2014年4月号
特集2 - 企業の新規事業 なるほど大学連携法
痛風リスクの遺伝子診断方法
ABCG2遺伝子多型検査の商用受託化~
顔写真

山口 敏和 Profile
(やまぐち・としかず)

株式会社ビー・エム・エル
執行役員 先端技術開発本部長


痛風患者は日本だけで100万人近く。東京大学は、ABCG2という遺伝子が痛風の原因である尿酸の体外排出に強く関わり、これの機能低下が痛風リスクを著しく高めることを発見。この発見を基に痛風発症リスクを診断する技術を確立した。この診断法が株式会社ビー・エム・エルにライセンスされ、検査サービスとして実用化されている。

はじめに

遺伝子多型検査には、特定の疾患にかかりやすいかどうかという個人の感受性、抵抗性の違いを見るような検査と、服薬する特定の薬剤の代謝速度や解毒効率の個人差を見てその薬の有効性や副作用の強さを予測するような検査がある。後者はファーマコゲノミクス(PGx)検査と呼ばれ、オーダーメイド医療の中心的な役割を果たしている。株式会社ビー・エム・エル(以下「弊社」)のような検査センターの使命は、医師が病気の診断や治療方針の決定に直接役立てられ、被検者に医療的な恩恵を授けることができる検査を開発し、提供していくことにある。

ABCG2遺伝子多型検査の受託化に至る経緯

本稿で紹介するのはABCG2遺伝子多型の検査である。健康診断などで血清中の尿酸値が高いことが分かった場合、将来、自分自身の尿酸値がどのように推移し、痛風にかかるリスクがどの程度高いのかを知ることができる検査である。さらに、単なる将来予測にとどまらず、自分の体質に合わせた生活習慣指導や服薬治療を医師から授かることで、尿酸値を適正にコントロールして痛風の発症を免れることができるという被検者メリットがある。

弊社が本検査を手掛けるようになったきっかけは、2010年1月に株式会社東京大学TLOより、「痛風リスクの判別遺伝子」として新規技術の紹介を受けたことに始まる。これは東京大学医学部附属病院薬剤部の高田龍平助教(当時)と防衛医科大学校分子生体制御学講座の松尾洋孝助教(当時)らの研究成果として発明、権利化された医学検査であり、弊社がライセンスを受けて商用受託の遺伝子検査を開始して現在に至っている。

ABCG2遺伝子多型検査の概要

弊社では、遺伝子多型の中でもSNPと呼ばれる一塩基の配列の違いによる個人間の多様性を調べる方法として、インベーダー法と呼ばれる簡便で特異性の高い検査技術を用いて数多くの受託項目を提供してきた(図1)。特にABCG2遺伝子多型のような2カ所の塩基配列のパターンを分別することを目的とした検査には、インベーダー法は好適な手法であった。ABCG2遺伝子のQ126XおよびQ141Kの2種類のSNPの組み合わせにより、ABCG2の機能低下を来し、それが痛風の発症に関与することがこれまでの研究で明らかにされているので、図2に示したような6パターンのSNPをインベーダー法によって分別するのが解析の内容となる。それにより、ABCG2の機能低下度が25%以下、50%、75%、および100%保たれている場合に分けられるので、この機能低下度に対応した痛風発症リスクの違いを検査結果として依頼元の臨床医にお返ししている。

図1 インベーダー法の反応原理

図2 ABCG2の機能低下と痛風発症リスク
参考文献**2より引用

今後の展望

このような新しい研究から生み出されてきた検査には保険適用がなく、被検者の自費あるいは検査依頼施設の負担で実施されるため、受託コストを安価に抑えることも普及の要件となる。本検査では、血液検体からのDNAの分離精製と2カ所のSNP解析という検査内容で定価を1万5千円と設定した。販売先は、高尿酸血症や痛風患者を診ている全国の病院およびクリニックが広く対象となるが、中でも痛風専門外来を持つ医療機関には特に本検査の診療的有用性を強くアピールしていきたい。これまで、痛風は中年以降の男性に多い病気と考えられていたが、最近では20~30代で発症する患者も見られる。ABCG2遺伝子に変異が認められる場合には、そうでない場合に比べて痛風の平均発症年齢が最大で6.5歳若くなること、20代以下では痛風発症のリスクが最大22.2倍も高くなること、そして20代以下で発症した痛風患者の約9割がこの遺伝子変異を持っていたという新しい知見が2013年6月にオンライン総合科学雑誌「Scientific Reports」に発表された(図3)。本検査の結果は、高尿酸血症患者に対して、より積極的な生活習慣の改善や服薬治療の開始時期を考慮する上で有用な情報となり、また、血清尿酸値が正常な人に対しても、自分自身の痛風罹患(りかん)リスクを早期に知ることによって生活習慣を改善し、予防に努める意識の向上が期待できる。

図3 痛風の発症年齢とABCG2の機能別に見た痛風の発症リスク
参考文献**2より引用

●参考文献

**1
Matsuo H, Takada T, Ichida K et al: Science Translational Medicine, 1, 5ra11, 2009.

**2
Matsuo H, Ichida K, Takada T et al: Scientific Reports, 3, 2014, 2013 (Published 18 June 2013).