2014年11月号
単発記事
新潟大学理学部
県内企業と連携し学生のキャリア形成支援

学生に卒業後の進路を早い段階から考えさせるため、多くの大学がキャリア教育に力を入れている。理学部は比較的産学連携が難しいといわれるが、新潟大学理学部は県内企業などとのネットワークを築き、学生や教員が企業人と触れる機会を増やしている。その取り組みには隠れた狙いもある。

新潟大学理学部は、県内の大手・中堅企業などと連携して学生(学部生、大学院生)のキャリア形成を支援する活動を精力的に行っている。一般的に理学部は工学系学部等と比較して「産学連携」の推進が難しいといわれるが、同大学の取り組みは開かれた理学部にするとともに、産業界の活力を学生のキャリア教育に生かす試みだ。

理学部キャリアフォーラム

活動のベースになっているのが「理学部キャリアフォーラム」という、企業等の会員組織だ。現在、企業33社と官公庁2機関が参加している*1。参加企業・機関はいずれも過去に新潟大学理学部系の学部生・大学院生を採用した実績のあるところだ。2013年9月から企業回りを始めて、2014年1月に同フォーラムを正式に設立した。

学生と企業人が交流

理学部キャリアフォーラムは同学部の自前の資金で活動している。主なものは以下の二つである。

(1)「キャリアパス(自分の将来)を考える会」(年4回開催)

学生と企業関係者が理学部の講義室に集まり、企業側が進路選択に関する情報を提供し、学生と意見交換する。昨年11月開催が最初で、2013年度は今年の1月と合わせて2回開催した。

キャリアパス(自分の将来)を考える会

宮下孝洋教授

7月17日開催の今年度第1回の同会には学生30人、企業等からは19社・機関の28人が参加。IT、製造、地質、食品、金融、官庁の各業種からそれぞれ1人が「求める人材と最新動向」について講演(各10~15分)を行ったあと、参加者が4グループに分かれて意見交換(約1時間30分)を行った。学生側は20分ごとにグループを替わり、一巡するような仕組みを採っている。

企業人と意見を交わすことで、学生の企業を見る目が養われるのは当然だが、このフォーラム活動を中心となって推進している宮下孝洋教授(大学院自然科学研究科、実践型教育研究部門)によると、「単に個々の企業を知り、企業の考え方に触れるだけではなく、業種の特徴を理解できることが学生には有意義」だという。また、「グループでの意見交換により企業の学生観と学生の企業観がともに変化することが大きな特徴であり、成果だ」と指摘する。

(2)進路・就職情報の展示

業界および進路・就職情報展示室に、フォーラム参加企業・機関等のパネル、製品等のサンプル展示コーナーを設けることを準備中である。

講義に新しい風

「理学部キャリアフォーラム」を通じた企業とのつながりは講義や研究にも新しい風を吹き込んでいる。

全学年対象の選択科目に「科学・技術と社会」(2単位、前期)がある。この15回中3回の講義の中で、企業の役員等に話をしてもらった。本年度は、東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所の副所長から「原子力発電とエネルギー」、越後製菓株式会社の総合研究所長から「生物学の食品と医療応用」、および株式会社キタックの技術統括から「地質学の産業応用」についてそれぞれ講義が行われた。この取り組みは2013年度に準備して、2014年度から実施している。

また、「理学部コロキウム」で企業が発表するようになった。コロキウムは理学部の教員がどのような研究を行い、どのような成果を上げているかをお互いに知り、交流する場で、2002年度から毎年6回開催している。教職員、学部生、院生だけでなく、学外の方も参加できる。企業が参加したのは9月24日開催のコロキウムで、株式会社クラレ新潟事業所メタアクリル開発部の新治修氏が「ヒッグス粒子発見に貢献したクラレ・シンチレーション光ファイバー」と題して講演を行った。

地域企業を知り尽くしている

こうした事業をコーディネートしている宮下氏は、実は新潟県内の企業を知り尽くしている人だ。企業に20年間勤務(専門はリチウムイオン電池を含む電池材料の研究開発から事業化)した後、新潟県工業技術総合研究所で研究主幹という立場(任期付きの民間からの採用第1号)で県内企業を回り研究指導や共同研究を行った。その後、県内産業支援機関である「公益財団法人にいがた産業創造機構(NICO)」で7年間、技術面から地域企業を支援した。

宮下氏のこれまでのネットワークが大学で生かされているわけである。

大学院進学率を高める狙いも

「理学部キャリアフォーラム」を運営しているのは、理学部の「進路・就職指導委員会」。キャリア教育は大学の重要な使命の一つだが、隠れた狙いもありそうだ。学部から大学院への進学、およびその後の進路選択においてキャリアパスを明確にすることで、大学院への進学率を高めることである。

今春、新潟大学理学部*2を卒業した187人のうち大学院に進学したのは104人。また、大学院の自然科学研究科のうち理学部系*3修士課程を修了した88人中、博士課程に進んだのは12人である。

前者は2004年の128人が最近のピークで、後者は1999年以降徐々にではあるが減少傾向にある。このため、大学院修了後の就職や進路を明確にすることで大学院進学率を回復させ、研究力強化にも結び付けたいという思いが関係者にはある。

3年で基盤固め

宮下氏は「理学部キャリアフォーラムの取り組みは昨年度にスタートしたばかりだが、ホップ・ステップ・ジャンプで3年目の来年には形を整えたい。学部から大学院への進学およびその後の進路選択において、キャリアパスを明確にすることは大切な事であり、本フォーラムにより参加企業および学生の双方にメリットのある実践的な教育・研究を目指したい」と語っている。

(本誌編集長 登坂和洋)

*1
参加企業等の業種の内訳は情報・通信6社、製造業8社、建設・地質コンサルティング・鉱業・エネルギー8社、医薬品製造1社、食品6社、金融機関3社、鉄道1社、官公庁2機関である。

*2
数学、物理、化学、生物、地質、自然環境の6学科がある。

*3
数学系、物理系、化学系、生物系、地質系、環境系。