2013年8月号
特集 - 「新技術説明会」120%活用法
[マッチング事例]空間磁界可視化システム
金沢大学ティ・エル・オー+株式会社ノイズ研究所
大都市圏の企業に紹介できる

株式会社ノイズ研究所が2012年夏から販売している空間磁界可視化システムは、金沢大学の八木谷聡教授の発明を活用している。科学技術振興機構の「新技術説明会」で同教授が発表したことがきっかけで技術移転が実現した。

シーズ

発表したシーズは、金沢大学理工研究域電子情報学系の八木谷聡教授が発明したものである。測定対象物が発する低周波磁界の強度のレベルを、パソコンのモニタ上に映した対象物のカメラ画像に重ね合わせてカラー表示するシステム。画像認識技術を使い、磁界センサの位置を把握して磁界空間分布を可視化する技術である。パワーインバータが多用される家電製品、太陽光発電などの電力設備、鉄道車両、電気自動車の充電スタンドなど多様な電子・電気機器に活用できる。

産学マッチングから製品発売までの経過 ~GAP FUND利用の試作品で説明~

2008年7月開催の金沢大学新技術説明会で、八木谷聡教授(発表当時は理工研究域電子情報学系准教授)が同学の開発研究促進助成金(GAP FUND)を活用して製作した試作品を用いて発表。株式会社ノイズ研究所が翌8月に金沢大学ティ・エル・オーに問い合わせをし、交渉の末、2009年4月に特許実施許諾契約を締結。同社で技術の改良、製品開発が行われ、2012年7月に製品販売を開始した。

空間磁界可視化システムの事業化

ノイズ研究所が販売しているのは「EPS-02EMF system」「EPS-02H」シリーズなど。

空間電磁界可視化システム EPS-02 シリーズ

これらのシステムは「磁界測定部」「信号処理部」「専用ソフトウエアをインストールした制御パソコン」の3つの装置とカメラで構成される。カメラはUSBインターフェースでパソコンに接続されている。

使い方は次のとおりである。測定する領域を三脚等で固定したカメラで撮影すると、モニタ上に画像が表示される。次の操作で、等間隔のマス目が画像の上に現れる。測定対象物の前にセンサをかざして、ゆっくり移動させると画像のマス目の中が磁界強度に応じた色に変わる。

待たれていた磁界可視化のシステム

非常に強い電磁界(磁界と電界[空間に電気の力が働いている状態]が組み合わされたもの)に人体がばく露されると、健康への影響が生じる恐れがある。この影響から人体を防護するため、どのようにばく露を制限すればよいかを示すガイドライン等を設ける動きが各分野で進んでいる*1

このため、金沢大学ティ・エル・オーの中村尚人社長によると、磁界を可視化するシステムの発売は「市場で待望されていた。販売されれば売れることが分かっていた」と言う。従来、新技術説明会や各種展示会で発表すると、使いたいという企業は非常に多かったが、機器を供給する企業がなかった。

小型の磁界センサを使えば磁界の強さを測定することはできたが、位置ごとの強度をモニタに表示するようなことはできなかった。また、走査機構を使って磁界センサを移動させ、電磁界の空間分布を測定するシステムはあったが、これだと測定に時間がかかりすぎることや装置が大きくなることから、使える場面が限られていた。

金沢大学ティ・エル・オーにとっての新技術説明会

金沢大学ティ・エル・オーのメンバー。
中央が中村尚人社長。

中村社長は新技術説明会について次のように位置付けている。

「金沢大学のシーズ(特許)を企業に売り込む一番の手段だと思う。地方の大学が技術移転で苦労するのは、技術力、資本力があり、ニーズが見込まれる大都市圏の企業を探すこと。大都市圏の大学と比べ、地理的にハンデがある。その点、新技術説明会は東京都心で、発表テーマに関心のある企業を対象に、一度に7~8件のシーズの発表ができる」

この「空間磁界可視化システム」は、企業の製品販売までいったという意味では大きな成果だったという。

「八木谷先生のシステムはセンサを使っているので、磁界のセンサの代わりに放射線のセンサを使えば、空間放射線の可視化ができる。磁界以外への応用を検討し、さらに産業界への技術移転を進めていきたい」(中村社長)

(本誌編集部)

●磁界とは
電磁石などの上にプラスチックの下敷きを置き、その上に鉄粉をまくとN極とS極の間を結ぶ幾つかの筋ができる。磁界とは、このように磁気の力が働いている状態のことを言う(中部電力ホームページ「電磁界(電磁波)の基礎知識」)。金属などに電流が流れると周りに磁界が発生する。

*1
最も広く利用されているのはWHO(世界保健機関)が認知している非政府機関である国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドライン。このICNIRPのガイドラインは欧州連合(EU)理事会がEU加盟各国に採用を勧告しているのをはじめ、南米、アジア・オセアニアなど世界の約50カ国で採用が進んでいる(環境省環境保健部環境安全課「身のまわりの電磁界について」平成25年3月)。