2013年7月号
特集2 - 続・研究成果を社会へ
バイオ技術による放射能汚染土壌の除染
顔写真

佐々木 健 Profile
(ささき・けん)

広島国際学院大学 教授



放射能の除染技術はゼオライトや粘土を用いたものが主流だが、除染後の廃棄物が膨大で保管場所に困るという課題がある。光合成細菌を用いた除去技術の可能性は?

はじめに

東京電力福島第一原子力発電所の事故以来、効果的、実用的な土壌除染技術への関心が高まっている。われわれは約10年以上も前から独自に、光合成細菌を用いた放射性核種の除去に取り組み、5年前には実用的技術を確立していた。当時、学生の間ではあの人気アニメ「宇宙戦艦ヤマト」に登場する惑星イスカンダルになぞらえ、「イスカンダルバイオ・プロジェクト」と言われていた。“放射能除去ならイスカンダルまで行かなくても広島国際学院大学に来ればいい。ワープも必要ない”うんぬんと。当時、学会の発表では“わが国では必要のない技術”と受け止められていたようだ。

福島での放射能除染の実証

原発事故後、福島市の依頼を受け、同市の中学校のプール底のヘドロに蓄積した放射性セシウム(Cs)を3日で約90%除染することに成功した。さらに、南相馬市で土壌の除染(写真1)を行い、やや難航したが、約1週間から20日間で、土壌の約70%の除染に成功した。これらの成果は日本農芸化学会の英文誌に掲載され、2012年度学会論文賞を受賞した。2011年度末、私にがんが見つかり、この療養で約1年の間が空いたが、本年5月から南相馬市および浪江町で、農地と牧場の土壌除染を再開し、一昨年の結果を上回る、10日間での約70%の放射能除染結果がこれら2つの試験場所で得られた。現場に使える技術と確認している。

写真1 実用的土壌除染の様子( 実験ではなく実際にこのコンテナで除染、南相馬市)。筆者が持っているのが光合成細菌ビーズ。

除染の仕組み

なぜ除染できるのか。われわれが用いた光合成細菌SSI株が、菌の表面の強力なCs吸着力と、カリウムポンプによるCs吸収能力のダブルの力を有し、放射性Csをカリウムと一緒に除去している。光合成細菌はそもそもクロレラなどよりも古い原始的光合成を行う微生物で、植物の先祖にあたる。植物と同様に当然強力なカリウムポンプを有している。

この技術を農地に活用すれば、農業で使えるまでに除染できると推定している(“農業的除染率”100%と推計)。光合成細菌SSIできちんと除染した土壌は、植物が吸収できる放射性Csは全て取り除かれており、除染後の土で野菜や米を栽培しても、放射性Csは植物に移行しないと思われるからだ。可食部のみではなく植物全体にである。光合成細菌は農業肥料に古くから利用されており安全性は保障済みである。土壌残留の約30%の放射性Csは、土壌結晶構造に強く結び付いた不溶の形になっている。除染後の光合成細菌は写真2のようにビーズ状でメッシュのまま簡単に回収でき、ビーズはアルギン酸で菌を封じ込めているために、比較的低温(600℃以下)で焼却すれば、放射能の飛散なしに容量、重量とも97%以上減容できる。中間保管の問題も解決できる。現在、南相馬市、浪江町で小松菜、ジャガイモ(馬鈴薯)、その他野菜栽培を行っている。

写真2 メッシュに入れた光合成細菌ビーズ。これを5 ~ 10 袋/50 リットル投入して通気する。

中間保管場所に積まれ取り扱いに苦慮している除染土壌を、本技術で除染して、農地に戻すことも可能になってくる“現場的技術”なのである。

他の技術とどう違うのか

現在の土壌除染の技術は、種々の酸で土壌を洗い放射性Csを水に移行させ、ゼオライト、プルシアンブルー、その他の吸着材でCsを吸着するものが多い。しかし現場では、酸処理した土壌や吸着材は不安だという声も多い。

放射能を帯びた廃棄物が大量に排出され、中間保管場も満杯状態である。その点われわれの技術は減容化効果も高く実用的だ。

共同研究による成果

原発事故後、種々の除染技術開発に応募したが採択されなかった。何とか福島で実験したいと熱望していた時に、大田鋼管株式会社から申し入れがあり、資金、人の提供もあり、福島での実験が可能となった。すでに持っていた技術が福島の放射能除染に役立つことが実証され、大いに成果が上がった。現在は資金も底をつき、わずかな大学予算で、ボランティアで学生と除染活動を続けている。

今後の展望

この技術は非常に簡便で、50リットルの容量のコンテナに土壌30kg、水50リットルを入れてかき混ぜ、菌のビーズをメッシュごと栄養源とともに加え、空気を送るだけである。設備の建設も必要ない。どこでも実施できる。乳酸菌を添加し光合成細菌を活性化することも行っている。菌の培養費と人件費さえ確保できれば、大量の土壌の除染も可能だ。放射能汚染水や汚染バイオマス、がれきの除染にも広く使える技術でもある。