2014年2月号
単発記事
自動車等の排熱を電気エネルギーへ再資源化
―排熱発電コンソーシアムの国際戦略―
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飯田 努 Profile
(いいだ・つとむ)

東京理科大学 基礎工学部材料工学科 教授



化石燃料を使ったエネルギーシステムの効率は高くなく、燃料の70%程度が熱として排出されている。この熱で発電し、その電気エネルギーを活用すれば、化石燃料の使用料=二酸化炭素(CO2)排出を削減できる。欧州では、自動車のCO2排出規制が強化されており、研究開発が熱を帯びている。

はじめに

現在のエネルギーシステムは化石燃料を中心に構築され、その約70%は未利用のまま排熱として捨てられている。化石燃料の大量消費による二酸化炭素(CO2)排出は、地球規模の温室効果を誘発し世界的な気候変動への懸念が強まっている。こうした中で、捨てられている熱(排熱)を電気に直接変換して電気エネルギーとして再資源化する取り組みが世界的に活発化している。化石燃料の使用量の削減、すなわち二酸化炭素の排出抑制に直結するものである。

熱機関からの排熱を電気エネルギーへ再資源化する省エネルギー技術には、タービン、スターリングエンジン、熱電変換材料による方法等があり、工業炉排熱や船舶、自動車排熱等への適用に向け実用化技術開発が積極的に推進されている。排熱発電コンソーシアムでは、これら熱電気変換型に関する技術の連携開発・展開・実用化を主目的としている。ここでは、誌面の都合上、現在、欧米を中心に行われている固体素子型熱電変換技術による自動車排熱の再資源化に関して、排熱発電コンソーシアムの取り組みを紹介する。

欧州自動車燃費規制の強化

2015年以降、欧州連合 (EU)域内で販売される自動車には、厳しいCO2排出規制が課せられる。車重1,372kgの自動車に対して2015年に150g/km、2020年からは95g/kmとなることが決まっている。特に、95g/kmの規制値は、現在販売されているほとんど全ての自動車がクリアできない状況である(図1)。この規制が達成できない場合には、極めて高額な95ユーロ/gの制裁金が自動車メーカーに科せられ、現状のままでは総額数千億円規模の支払いが想定される。また、2013年6月には、2025年に排出規制を75g/kmとすることがアナウンスされている。

図1 EUにおける自動車CO2排出規制

このため、次の10年間の燃費向上対策は極めて重要な技術課題であり、さまざまな省燃費技術の導入が検討されている。その中で一定の効果が期待される熱電変換型排熱発電によるCO2排出削減技術開発が欧州・米国の主要な自動車メーカー(BMW、GM、Ford、Daimler、VW、 Renault、OPEL、Fiat、Volvo、Audi等)、自動車部品メーカー(Bosch、Faurecia、Tenneco、Valeo、Behr、Emitec、Eberspächer等)では積極的に行われている。

走行に使用されている燃料の割合は、Well To Tank方式で多くても16%しかなく、約70%程度が熱として排出されている。この未利用熱を電気エネルギーとして再利用できれば、現在エンジンに接続されている補器類(パワーステアリング、冷却水ポンプ、エアコン等)を電動化できる。そうなれば発電機を小型化できるし、場合によっては発電機が不要になるかもしれない。

2010年の世界の新車生産台数は7,100万台であるが、途上国での自動車需要が大きく伸びており、EUの予測では、2020年には1億300万台に拡大する(図2)。日本では近年ハイブリッド車や電気自動車等のいわゆるアドバンスドカーが普及しているが、途上国需要を含めた世界的な趨勢(すうせい)では、2020年においてもおよそ1億台がガソリン車やディーゼル車といった化石燃料ベースの自家用自動車である。加えて、トラックでも当分は、化石燃料が主となり、自動車分野での熱電発電方式の排熱発電システム開発はCO2削減の意味からも急務である。自動車への搭載については、排熱発電システムの低コスト化が必須であるが、欧州では燃費規制制裁金の導入により将来的にペイできるという試算に基づいている。

図2 将来的な自動車パワーコンポーネントの予測

排熱発電コンソーシアム―趣旨と構成、および知財

排熱発電コンソーシアム(Waste Heat Recovery Technology Consortium of Japan)は、工業炉排熱や船舶、自動車排熱等への排熱発電システムの実用化を目指し研究開発を行っている産学公のメンバーからなる研究開発グループである。「環境対応型熱電変換技術研究会」が前身で、同研究会の環境低負荷型熱電発電材料Mg2Siの実用材料開発の成功、および発電モジュールの試作を継承し、排熱発電の研究活動を支援するとともに、普及と実用化を目指して2009年に設立され、直ちに会則(排熱発電コンソーシアム会則)を制定した。本コンソーシアムは、次の5つの機能を有している。

