2014年5月号
特集2 - 特許料軽減を生かす
中小企業にとっての特許の活かし方
顔写真

土生 哲也 Profile
(はぶ・てつや)

土生特許事務所 弁理士
株式会社IPV研究所 代表取締役


企業は特許に対して、参入障壁の構築、模倣対策といった知的財産権の排他的な効果を期待しているが、中小企業の知的財産活用の成功例等をみると、特許の効用はそれにとどまらない。「特許の力を活かして自社の強みを顧客やパートナーに伝え、事業展開に必要な多くの仲間を得る」という視点から考えたらどうかと説く。

本年4月より産業競争力強化法に基づく特許料等の軽減措置の運用が開始され、所定の要件に該当する中小・ベンチャー企業、小規模企業の特許出願の審査請求料と特許料が約3分の1に軽減されることとなった。制度の詳細は別稿に譲るとして、本稿では中小企業が特許を取得する意味について、改めて考えてみることにしたい。

排他的効果に期待

「特許にはお金がかかる」。多くの中小企業が特許に対して持つイメージである。今回の措置はその負担を一部軽減するものだが、費用負担が軽減されれば中小企業は積極的に特許を取得するようになるであろうか。

本来、費用が高いか安いかは、金額の絶対水準だけで決まるものではない。“費用対効果”の言葉に表れるように、その費用をかけて得られる効果との関係で高いか否かを判断すべきものである。

つまり、中小企業が特許について考える際には、費用の絶対水準以上に、特許取得にどのような効果を期待するかが重要な要素となる。大きなビジネスにつながるなら100万円でも高くないが、明確な目的のない支出であれば10万円でも高い。

では、中小企業は特許取得にどのような効果を期待しているのか。知的財産権取得の目的に関する中小企業へのアンケート結果をグラフ化した、図1を見てほしい。

図1 知的財産権の取得目的(従業員規模別、無回答補正)
“平成23年度企業経営における知財活用基盤整備事業実施報告書”.九州経済産業局.
http://www.kyushu.meti.go.jp/report/1208_chizai/pdf/part03.pdf .p.12.

規模の如何に関わらず、参入障壁の構築、模倣対策といった知的財産権の排他的な効果に多くの中小企業が期待を寄せていることは明らかであろう。

次に図2は、知的財産の活用による成功事例、すなわち知的財産権の取得によって得られた効果についてのアンケート結果を、中小企業の規模別にまとめたものである。図1に示した期待する効果に比べると実際に得られた効果にはバラツキが見られるが、何か気付くことがないだろうか。

図2 中小企業の規模別にみた知的財産の活用による成功事例
“知財とうまくつきあうコツ”.近畿経済産業局.
http://www.kansai.meti.go.jp/kip-net/jirei/thizai2012press-web.pdf p.87から抜粋して作成

知的財産権保有の効果に関する項目のうち、上の2つは知的財産権の排他的な効果に関するものである。図1で高い期待が示されていたこれらの効果は、実際に得られた効果も比較的高い水準にあるが、企業の規模が大きくなるほど数値が上昇する傾向が表れている。これに対して、知的財産権の排他的な効果には直接関係しないPR効果や業務提携の実現といったそれ以外の項目は、図1では明らかな期待は示されていなかったが、排他的な効果に匹敵するような数値を示すものもみられる。さらにこれらの項目では、企業の規模が小さくなるほど数値が上昇するという、先ほどとは全く逆の傾向を示しているということにも注目したい。この相反する傾向から、何を読み取ればよいのであろうか。

販路開拓、業務提携にもつながる

一般に特許を取得する目的と言えば、排他権としての効果を活かした参入障壁の構築や模倣対策がイメージされやすい。しかし、中小企業が新たな事業を展開する際の課題として、他者を排除することばかりに意識を奪われてしまってよいものであろうか。優れた技術を開発し、守りをしっかりと固めたとしても、その技術を活かした製品やサービスが世の中に広がらなければ事業としては成り立たない。守るだけではなく、広げるための方策も求められるのである。特に規模の小さい企業にとって、その存在を知らせること、世の中に広めていくための仲間を得ることが何よりも重要な課題ではないだろうか。

そうした意識で改めて図2に注目すると、ここに表れている傾向の意味するところが浮かび上がってくる。規模の小さい企業ほど、事業を大きく展開していくためには、伝えること、仲間を得ることに対するニーズが強いはずである。他者を排除できたというだけでなく、PR効果が得られた、販路開拓につながった、業務提携が実現したということにも特許取得の効果を実感している企業が多い理由は、そこにあるのではないだろうか。

自社の強みを伝えるツール

ここまでの考察から明らかなように、中小企業が特許取得を検討する際、あるいは中小企業の支援者が特許取得のアドバイスをする際には、「特許を取得して参入障壁を築き、模倣品を排除する」といった典型的なイメージにとらわれることなく、「特許の力を活かして自社の強みを顧客やパートナーに伝え、事業展開に必要な多くの仲間を得る」という視点から考えてみることも求められるのである。

筆者は特許庁の調査プロジェクト**1等で、特許への積極的な取り組みが事業の成果に結び付いている多くの中小企業に接してきたが、それらの企業において特許は他者を排除することだけに役立っているわけではない。特許を取得するプロセスでの先行技術との対比を通じ、自社の技術のどの部分が他にない特徴であるかが客観化され、特許という形に“見える化”される。見える化された強みである特許は、オリジナリティーを客観的に伝える有力なツールであり、周囲からの注目を得やすくなり、説得力をもってその新しさをPRすることもできる。対象を明確に示せるので、ライセンス等で他社との提携を進めやすくなり、提携先の社内コンセンサスも得やすくなる。特許を取得することは、自社の強みを客観的に認識し、それを周囲に伝え、仲間を得ることにも、大きな効果を発揮し得るものなのである。

そしてもう一つ、特許を取得して客観的に“新しい”と認められることが、われわれは他社にはできない特別な仕事をしているのだ、という社員の自信や誇りを引き出すという側面も見逃せない**2。企業の規模が小さいほど、伝えることや仲間を得ること、社員の自信や誇りを引き出してモチベーションを高めることへのニーズは、より強いものとなるはずである。

中小企業が事業展開を進める上で社員数の少なさがハンデとなることは否めないが、企業のパワーは形式的な社員数だけで決まるものではない。数は少なくても社員の力をフルに引き出すとともに、顧客やパートナーなど社員数にはカウントされない多くの仲間の後押しを得れば、企業の持つ実質的なパワーを高めることができる。このシナリオが実現されている筆者が見てきた多くの元気な中小企業では、特許がそのために重要な役割を果たしている。

今回の軽減措置をきっかけに、特許の力でできることがないか、今一度考えてみてはどうだろうか。

●参考文献

**1
“知的財産経営プランニングブック”.特許庁.
http://www.jpo.go.jp/torikumi/chushou/chizai_planning.htm,(accessed2014-04-10).

**2
土生哲也.元気な中小企業はここが違う!.金融財政事情研究会,2013,p.172-179.