2014年1月号
特集2 - より強く より高く
化学グランプリ・国際化学オリンピック
日本の「化学力」支える人材を発掘
顔写真

片山 靖 Profile
(かたやま・やすし)

化学グランプリ・オリンピック委員会 委員長
慶應義塾大学 理工学部応用化学科 准教授


世界有数の「化学力」の国、日本。高校生を対象にした化学コンテストの推進を通じて、中高生に化学の面白さを伝えるとともに、世界に通用する次代の人材を発掘する。

はじめに

7名ものノーベル化学賞受賞者を輩出していることからも明らかなように、日本は世界有数の「化学力」を持つ国である。この化学力をこれからも維持していくためには、世界に通用する化学者の育成が必要不可欠である。化学の道に進む若者を増やすためには、大学進学前の中学校・高等学校の生徒に対して、教科書では分からない化学の面白さ、重要さ、そして奥深さを伝え、化学に対する関心を高めることが重要である。化学グランプリと国際化学オリンピック(International Chemistry Olympiad=IChO)はそのような若い世代への化学の普及・啓蒙と、優れた人材の発掘につながると期待される。

化学グランプリ

化学の普及・啓蒙を第一の目的とし、高校生が化学に関する知識と実験技能を競う大会として、1998年に「夢・化学-21」委員会(公益社団法人日本化学会、公益社団法人化学工学会、公益社団法人新化学技術推進協会、一般社団法人日本化学工業協会で構成)の事業として「全国高校化学グランプリ」(第0回)が企画され、181名の参加者を集めて開催された。翌年の1999年の第1回は、全国15会場で開催され、316名が参加した。その後、2009年から中学生の参加を認め、2012年から「化学グランプリ」に名称を変更し、2013年の第15回では全国61会場で3,481名が参加する大きな化学コンテストに発展した(図1)。化学グランプリは「夢・化学-21」委員会と日本化学会の共同主催で開催されており、科学技術振興機構(JST)国際科学技術コンテスト支援事業による支援などを受けて実施されている。なお、化学グランプリの参加費は無料である。

図1 化学グランプリの会場数(棒グラフ)と参加者数(折れ線グラフ)の推移

化学グランプリ2013二次選考の様子

化学グランプリ2013表彰式・日本代表認定式における野依良治先生を招いての懇親会の様子

化学グランプリは化学に関する知識を競う一次選考と実験を伴う二次選考の二段階で構成されている。毎年、海の日に実施される一次選考では、基礎化学、物理化学、無機化学、有機化学の4つの分野の大問が出題される。その内容はおおむね大学の1、2年生が学ぶレベルであるが、高等学校では習わない事柄については問題文中に説明があり、それを理解し、考えれば解答できるよう工夫されている。2011年からは記述式からマークシート式に変更されたが、問題のレベルに大きな変化はなく、平均点は約3割である。一次選考は全国を7つのブロック(北海道、東北、関東、東海、近畿、中国・四国、九州)に分けて実施されている。一次選考の成績上位者約80名が二次選考に進出するが、7つのブロックからは少なくとも1名が二次選考に進出できる。二次選考は合宿形式で実施され、生徒たちは4時間にわたって実験を伴う記述式問題に取り組む。一次選考と二次選考を合わせた総合成績の上位者から、大賞(5名)、金賞(15名)、銀賞(20名)、銅賞(40名)が贈られる。また、副賞として大賞にはノートパソコン、金賞、銀賞、銅賞にはそれぞれ1万円、5千円、3千円分の図書カードが贈られる。また、ブロックによっては、成績上位者に対してブロック(支部)表彰が実施されている。化学グランプリでの成績は、18の大学でAO(アドミッションズ・オフィス)入試および特別選抜入試における成績資料として利用されている。

化学グランプリは国際化学オリンピックの代表候補の選抜も兼ねている。化学グランプリの成績優秀者の中の高校1、2年生約20名および7つのブロックから推薦された生徒が、その次の年に実施される国際化学オリンピックの代表候補として認定される。代表候補は、2回にわたる選抜試験で4名に絞り込まれ、その後、数回の強化訓練合宿を受けた上で、国際化学オリンピックに代表として派遣される。

化学グランプリの運営と国際化学オリンピックへの日本代表派遣の実務を担っているのが、日本化学会の教育・普及部門に設置されている化学グランプリ・オリンピック委員会である。この委員会は、幹事会と、グランプリ、オリンピック、広報の3つの小委員会から構成されている。幹事会は、各小委員会の委員長と若干名の幹事、各ブロック(支部)の担当者から構成されており、事業全体を統括している。グランプリ小委員会は化学グランプリの一次選考、二次選考の実施、オリンピック代表候補の推薦に関する業務を、オリンピック小委員会は、代表候補に対する教育支援、日本代表の選抜およびその後の強化、国際化学オリンピックへの派遣などの業務を、広報小委員会は化学グランプリと国際化学オリンピックの広報活動をそれぞれ担当している。

国際化学オリンピック

国際化学オリンピックは1968年にハンガリー、旧チェコスロバキア、ポーランドの東欧州の3カ国によって開催された高校生を対象とする学力試験を出発点とする、化学の知識と技能を競う国際大会である。旧チェコスロバキアで開催された第1回の参加者数はわずか18名であったが、その後、参加者数は徐々に増え、2013年の第45回ロシア大会では、73の国・地域から291名の高校生(開催年の7月1日時点で大学や化学専門学校に所属していない20歳未満の高校生)が参加する大規模な国際大会に発展している(図2)。

図2 国際化学オリンピックの参加者数の推移

国際化学オリンピックは、毎年7月に開催される。約10日間の会期中に、参加者はそれぞれ5時間に及ぶ実験問題(Experimental Examination)と理論問題(Theoretical Examination)に取り組む。これらの競技はいずれも個人戦であり、1つの国・地域当たり4名が参加できる。成績優秀者には金メダル(参加者の1割)、銀メダル(同2割)、銅メダル(同3割)がそれぞれ贈られる。これらの試験のほか、エクスカージョン(Excursion)として、スポーツやゲームなどを通じて開催国独自の文化を体験できるプログラムが用意されており、参加者はこれらを通じて交流を深めることができる。

国際化学オリンピックは国際審議会(International Jury)と運営委員会(Steering Committee)によって運営されている。国際審議会は主催国の責任者1名、大会に参加した国・地域の引率者(メンター)2名と運営委員会の委員長から構成され、国際化学オリンピックの試験の実施と管理を行っている。運営委員会の委員は、国際審議会における投票によって、欧州から3名、南北アメリカから1名、アジアから1名、環太平洋地域から1名がそれぞれ選出される。運営委員会は国際化学オリンピックの中長期的な業務を管理している。

表1 国際化学オリンピックにおける日本代表の成績

日本は2003年にギリシャで開催された国際化学オリンピックに初めて4名の代表を送り、2個の銅メダルを獲得した。その後は毎年参加し、好成績を収めている(表1)。また、オリンピック代表生徒の多くが大学の化学系の学科、専攻に進学しており、今後の活躍が大いに期待される。