学長



今日、地方大学に必要とされる役割の1つが、自治体などと連携して地域の課題解決に取り組むこと。三重大学は、積極的に地域に入り、企業や行政とともにさまざまな事業を実施している国立大学として注目される。その中心の組織で、地域シンクタンクの役割を果たしている地域戦略センター(RASC: Regional Area Strategy Center)の活動を紹介する。

三重大学は大学発シンクタンクとして地域戦略センター(RASC: Regional Area Strategy Center)を平成23年4月に設立した。RASCは学長直轄の組織として、地域の自治体、産業界の全体を見渡した政策提言と政策実現のための施策(プロジェクト)を実行する「司令塔」として機能している(図1)。RASCは、産業育成、地域振興、産業インフラ政策、観光政策、防災政策、医療・福祉政策、文化振興、環境政策など幅広い分野の課題に取り組む体制を整え、平成23年度には自治体・企業との共同研究4件、受託研究1件、三重県庁からの受託事業5件、総額5,160万円の事業を実施する「地域に必要な地方大学シンクタンク」へと一気に立ち上がった。地域が抱える課題を地域自治体と共に考え解決する総合シンクタンクとしてRASCは機能し始めており、地方における地方国立大学の役割を鮮明にする新たな挑戦を、三重大学はRASCを通して試みている。

図1 三重大学地域戦略センター(RASC)の役割

なぜ、地方大学シンクタンクなのか?

三重県は紀伊半島東側に位置する人口が約186万人(47都道府県中22番目)の平均的な県である。北部地域は大企業の主力工場とモノづくり系の中堅企業が集積する経済基盤が強い地域だが、南部地域は交通の便が悪く農林水産業中心の産業構成のため過疎化と高齢化が急速に進んでいる。まさしく、都市と地方の格差が拡大している日本の縮図とも言える状況が三重県に発生しており、深刻な地域課題となっている。

三重大学は、三重県内の唯一の国立総合大学として地域に存在しており、教員・学生が地域の自治体、産業界からの依頼で、地域活性化に関わる取り組みを行ってきた。しかしながら、地域課題の根源が人口減少・高齢化・成熟化による経済低迷など日本全体を取り巻く構造的な問題に伴って発生しており、地域活性化への取り組みも、各論の対策ではなく、地域の在り方を根本的に変える立ち位置で取り組むことが必要になっている。こうした時代にあって、三重大学は、地域を熟知した地方大学として、自治体機能の補完に全学を挙げて取り組み、地域が抱える根源的な課題を自治体、産業界と共に解決することが存在価値であると考え、これを実行する司令塔的な学内組織としてRASCを位置付けている。

RASCの取り組み

三重大学はRASCを立ち上げた平成23年度から多くの事業に取り組んできた。平成23年度に実施した事業には、「地域活性化プランスタートアップ促進業務(三重県からの受託事業:事業費21,855千円)」「かんきつを中心とした東紀州特産農業の展開支援事業(三重県からの受託事業:事業予算5,500千円)」「産学官連携オール三重起業化推進事業『起業道場』(三重県からの受託事業:事業予算4,781千円)」がある。

写真1 「地域活性化プランスタートアップ促進業務」での学生スタッフによる取り組みの様子

三重県では南北に長い地勢を生かして多種類の農作物が生産されており、都道府県の中で最も種類が多いとされている。しかしながら、そのいずれも小規模生産であり強い産地がほとんどない。このため、農業の活用によって地域を活性化しようとする取り組みを掘り起こし、ハンズオン支援を行うことで農業をテコに連鎖的に県内全体を活性化させることを目指しているのが「地域活性化プランスタートアップ促進業務」であり、平成24年度も継続し、2年間に100カ所程度の支援を行った(写真1)。

「かんきつを中心とした東紀州特産農業の展開支援事業」では三重南紀みかん産地の再生を図るための施策を地域の農家・農協の方々と共に考え、具体策を策定した。事業は23年度で終了したが、平成23年度に実施した「(仮称)みえフードバレーFS調査(三重県からの受託事業:事業予算5,000千円)」の結果を基に県庁内に設立された「農林水産部フードイノベーション課」と連携することになり、平成24年度には「みえフードイノベーション・プロジェクト創出コーディネート事業(三重県からの受託事業:事業予算4,914千円)」で行う販売促進の取り組みにつながった。

写真2 「みんなでつくる街の賑わいプロジェクト事業」で行ったオープン・ディスカッションの様子

「起業道場」は、RASCのセンター長が塾長となり百五経済研究所の協力を得ることで、起業間もない経営者を対象に経営者の心得と経営戦略を考えさせる教育を提供した。平成24年度には、第二創業を目指す後継経営者にも範囲を広げた「MIE経営者育成道場」として継続実施し、2年間で50名程度の若手経営者を対象とした。平成24年度には県庁所在地である津市からも事業委託を受け、「みんなでつくる街の賑わいプロジェクト事業(事業予算3,591千円)」として、疲弊している津市中心市街地の活性化に対する市民の声を拾い上げるオープン・ディスカッションを行い(写真2)、市民の声を取りまとめた提言書を前葉泰幸津市長に手渡した。提案書の内容は平成25年度予算に反映され、RASCが継続してその実施を担当することが決まっている。

RASCでは、野村證券と百五銀行の協力を得ることで「事業化支援チーム」を編成し、三重県内企業の成長を支援することも行っている。これまでに10社程度に対して経営戦略の策定で協力するなど、地域産業界をけん引する企業の育成にも注力している。

RASCの学内での立ち位置

RASCの活動は多岐にわたっており、組織立ち上げと事業実施を並行して行ったことから、設立年である平成23年度は相当の負担が担当スタッフにかかったのも事実。しかしながら、準備段階から協力をいただいている野村證券、百五銀行、百五経済研究所、三重TLOからの助言と人的協力を得ることで、いわゆる「垂直立ち上げ」に成功した。

RASCの活動方針は三重大学長が陣頭指揮を執るRASC幹部会議で決定され、具体的な活動内容はRASC連絡調整会議で取り決めている。いずれの会議も月1度のペースで実施している。野村證券、百五銀行、百五経済研究所、三重TLOがメンバーだが必要に応じて三重県庁からも参加している。RASCの設立目的には、上述のような「地域社会への貢献」に加えて、「学生教育とキャリア形成への効果」と「研究領域の拡大・深化」を掲げている。

RASCの活動を学部・大学院における研究・教育に活用すること――例えば地域活性化プロジェクトに学生を参加させることで地域課題を考える実践力を養成する――で、新たな実践教育が提供でき、学生がキャリア形成を考えるきっかけにしたいと考えている。また、RASCの活動に参加した学生たちが自主的に「RASC学生スタッフの会」を形成し、約90名程度が参加する組織になっている。彼らは自分たちが活躍する場としてRASCの重要性を理解し始めており、積極的に事業への提言と活動を行うようになってきた。このためRASCには学生の力が必要不可欠な状況にもなっている。

最後に

三重県内の各地域に住む人々、企業が元気になり、地域全体が活気にあふれるような「幸福が実感できる社会」を実現することが私たちRASCの目標である。成熟社会での幸福を実現するための最適解は、高度成長期の象徴である大都会、大企業から生まれるのではなく、人々の生活との密着度が高い地域社会と中小企業から生まれてくるのが理想的。三重大学はRASCの活動を通して、地域にある大学の役割を再考し、地域を変える原動力として、また、地域から日本を変えていく原動力として、今の時代に必要とされる地方大学が果たすべき役割を具現化し、実行していく所存である。