2013年10月号
単発記事
実践的人材育成のコーオプ教育
顔写真

笹岡 賢二郎 Profile
(ささおか・けんじろう)

東京工科大学 コンピュータサイエンス学部
教授


企業と連携して進める「コーオプ教育」という実践的な人材育成の方法がある。東京工科大学はキャンパスのある東京・多摩地区で今春、試験的に実施。将来は本格的な導入を目指している。

試験実施

東京工科大学では、首都圏の理工系大学として初めて今年3月よりキャンパスのある多摩地域の地元企業と連携してコーオプ教育を試験的に実施した。

コーオプ教育は米国発の教育法である。NCCE(National Commission for Cooperative Education:全米コーオプ教育委員会)によれば「教室での学習と学生の学問上・職業上の目標に関係する分野での有益な職業体験を統合する、組織化された教育戦略である。これにより理論と実践を結び付ける斬新な経験を提供する。コーオプ教育は学生、教育機関、雇用主間の連携活動であり、当事者それぞれが固有の責任を負う」と定義されている。

本学八王子キャンパスがある多摩地域には、ものづくりやICTなど成長分野を支える開発型中堅・中小企業等の産業が集積しているが、これまで産学連携による人材育成・供給は十分行われていなかった。コーオプ教育の試験的な実施では、八王子市を中心とした5企業、1法人において、コンピュータサイエンス学部およびメディア学部の学生延べ15名が1週間から1カ月程度勤務。ものづくり加工、製品出荷検査、Androidアプリ開発、クラウド環境構築などの業務を担い、時給850円〜1,050円程度の賃金を得た。

これらを通じ、①デジタルサイネージやクラウドサ―ビスといった新産業の分野においては、企業内での人材育成が難しいので、産学連携型人材育成のニーズが高い ②大学側ではPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)系科目の強化が必要である――など、今後の本格実施に向けた課題も明らかにできた。

コーオプ教育とは

写真1 ジョージア工科大学でのミーティング風景

2012年夏に東京工科大学は「コーオプ教育」(Cooperative Education)についてその実態を調査するため副理事長、学長他が米国、カナダのコーオプ教育実施大学を視察した(写真1)。

その始まりは、1906年に米国シンシナティ大学工学部のハーマン・シュナイダー教授が開発したインターンシップ制度であると言われている。当時、米国では自動車産業等の大規模製造業の台頭により、高度な専門知識・技術を持つ人材の不足が深刻だった。そこで実践的能力の養成を目的に、工学系コースに学内の授業プログラムと学外の就業体験学習型プログラムを交互に受けるカリキュラムを設けた。

当時は大学の生き残りをかけた大学教育改革の一つの取り組みであったが、現在米国ではコーオプ教育参加学生は約28万人、実施校約500校、参加企業約5万社(2002年全米コーオプ教育協会〔Cooperative Education and Internship Association:CEIA〕による)にまで拡大したと言われている。

例えば、現在シンシナティ大学では、4学期制の中で原則1学期置きに就業体験を行い、実践と理論の学習が交互に行われ、それぞれの内容が効果的にフィードバックされるようになっている。また、2つのグループの学生を交互に同じ企業に就業するように配置し、企業から見ると年間を通じて学生が来ている状況も可能としている。学生は就業体験中の学期は大学に来ることはなく雇用先で仕事をしており、その間企業から賃金も支払われる。

表1 コーオプ教育とインターンシップとの相違

また、就業体験をするプログラムとして日本でもインターンシップ制度が広く行われているが、コーオプ教育とは表1のような違いがあると考えられる。

コーオプ教育の場合、企業は単なる就業体験のインターンシップと異なり、カリキュラムの一環として教員も成果の評価に関与するので長期継続的な業務、プロジェクトを学生に担わせることも可能となるとともに、受け入れ企業側もより実践的な環境で学生の能力を確認できることで、即戦力人材を採用できる可能性が高まることが期待される。

コーオプ教育が進んでいる米国では、産業界が求める人材像が大学側にタイムリーにフィードバックされ、大学と企業間の情報共有が促進されることや、学生自身も企業での勤務経験を通じて大学において学ぶべき知識やスキルが明らかとなるので、学習意欲が向上する――といった効果を挙げている。

今後の展望

産学が連携して取り組むコーオプ教育は、①大学と企業の連携により勤務内容の調整や事前教育の実施などマネジメントを行うこと ②学生が企業において賃金対価を前提として勤務し、企業側は賃金を支払うため、学生をお客さま扱いすることなく社員と同様の作業を与えること――でより実践型な内容となる。

東京工科大学では2015年度に新たな学部の創設を目指しているが、コーオプ教育は新学部の理念の一つと位置付けており、当該学部のカリキュラムの一部に組み込み本格実施する予定である。このため将来的には学生の受け入れ企業のさらなる拡大と「東京工科大学型コーオプ教育」を確立するための経験やノウハウを蓄積する必要がある。今後とも着実に試験実施を積み重ね、本格実施に向けた制度設計に反映させていくこととしている。