2013年8月号
特集 - 「新技術説明会」120%活用法
[マッチング事例]脳波測定による香り感性診断
長岡技術科学大学+ユニ・チャーム株式会社
世の中のニーズを肌で感じる

ユニ・チャーム株式会社が2年前から販売しているパンティライナー「ソフィ Kiyora フレグランス」の開発には、長岡技術科学大学工学部の中川匡弘教授の研究グループの脳波測定による香り感性診断の手法が使われている。新技術説明会で中川教授が発表した内容に同社が興味を持ってコンタクト、それが共同研究に発展した。

シーズ

長岡技術科学大学工学部の中川匡弘教授の研究グループは、脳波や近赤外分光計測により得られる生体信号の波形の有する複雑性に注目した新規感性情報計測手法を提案し、フラクタル次元という普遍的な尺度で脳の活性に係る時空間ダイナミクスを解析し、感性との関連性について報告してきた。ストレスや軽快感、清涼感、安心感といった高次感性(深い感性)の計測についてもチャレンジしている。「感性フラクタル解析手法は、SD(Semantic Differential)法に代表されるアンケート方式では困難である、時々刻々と変化する感性の評価を可能とし、グローバル化する産業社会において、オープン・イノベーションを支える21世紀のモノづくりに有用であると考えられる」と中川教授は述べている。

産学マッチングから製品発売までの経過

中川教授が発表した2007年6月の新技術説明会においてユニ・チャーム株式会社と最初にコンタクトし、その際、同社から脳波の複雑性(フラクタル性)に基づいた感性計測の応用として紙おむつや生理用品の開発の提案があり、2008年4月に共同研究開始となった。実際の被験者として、一般のコンシューマを想定して、年齢層もターゲットを絞り、感性計測実験を行った。中川教授によると、今回の共同研究では、例えば「パンティライナーとして求められる香りとは何か?」について、脳波測定による香り感性診断を活用した研究に取り組み、その結果、その要求に応える香りづけを行い2011年9月に同社が「ソフィKiyoraフレグランス」(写真1)を販売開始した。

写真1  ソフィKiyora フレグランス

「ソフィKiyoraフレグランス」の特徴

中川教授の研究グループは、脳波のフラクタル解析による感性診断の結果を基に、「やさしい」は“スイート”としてやさしいローズの香りを、「豪華な」は“ラグジュアリー”としてぜいたくなイランイランの香りを、「爽快感」は“フレッシュ”として爽やかなグリーンの香りをブレンド開発した。パンティライナーを交換する時や化粧ポーチに入れて持ち運ぶ時など、ほのかに香水のような香りがし、さまざまな生活シーンで女性の感性を引き出す*1

「今回の共同研究では、上記3感性が、女性が当該製品に求めている香りの感性であることを脳波のフラクタル性に基づいた感性解析から究明し、性能・価格・品質に次ぐ第4の価値である感性を付加価値とした商品開発に成功した」(中川教授)*2

求められる感性診断

感性情報計測技術は、従来のモノづくりの基軸である機能的価値(表層価値)、具体的には“性能”“価格”“品質”に次ぐ第4の価値として情緒的(意味的)価値(深層価値)を生み出す。例えば“安心”“調和”“快適”“幸福感”を新規付加価値としたモノづくりへのパラダイムシフトをもたらし、急速にグローバル化する産業社会に埋没しない21世紀の新しいモノづくり基盤を確立するものと期待されている。この技術の今日的意義について中川教授はこう説明する。このような産業界の変遷は、“本物”を嗜好(しこう)する現代女性の価値観の流れと符合している。

長岡技術科学大学にとっての新技術説明会

「発表者の立場からは、当方の先端技術を広く知っていただくための絶好の機会であり、さらに、世の中のニーズを肌で感じる場でもある。産学連携の意味からも有意義である」(中川教授)

「JSTの全国区の広報活動を通じて、通常のコーディネート活動ではコンタクトできなかった企業との交流が可能となっている。新技術説明会に参加する企業は、自社の持つ課題、テーマに沿った研究者・研究内容について聴講しているので、マッチングのきっかけとしては非常に有効な手段である。地方の大学が全国の企業に対して行うPRとしては、現在は、各専門分野ごとの学会発表が主体。企業の実用化に向けたニーズとのマッチングに関しては、学会での発表のみでは、専門的過ぎる観があり、新技術説明会を有効に利用することには大きな意義があると認識している」(長岡技術科学大学産学官連携コーディネーターの品田正人氏)

長岡技術科学大学の産学連携、技術移転活動

「一研究者の立場からは、技術移転に関しては産学連携に係るコーディネーター等の方のご支援が中核的役割を果たしていると感じている」(中川教授)

「全国の企業との一対一の産学連携の推進はもとより、現在、本学では地元自治体の要望を基に工業振興を目的としたコンソーシアムの立ち上げに力を入れている。そのため、企業訪問に力を入れ、地元企業の得意技術を抽出することで、本学教員のシーズとのマッチングを目指している。その活動の効果として、地元企業と大学との単独での共同研究にもつながってきている」(品田コーディネーター)

(文責:本誌編集部)

*1
感性1:やさしい【スイート】:やさしいローズの香り
ナチュラルなブーケの香りで、自宅でのんびりしたいときにオススメの香り。
感性2:豪華な【ラグジュアリー】:ぜいたくなイランイランの香り
オリエンタルなイランイランの香りは、ぜいたくな大人の雰囲気を楽しめ、パーティーや女子会のときなどに適した香り。
感性3:爽快感【フレッシュ】:爽やかなグリーンの香り
すずらんやハーブをブレンドした爽やかな香りで、気分をリフレッシュしたいときにぴったりな香り。

*2
平成23年度の日本感性工学会における本製品開発の発表に関して、同学会から優秀発表賞が贈られた。