2013年7月号
特集2 - 続・研究成果を社会へ
GAGGを使用したガンマ線測定器の開発
顔写真

薄 善行 Profile
(うすき・よしゆき)

古河機械金属株式会社 研究開発本部
素材総合研究所


顔写真

鎌田 圭 Profile
(かまだ・けい)

東北大学 未来科学技術共同研究センター
准教授/
古河機械金属株式会社 研究開発本部
素材総合研究所

放射線のエネルギーを吸収すると蛍光を発する物質をシンチレータと言う。東北大学と古河機械金属株式会社は高密度のシンチレータ新規物質の単結晶の開発に成功。発光量は既存結晶(Pr:LuAG)の3倍程度と大きい。これを用いて産学共同で新しい放射線測定器をつくった。

古河機械金属株式会社(以下「当社」)は2011年末に放射線測定器「ガンマスポッター」を売り出した。当社グループが長年蓄積してきた結晶成長技術を基に、東北大学の吉川彰教授、柳田健之准教授(現九州工業大学)と共同開発した高密度のシンチレータ(放射線のエネルギーを吸収すると蛍光を発する物質)結晶(Ce添加のGAGG=ガドリニウムアルミニウムガリウムガーネット)を用いたものである。この結晶および放射線測定器の開発について紹介する。

吉川先生との出会い

当社は20数年のシンチレータ生産の歴史がある。当初はX線用シンチレータのみであったが、2004年からγ(ガンマ)線用シンチレータの開発を始めた。その経過は以下のようなものだった。

当社はチェコの研究者と情報交換を頻繁に行っていた。2003年のチェコでの学会の際、チェコの研究者に食事に招待され、そこで吉川先生を紹介された。帰国後、当社はγ線用シンチレータの開発を行うこととなり、吉川先生の研究室で3カ月間結晶作製方法の実習を行うとともに、開発目標を検討した。吉川研究室での3カ月間でマイクロ引き下げ法によるサンプル作製・測定を繰り返した結果、Pr:Lu3Al5O12(Pr:LuAG)の開発を行うことに決めた。これが現在のGAGG開発につながっている。

当社のコア技術

約2年後にCzochralski法(Cz法)で2インチ結晶の製造を開始した。γ線用シンチレータは融点が高く、イリジウムルツボを使用する必要がある。イリジウムルツボの使用は初めてであったが、X線用シンチレータ製造で習得した結晶の引き上げ技術、原料の調整法、シンチレータ結晶の評価技術を有していたので、短期間での製造に結び付いた。

GAGG結晶共同開発の経過

その後、Pr:LuAGを使用した新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト2件を実施したが、より発光量の多いシンチレータを求めて、2010年6月ごろから新規シンシレータの開発を開始した。当初は種々の組成探索を行ったが、良い組成は見いだせなかった。そこで、吉川先生に密度が大きくて発光量の多いシンチレータ候補の相談したところ、「発光量は大きいが単結晶化できないために、セラミックスで製造しているガーネット系結晶があるが、組成を変えることで単結晶化が可能かもしれない」との助言を得て、同年9月からCe:(Gd,Lu,Y)3(Al,Ga,Sc)5O12系の探索を開始した。

当社でのマイクロ引き下げ法によるサンプル作製、特性の測定、吉川先生からの方向性のアドバイスという繰り返しにより徐々に組成を狭め、最後にCe:Gd3Al2Ga3O12(GAGG)に行き着いた(表1)。2011年初頭のことである。

表1 シンチレータの特性比較

製品(ガンマスポッター)の説明

その年の3月には東日本大震災に起因する福島第一原子力発電所事故があり、大気中の放射線計測が話題になるようになった。当社では放射線計測技術を有していたことから、同年夏からGAGG搭載の線量測定機の開発を始めた。

開発時間・費用節約のためにケースは既存のもの(ユニックキャリアーの無線機)を使用して開発を行い、その年の暮れごろには、リアルタイム測定が可能な「ガンマスポッター」Ver.1の販売を開始した。GAGG結晶は密度が6.6と大きく発光量も既存結晶の3倍程度あった(約6万ph/MeV)ので、結晶寸法を小さくすることが可能であったこと、光検出器に半導体素子を使用したこと、当社に放射線測定のノウハウがあったことが幸いして、短期間の開発に結び付いた。

写真1 ガンマスポッターVer.2

さらに2012年3月から、アベレージモード、タイマーモードを追加したVer.2を発売して、現在に至っている(写真1)。

ガンマスポッターVer.2は、GAGG結晶を使用することで、①潮解性が無いので安定性に優れている ②密度が高く感度が良いのでリアルタイムの測定が可能 ③使用温度範囲が-20℃から50℃と広いので1年を通して使用できること ④半導体素子を使用しているので衝撃に強いこと ⑤雨の日も使用可能で水洗いも可能なこと等の特徴を有している。価格はオープン価格で、実勢では18万円位。当社事業子会社および商社などを通じて販売している。重機レンタル、ゼネコン、スクラップ業者などへ約400台の販売実績がある。

今後の展望

今後は通信機能の付加、複数台数の接続等の機能向上を計画中で、コンパクト、耐水性の良さ、氷点下で使用可能、等の利点を発揮できる放射線計測用途への販売を計画している。さらに、GAGGの特徴を生かした魚用非破壊放射線検出器の販売も視野に入れている。

また、2012~2014年度の予定で、科学技術振興機構(JST)の先端計測分析技術・機器開発プログラム「無人ヘリ搭載用散乱エネルギー認識型高位置分解能ガンマカメラの実用化開発」を行っているので、早期に実用化を達成したい。