2015年2月号
座談会
座談会「TLOの新しい姿」
技術移転から“イノベーション移転”へ

大西 晋嗣 Profile
(おおにし・しんじ)

関西TLO株式会社
代表取締役社長


水田 貴信 Profile
(みずた・たかのぶ)

株式会社東北テクノアーチ
代表取締役社長


大西 由香 Profile
(おおにし・ゆか)

静岡大学 イノベーション社会連携推進機構
知的財産管理室 室長、准教授


わが国の大学に技術移転機関(TLO)の制度が導入されるようになって16年余り。着実に実績を積み上げてきた半面、当初関係者がもくろんでいたようには知財の活用は進んでいない。次々と設立されたTLOは、整理・淘汰(とうた)の時期を経て、新しい時代を迎えている。初期に設立され、現在も精力的に活動しているTLOは数少ない。新しいTLO像を探った。

大学とのすみ分け

大西(由) 大学から産業界への特許の移転という仕組みが導入されて、技術移転機関(以下「TLO」)や大学の産学連携組織の整備が進んできました。そして、技術移転の実績をそれぞれの大学とTLOが積み重ねてきましたが、どうも10年前に思い描いていたような像にはなっていないような気がします。今日は、この技術移転をより加速させるためにはどうしたら良いのかについて、お話をお伺いできればと思います。

大学の知的財産本部整備事業、産学官連携戦略展開事業を経て、現在、リサーチ・アドミニストレーター(URA:大学等における研究マネジメント人材)の導入が進んでいます。このような過程を通じて、大学とTLOの連携はどう変化してきたのでしょうか。

大西晋嗣氏

大西(晋) 日本版バイ・ドール条項*1ができて16年たちました。TLOは、大学とうまくすみ分けができつつあるなと思っているんです。特に大学内部の知財管理業務がものすごく強くなってきて、今ほとんどの大学で、先生方が発明を出したいと言ったら出願の判断まで普通にいけるじゃないですか。大学のそこの仕組み自体はすごいなと思っています。われわれとすみ分けができてきたのはマーケティングです。当初はTLOも大学の知財部もやることはよく似ていましたが、ここ10年ぐらいでTLOは営業に特化してきて、大学はその管理に関する業務に特化されてきています。

大西(由) そのすみ分けは何かきっかけがあったのですか。

大西(晋) TLOの意義が一瞬なくなりかけましたよね。大学とやっていることが一緒なので、誰がしてもいいんだという話になるじゃないですか。そのときに、僕たちTLOの特徴は何だ、何を一番重要視すべきかと考え、それはやっぱりマーケティングだったので、僕たちはそこに特化していった。その他の業務は大学と一緒に協働してやっていくというものでした。

水田 どんな整備事業、補助事業であっても、目指すところは同じだったはずです。つまり、製品とか事業化という目に見える形を増やすべく産学連携を強く活性化する、ということだったと思います。大学でもTLOでも、資金や人材が潤沢で全部自分でやれればよかったのですが、実際はそうはいかなかった。

そこで大学とTLOはお互いの得意分野で機能的に分業して、限られたリソースを適切に配分して、目指す成果を挙げる仕組みにした。それが知的財産本部整備事業から始まった一連の取り組みと理解しています。分業体制も成熟し、全体に目指す方向に着実に成果が蓄積してきていると私は見ています。

企業が何を求めているのか

大西(由) TLO内部には変化はなかったのでしょうか。

水田 ありました。ただそれは整備事業の有無より、ゴールを達成するために、企業側が求めていることは何なのかとか、どういうソリューションを出していくべきかなどを考え、悩み、実行する10年、15年の過程で生じた変化であった、と思っています。

大西(由) 大学側というよりは、企業の動きに合わせてということでしょうか。

水田 TLOの役割上、そうですね。最初の10年ぐらいは、弊社でも技術移転というのは契約締結して渡すまでがゴールと思っていました。後は企業側の資金力や開発力にお任せし、形になるのを待っていた、という時代でした。

ところが渡した後、人、金、技術のどこかで引っ掛かり、形にならないことも多かった。そこで、技術を渡す以外に、技術を形にしてもらうための支援活動、具体的には、研究開発用の資金をライセンシーさんと一緒に取りに行くお手伝い、部品のサプライチェーンをお持ちでない企業への部品メーカーのご紹介、さらに販路開拓や資金調達のアドバイスなどを、必要に応じて、出来る範囲で考えながら実行するようになってきました。やるべきことを把握しながら、少しずつ仕事の仕方を変えてきたという面はありますね。

大西(由) 大学側の課題になりますが、大学がもっとこうなったらTLOと一緒に走りやすい、という部分はありますか。

大西(晋) TLOは何にフォーカスしてやらなければいかんかというのは分かった。餅は餅屋ということで分業もできてきたので、今度は「結果」を出していかなければいかんと思うんです。大学の知財部門の人たちは、僕たち外部のTLOではケアできないような大学内部のことをよく知っていますよね。産業界と大学の間に立っている僕らと、大学の関係者はもっと情報共有を深め、イノベーションに結び付けていかないとと思っていますね。

