2013年11月号
特集 - 加速するオープンイノベーション
技術の新規用途開発の成功確率を高めるネットの活用方法
顔写真

諏訪 暁彦 Profile
(すわ・あきひこ)

株式会社ナインシグマ・ジャパン 代表取締役



顔写真

河崎 雄介 Profile
(かわさき・ゆうすけ)

株式会社ナインシグマ・ジャパン



大学等で生まれた新しい技術を起点に企業のニーズ、新規用途を見つけだすのは容易なことではない。ナインシグマのやり方は、技術を必要としている大企業のために、条件を満たす技術を世界中の組織から集めてマッチングを図るというものだ。

「ネット上で自分の技術を広く知らせたら、誰かが魅力的な新規用途を思い付いてくれるのではないか?」このように思ったことのある研究者は多いだろう。「大学や企業を1つの場所に集めれば、マッチングが起こって新しい事業を創出できるのでは」と期待して、多大な労力を費やして、技術交流会を開催する自治体も少なくない。

しかし現実には、有益な新規用途を提案してもらえたり、マッチングが起こることは極めてまれだ。

なぜだろうか? まず、世界に約800万人もいる研究者が日々生み出している新しい技術の中で当該の技術がより魅力的だと思ってもらう必要がある。これだけでも十分ハードルが高いが、次に、魅力的だと思った人に用途を思い付いてもらう必要がある。技術を知り尽くした開発者が思い付かない用途を、第三者が思い付く確率は極めて低い。仮に思い付いたとしても、それを教えるメリットはほとんどない。なぜなら、特許などで守られている技術と異なり、用途という「アイデア」は教えてさえもらえれば、教えてくれた側の制約を受けずに自由に活用できてしまうからである。

それにもかかわらず用途を教えてもらえたとしても、今度はその用途に研究者や企業が興味を持つ確率も極めて低い。このモノ余りの時代、市場ニーズ、戦略との適合性、収益性などの全ての条件が整わないと利益を生む事業にならないため、企業が投資すべきと判断できる領域は非常に限られているためだ。

ここまでの条件が全て成立する奇跡が起こったとしても、その用途において技術的優位性があるとは限らない。この話をすると、多くの人は途中で笑い出す。しかし笑いごとではない。こうした技術をもとにしてその新規用途を見つけだす活動について、その成功確率を楽観視し過ぎている人はあまりに多い。

技術の「お見合い」事業

株式会社ナインシグマ・ジャパン(以下「ナインシグマ」)のシステムは世界500社以上、国内でも100社以上の大手メーカーを顧客とする技術の「お見合い」事業者で、国内だけでもこれまで500件以上の技術マッチングのプロジェクトを実施してきたが、事業を成功させたいので前述のような不毛な戦いは避けてきた。

主な業務は、技術を必要としている大企業のエージェントとして、条件を満たす技術の提案を世界中の組織から集めてマッチングを図る、という逆の活動だ(図1)。こちらは構造的にうまくいきやすい。技術を提案する側は、新規用途開拓につながる上、技術は特許やノウハウで守られているので自らの技術の提案に積極的なためだ。実際、ナインシグマが2012年に実施した約100件の技術募集プロジェクトには世界中から約2,300件の技術提案が寄せられ、提案組織との直接の話し合いに進んだプロジェクトは85%を超えた。

図1 ナインシグマの技術の「お見合い」の仕組み

では、多くの研究者を抱える日本の大手メーカーがなぜ、お見合い事業者の助けを借りて外部の技術を見つけて取り込もうとしているのだろうか? その最大の理由は、製品ライフサイクルの大幅な短縮により、これまで3~5年かけて開発してきたレベルの技術を、1~2年で開発することが求められるようになったことにある。すでに自社・サプライヤー・知り合いの先生の英知を総動員して開発しているのに、さらに短期間で技術を開発しようとすると、今の開発体制に無い新しい技術やスキルを取り込まない限り非連続のジャンプはできない。今の自分たちのネットワークに無い技術を見つけだすのは容易ではないため、世界規模の技術者ネットワークを持つ「お見合い」事業者を活用するわけだ。

成功確率を高める鍵

前述の通りナインシグマは、創業以来「ニーズに合う技術を集める」活動に注力してきた。しかし、マッチングが起こることは極めてまれ、とお伝えした「技術をもとにした新規用途開拓」に関しても、当社が仲介した帝人株式会社のケースが2012年8月6日号の日経ビジネスで紹介され、また、三菱レイヨン株式会社のケースが2013年9月25日の日経産業新聞に取り上げられるまでの成果を上げられるようになった。

理由は、成功確率を飛躍的に高める2つの鍵を見いだしたことにある。

最初の鍵は、技術の「用途」と「用途における強み」の仮説を、技術を持つ側ができる限り多く考えて用意することだ(図2)。これをあらかじめ用意することにより「用途を思い付いてもらう」「用途を教えてもらう」「投資すべき領域とマッチする」「技術優位性がある」という要素を心配する必要が無くなり、提示した用途において、「相手が興味を持つかどうか」だけの判断にすることができる。

図2 技術の新規用途開拓の難しさと確立を高める鍵

もう一つの鍵は、身もふたも無い話だが、「できるだけ多くの潜在ニーズを持つ企業にぶつける」ことで相手の反応を見ることだ。帝人や三菱レイヨンのケースでは、5~10の用途の仮説を、ナインシグマのネットワークを活用し1,000を超える企業に打診して、新たな用途の可能性を見いだした。

技術交流サイト「テクロス」

しかし、学術分野における中心プレーヤーである大学から発信される情報は論文が中心となっており、技術の「用途」と「用途における強み」を、ニーズを持つ企業から見て分かりやすく提示することは難しい。

そこでナインシグマは今年の5月より、技術交流サイト「テクロス*1」をスタートさせた。テクロスは、技術キーワードをひとくくりに扱わず、技術と用途をセットで提示でき、またその用途ごとに強みを整理できるようになっている。その用途の強みは仮説としても登録できるので、実際に潜在ニーズを持つ企業にもぶつけてみることができる。

技術は、用途の仮説とセットで登録され、これまで付き合いの無かった多くの企業の目に留まる機会が増えるため、先生であれば研究資金獲得、任期付きの研究者であれば次の雇用主へのPR、とさまざまな目的において、機会を拡げる手段として期待できる。

また、テクロスに自分の技術やスキルを登録することにより、大学の先生であれば、これまで共同研究をちらつかされ提供してきた無償の技術アドバイスを、1時間数万円の有償サービスにできる環境も提供していく予定である。

現在は日本語のみでの対応になっているが、多国語展開ができれば、技術アドバイスや技術の新規用途展開の可能性は、世界規模で拡げていくことが可能になる。