(1)排熱発電に関するマッチングの場の提供

(2)国内外における開発動向情報収集および提供

(3)産学公による共同プロジェクトの支援および推進

(4)知的財産権の実施許諾

(5)研究・開発成果の普及並びに実用化の促進

現在は、熱電変換型発電のみならず、排熱発電全般を扱う研究開発グループを指向し活動している。

本コンソーシアムでは、排熱発電技術の普及と実用化を促進する観点からコンソーシアムの成果物としての“知財”を重要視して、その扱いのための知財ルール(知的財産に関する規定)を制定し、知的財産権の取得とその実施権許諾(ライセンス)のための、①コンソーシアムが扱う知財の範囲 ②知財に関する諸問題を解決する役員会の役割と知財委員会の開催 ③実施権許諾のための判定指針などを定めている。

図3 排熱発電コンソーシアムで扱う技術開発分野

コンソーシアムは正会員31社(法人)と特別会員23名とで構成され、特別会員は、会の目的に賛同する学識経験者等である。会長、副会長、監査役、事務局長、事務局長代理、知財担当で構成される役員会が設置されている。本コンソーシアムで扱う熱電変換材料による技術開発分野は、図3に示す通り、「原料」「発電素子」「発電モジュール」「発電システム」に大別され、これら技術分野に直接的、間接的に関与する要素技術を有するメンバーによりワーキンググループが構成され、共同研究開発の実施、成果の知財化、海外企業、プロジェクトとの連携が行われている。

熱電発電技術事業、プロジェクト申請および推進と国際連携

従来は主として高い熱電変換能力を有する「材料の開発」に注力されてきた経緯があり、熱電変換材料に電極材や集電配線を配した発電モジュール、および発電モジュールの自動車や工業炉熱源への実用的なシステムインテグレーションについては、ほぼ手付かずの状態が長く続いていた。

排熱発電では、太陽電池のように、ほぼ一定の太陽光エネルギー(〜1kW/m2)と異なり、熱源によって数kW/m2〜数十kW/m2におよぶ大きなレンジがあることに加え、熱エネルギーの入力も熱源の温度、輻射・熱伝導、熱緩衝材の有無等、さまざまな形態がある。欧米では、熱電型排熱発電実用化が喫緊の課題であり、それを早期に実現するには、当該技術の研究開発の段階から適切なバリューチェーン、サプライチェーンを見据えた連携開発体制構築が不可欠である。熱電型排熱発電システム開発では、差し迫った欧州の燃費規制対策に呼応する技術開発が求められるため、わが国産業界の現状と国際連携の推進に鑑み、垂直統合型のビジネスモデルではなく、当該技術に関連する要素技術を有する複数の企業グループが一体化する水平統合型による技術開発がリスク分散の観点からも必須であると考えており、本コンソーシアムのミッション・ターゲット設定の指針となっている。

コンソーシアム内には、現状、熱電発電技術に関する7つの共同開発ワーキンググループがあり、前記会則によってその共同研究の支援および推進を支援している。また、今後の実用化を見据えて、研究開発成果に係る体系的かつ強力な知的財産権化に重きを置き、前記知財ルールによる支援を行っている。さらに、熱電発電技術に精通した知財専門家の育成と確保が重要課題と捉え尽力している。

現在、欧州、米国市場を中心にメンバー企業の製品のサンプル提供、販売を行っているが、輸出に関してはさまざまな手続きが必要であり、また、熱源への設置にはカスタマーとの緊密な情報共有に基づいた製品開発過程が必要なことから、マーケティングを含めてメンバー企業の豊田通商株式会社が当該業務を統括して行っている。特に欧州では、熱電発電技術の標準化作業に着手しており、わが国の有する技術要素を内包、反映させる上でも当該欧州グループとの積極的な連携が必要であると考えている。

図4 国際熱電学会、欧州熱電学会での様子

コンソーシアムでは、年4回開催される会で、海外技術動向、熱電関連国際会議報告、研究報告会、交流会、国内外からの講演会、メンバー企業所有熱源見学会、特別会員(研究機関、大学)研究設備見学会等を行っている。また、国際熱電学会(毎年開催:米国、欧州、アジア周回開催)、欧州熱電学会(欧州開催)、日本熱電学会において、エキシビジョンブースを設置し、メンバー企業の製品や関連技術、大学および研究機関の成果を展示、発信、および商談を行っている(図4)。国内における開発動向調査として、調査会社・シンクタンクに市場・技術調査を依頼し、現在までに2度調査を実施している。

本コンソーシアムでは、ワーキンググループが積極的に国内諸機関の補助事業、委託事業に申請を行っており、2013年度から、経済産業省「未利用熱エネルギー革新的活用技術研究開発」に採択されている。国際連携では、EUにおいて実施されたFP7(第7次研究枠組み計画 : 2007〜2013年)における熱電発電技術開発について一部連携、支援を行った。また、2014年より開始されるHorizon2020(第8次研究枠組み計画: 2014〜2020年)についても、継続して連携することとなっている。この他に、台湾の熱電排熱発電関連企業および研究機関との連携、共同開発は拡大継続して行く予定である。