2013年7月号
特集2 - 続・研究成果を社会へ
劣化した骨・歯牙からDNAを鑑定するキット
顔写真

石澤 洋平 Profile
(いしざわ・ようへい)

株式会社DNAチップ研究所
研究開発部 部長


従来、発掘人骨などからDNAを抽出することは難しかったが、信州大学は組織が劣化した試料からも迅速かつ簡便にDNAを採取する方法を見いだし、企業との共同研究により60年経過した戦没者遺骨からでも70%以上の確率で鑑定ができるようになった。この研究成果を活用し、DNA抽出キットを開発し事業化した。

株式会社DNAチップ研究所(以下「弊社」)は、身体の硬組織である歯牙や骨から、DNA鑑定の実施に必要な量のゲノムDNAの抽出を可能とする、ゲノムDNA抽出キット「TBONE EX KIT」(写真1)の製造・発売を2011年12月に開始した。法医学分野においてDNA鑑定は、災害や事件等における身元特定を行う際の検査として用いられており、近年、DNA鑑定委託を受ける件数は増加傾向にあるとされる。弊社は、信州大学と株式会社日立ソリューションズが持つ技術のライセンスを取得し、それに基づいてキットを開発したものだ。従来から、DNA鑑定に使用可能なゲノムDNAを抽出することができる試薬・キットはさまざま存在していたが、本特許技術は、既存のキットより簡便な処理で、かつこれまで解析困難だった劣化した試料(歯牙・骨)からのDNA鑑定を可能とする。本キットにより、法医学分野への新たな貢献ができると考えている。

写真1 TBONE EX KIT

3種類の試薬で処理

DNA鑑定は身元特定の手段の1つであるが、長い間土壌に埋まっていた試料、大災害(火災・洪水・ハリケーン・地震・航空機事故など)の被害者からの試料など、個人の特定が難しいものが少なくなかった。こうした劣化が激しい試料からでも効率よく高純度のゲノムDNAを抽出する方法が求められていた。

信州大学医学部法医学教室と日立ソリューションズは共同研究により、発掘人骨や戦没者遺骨から効率良くゲノムDNAを抽出する方法を見いだし、60年経過した戦没者遺骨からでも70%以上の確率でDNA鑑定が可能であることを示した。この技術を基につくられた本キットは、劣化した硬組織(歯牙・骨)をキット付属の3種類の特殊な試薬に順番に浸し反応処理することで――かつ一度の抽出作業で――、STR(short tandem repeat)解析、ミトコンドリアDNA解析などのDNA鑑定に使用可能な純度の高いゲノムDNAを得ることが可能になる。また本キットを用いた場合、従来、歯牙や骨を解析する際に行う粉末化や断片化処理を行う必要がなく、また長時間を要する脱灰処理についても比較的短時間の処理でゲノムDNAの抽出ができる。このように従来法より短時間かつ簡便な操作性であることも大きな特徴である。

本キットは1キット(定価5万9,000円:税抜き)で、20試料分のDNA抽出作業を行うための試薬が入っており(写真2)、販売開始以降、全国の科学捜査研究所等の公的研究機関や大学医学部法医学関連施設などへ多数の販売実績がある。

写真2 TBONE EX KIT の内容物

重要性が高まる法医実務

「TBONE EX KIT」は、各種法医学現場や大規模災害現場等DNA鑑定を必要とする現場において、有力なDNA鑑定ツールとして広く活用されることが期待される。今後、DNA鑑定の解析技術の向上に合わせ、大規模災害や事件等で身元特定のため、ますます重要性が高まるであろう法医実務に対して、ライフサイエンス関連企業としてこれからも品質の高い製品の提供と支援を行っていく予定である。