2013年3月号
単発記事
東大発ベンチャー 「ユーグレナ」の技術とビジネス展開
顔写真

鈴木 健吾 Profile
(すずき・けんご)

株式会社ユーグレナ 取締役 研究開発部長



株式会社ユーグレナは2005年に、東京大学出身者らを中心に設立し、東京大学内に研究拠点を有し、沖縄県石垣島にて微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)を培養する生産と研究活動を行ってきたベンチャー企業。昨年12月、東証マザーズに株式上場。現時点での主力商品は、ユーグレナを用いた食品であり、主要な研究テーマはユーグレナを用いたバイオジェット燃料生産だ。

動物の性質と光合成

図1 ユーグレナの光学顕微鏡画像

当社の名前でもあるユーグレナは、和名でミドリムシとして親しまれている藻の一種類である。ユーグレナは、鞭毛で動きまわる動物の性質と、葉緑素を有し光合成を行う植物の性質を持ち合わせた、単細胞真核藻類の一種である(図1)。

ユーグレナの研究自体は日本においては1970年代から活発に進められてきた。1990年代には環境技術としての利用が検討され、研究が行われていた。具体的には、二酸化炭素が含まれる火力発電所等からの排気ガスをユーグレナ培養槽に導入し、光合成をさせることで二酸化炭素を削減し、培養槽で成長したユーグレナを食糧として利用することを目的とした。

大量培養技術を確立

研究室レベルでのユーグレナの培養自体は、無菌状態を保つなどによって行うことができていた。しかし、事業として展開しようとした際にネックとなるのは、大量に、かつ需要に則して安定的に供給できる生産体制を整えることである。食品として流通させるには求められる生産量が大きく、この実現が高いハードルであった。

かつての大学での研究成果などを集約してトライアンドエラーを繰り返した。屋外での培養は培養条件を一定に保つことが困難で再現性が乏しかったが、環境変化に耐えられるように培養液などさまざまな培養条件をコントロールすることで、食品として流通可能な規模での培養を2005年12月に実現した。ユーグレナが増殖する一方、それ以外の生物が増殖しない条件を整えることが重要であった。大きなスケールでの生産を実現したことを契機に、食品などの市場に流通させることが可能となり、事業としての展開が大きく見込めるようになった。

図2 ユーグレナによる循環型社会の構築イメージの一例

一般的に生産されたバイオマスの利用方法として、バイオマスの5F という考え方がある。バイオマスは一般的に、食品(Food)、繊維(Fiber)、飼料(Feed)、肥料(Fertilizer)、燃料(Fuel)という順で付加価値が高く、上位から順に利用することで、環境負荷の軽減と高い事業性を同時に実現することが可能である。ユーグレナもバイオマスの1つと捉えればこの考え方を適用することが可能である。循環型社会の事業展開のイメージの一例を図2に示す。

ヘルスケア事業

ユーグレナは食品としては、含有される栄養素の種類が多いことから栄養価が極めて高く、消化・吸収を妨げる細胞壁がないことから消化率も高い。また、細胞内にはパラミロンというユーグレナが特異的に蓄積する多糖の結晶体がある。パラミロンを構成する糖はグルコースのみであり、全てのグルコシド結合はβ-1,3-結合であり高度に結晶化されている点が他のβ-グルカンと異なる特徴である。このパラミロンの機能性は従来から世界中で広く研究をされてきており、現在、当社では抗腫瘍効果や抗アレルギー効果などを見いだして、食品素材としての活用の幅を広める研究を進めている。

環境・エネルギー事業

図3 ユーグレナの明視野像(左)と
脂肪染色試薬による蛍光染色像(右)

ユーグレナは培養方法次第で、ジェット燃料への加工が可能なワックスエステルという脂質を多く含有させることができる(図3)。油脂含有率と油脂組成は培養条件によって大きく変動するため、安定した培養を維持しながら、油脂含有率を高める技術開発が必要とされる。

図4 火力発電所における実証試験装置写真

また、当社は火力発電所において、煙道に配管をつないで排気ガスをユーグレナ培養槽に通気する実証試験装置を構築した(図4)。実際に、配管を通じてユーグレナの培養槽に排気ガスを引き込んで培養を行った結果、培養初日には薄い黄緑色だった培養液も、7日目には濃い緑色になり増殖が認められた。これらの結果は、発電所の排気ガスを通気してもユーグレナは増殖可能であることを示した世界初の事例である。

このように大気中に放出されたり、あるいは放出される二酸化炭素を、ユーグレナを介して燃料等の有用な物質に変換し――地中から取り出して利用される化石燃料を少なくすることで――循環型社会に寄与する事業の構築を目指している。

大学との連携による研究も

大学との連携の強みは、イニシャルで掛かる研究のためのインフラストラクチャーが、一から始めるより軽微で済むことが挙げられる。当社の研究において経営資源が不足しがちなテーマについて、東京大学とは藻類の中の脂質成分の代謝に関する研究、近畿大学とはユーグレナの遺伝子関連の研究、さらに大阪府立大学とはユーグレナの食品や化粧品としての機能性の研究を共同で進めるなどして、進捗させてきた。

今後は、事業実現のために市場に近い大企業とのパートナーシップを強固にして、大規模に培養を行い実際に燃料化とその効率化を進めることにより、バイオジェット燃料の生産技術を確立することを目標としている。