2013年7月号
特集2 - 続・研究成果を社会へ
生物の体内現象を発光技術で解析
顔写真

小松原 豊一 Profile
(こまつばら・とよかず)

和光純薬工業株式会社 試薬事業部
試薬開発本部 商品開発部


発光基質:ルシフェリンは生物の体内で起きるさまざまな現象を発光によって分かりやすく示すために必要な物質で、ライフサイエンスの研究において幅広く使われている。産学連携で開発した新しい発光基質「アカルミネ®」は水やヘモグロビンに吸収されづらく生体を通過しやすい波長エリアに極大ピークを持ち、生体深部のイメージングに優れた性能を持つ。

はじめに

和光純薬工業株式会社は電気通信大学、黒金化成株式会社と連携して、生体イメージングに用いられる発光基質「アカルミネ®」を共同開発し、販売している。ホタル生物発光で使用される発光タンパク質(ルシフェラーゼ)の発光基質はルシフェリンと言い、生物の体内で起きるさまざまな現象を発光によって分かりやすく示すために必要な物質である。

「アカルミネ®」の波長は675nmで、水やヘモグロビンによる光吸収の影響を受けず、生体を通過しやすい「生体の窓(波長領域:650~1000nm)」と呼ばれる波長領域を利用しており、“見えない部位の可視化を可能にした”世界初の発光基質の製品である。これは電気通信大学の有機合成技術と黒金化成の量産化技術、和光純薬工業の化学分析技術が融合した成果である。今回開発したアカルミネ®を用いた生体イメージングで、がんの病態解析やiPS細胞研究等での応用が期待されている。

研究開発背景

生体イメージングは、動物や細胞を生きたまま、経時的に詳細な動態を解析できることから、必要不可欠な手法として重要性を増しており、「蛍光」と「発光」が用いられている。蛍光では、2008年にノーベル化学賞を受賞した下村脩先生が発見したGFP(緑色蛍光タンパク質)が汎用されているが、励起光照射が必要で、長時間の観察により、動物および細胞に障害がおきることが危惧されている。また、細胞透過性の問題も指摘されている。そこで注目を集めているのが、ルシフェリンとルシフェラーゼの発光系であり、侵襲性が低く、透過性の高い、また高輝度の近赤外線を使用できる発光基質の開発が強く望まれていた。

また、近年、生体イメージングはがん細胞を生きたまま可視化できる等の飛躍的な成果を挙げており、米国の国立衛生研究所(NIH)も生体イメージング分野に高額な研究開発費を配分している。このような背景から、生体イメージング分野では疾患基礎研究・創薬研究等が急速に進展しており、より研究効率を高める新しい製品が切望されていた。

次世代の発光基質

2007年、電気通信大学の牧昌次郎助教は、従来のルシフェリンとは異なる構造を有した波長675nmで発光する発光基質アカルミネ®の開発に成功した(図1)。アカルミネ®の性能について、各大学研究機関でトランスジェニックマウス(ホタルルシフェラーゼを発現するように遺伝子組み換えされたマウス)を用いた実験で、より生体深部での発光が確認され(図2)、生体内での実用性も実証することができた。

図1 従来のルシフェリンと波長675nmで発光する発光基質アカルミネ®の比較

図2 トランスジェニックマウスの生体深部での発光が確認された

産学連携へ

2010年、電気通信大学はアカルミネ®の実用化を目指して、工業スケールでの生産に黒金化成と共同で取り組んだ。しかしながら生産スケールを上げることで、発光輝度の低下、純度の低下等予期せぬ事態に遭遇した。当時は、スケールアップに伴うアカルミネ®の精製方法が確立しておらず、技術的に解決することは困難であった。これらの問題を解決するために、企業で作製したアカルミネ®を、大学が分析評価するという相互に役割を分担することで、発光輝度の低下と純度の低下の原因を解明し、2011年にアカルミネ®の量産化に成功した。また、和光純薬工業では、異性体混合物と言われる分析の難しいアカルミネ®の品質評価試験方法を確立した。

アカルミネ®の販売

電気通信大学の技術を用い、黒金化成が工業スケールでの生産検討を行い、さらに和光純薬工業で確かな品質が裏付けされたアカルミネ®は、和光純薬工業が2011年10月から代理店を通じて販売している。販売先は生体イメージングの研究者が中心である。販売価格は1mg 1万3,000円、5mg 3万7,000円で、販売は順調に推移している。

展望

アカルミネ®の市販化について、産学連携による技術の融合・進化が形となった成功例と言える。和光純薬工業はアカルミネ®の販売をグローバルに展開しており、国内外で販売実績を上げている。また、営業活動・展示会出展、さらに電気通信大学の講演活動などを通じて市場への認知度を加速させ、新規顧客開拓を行っている。今後、アカルミネ®を用いた生体イメージングの研究が進展し、新しい生命科学のブレークスルーが生まれることを期待している。