水田 機能的な分業は円滑に回っていると思います。しかし行き過ぎた分業、例えば大学はここまで、TLOはこれしかしないなどとして協働せず垣根ができ、機能的な分業ではなくなる側面も課題として潜在します。大学内でも知財、共同研究、ベンチャーなど各部門間で生じ得ます。垣根にこだわり、越えないがためにいろいろとつまずく、というところがあると思います。

あと、お互い会社形態ですので自前で人材を確保し固定していかないと、今後10年、20年と続けられないと思います。残念ながら大学の産学連携に関わっている方々は任期付き雇用が多いので、ノウハウの蓄積には課題があると思います。大学にとっては、人材をどう確保するかが大きな課題になるのではないでしょうか。

大西(由) お二人が指摘された課題は、大学の中にいて、日々痛感している問題でもあります。特に、人材の入れ替わりというのは、今後、大学の産学連携を考えたときに一番の問題だと思います。簡単な解決策は今のところ何も見当たらない、非常に厳しい問題です。

技術移転への理解進む

大西(由) 大学からの技術移転に対して企業側はどう変化してきたかについてお聞きしたいと思います。大学の知財整備が始まったころは、とにかく出願するというような特許が多かったと思うのですが、最近になってようやく大学の中でスクリーニングが行われるようになったと思うんです。そういった特許が企業にちゃんとライセンス化されるようになったのでしょうか。

大西(晋) ライセンス化はされやすくなってきていると思います。日々営業活動をしている感覚的な話ですが、例えば7、8年前は、企業には大学の技術を買うこと自体に抵抗があって、「何でわざわざ買ってまで」とか「なぜ大学のそんな技術を実用化しなければいけないんだ」みたいな反応がありました。でも最近は随分と変わっていて、多くの業界で、まず大学の発明をきっちりと評価していただけるようになりました。大学のネタはかなりアーリーなのも誰もが分かっていて、でも、そのアーリーな技術を生むために自社では研究要員を抱えられないし、そもそもそんな研究所もない。だったら、アーリーな技術であってもきっちりと評価して、リスペクトして、それを社内に導入して、商品化の検討をしようという土台ができつつあると思いますね。

水田貴信氏

水田 同感ですね。やはりTLOという存在自体も認知されてきたのもあると思います。最初の10年ぐらいは、やはり大手企業が相手の技術移転が多かったと思いますが、おかげさまで大手企業の方々には、TLOについて分かっていただけていて、それが中小企業の方々にも徐々に広がってきていると思います。

大西(由) TLOの機能への理解は業種によって異なると思いますが、いかがですか。

大西(晋) 昔は「製薬会社さんは商売しやすかったな。そのほかの業界はしんどいですね」みたいな話をよくしました。しかし今は、昔商売しにくかった他の業界での動きが目立っています。

水田 創薬系の技術であれば、1知財1製品のような保護が可能なので、その技術が必要かどうか、投資していくかどうか企業側も判断しやすいという側面はあったと思います。今はオープンイノベーション志向も高まり、産業界は総じて、欲しい特許、技術はリスペクトして投資していくという雰囲気になっていると思います。今後は、そういう潮流に対して、大学がどう技術を出せるかが焦点になってくるかなとは思います。

日本企業の反応速まる

大西(由) 国内と海外企業の反応の違いはどうですか。

大西(晋) 最近はそんなに違いはなくなってきましたよ。前は圧倒的に海外企業が速かったんですけどね。要らんものは要らんと言うし、ほしいものはほしいと言うし、回答は非常にはっきりしていたんで、僕らも商売をやりやすかったんですけど、最近、日本の企業も、要らないものは要らないと言いますし、われわれも要るんですか、要らないんですかという話をちゃんとお話しできるようになってきている。それは、自社でやるよりライセンスを買った方が、圧倒的にスピードが勝ち取れるという文化に、日本もだんだんなじんできたのではないでしょうか。

水田 確かに今、国内でもTLOとか産学連携が認知されてきたので、やっぱりいろんな判断のスピードが速くなっていると思います。ただ、やはり海外企業は、それでもまだ速いと私は思いますね。メールで価格の応酬をしている間にもう商談が決まって、「じゃ、後はもう契約書案を送って」というような具合です。

このスピード感は、やっぱり海外のほうが圧倒しているかなと思いますね。

各大学の課題を知りソリューションへ

大西(由) 大学とTLOはどう連携していったらいいのでしょうか。特に地方大学は、いわゆる広域TLOと連携していく図が思い浮かぶのですが、そういったときに、TLO側から見て、大学の体制がどうであれば連携しやすいですか。

大西(晋) どこの大学も知財部ってできていますよね。先生方が発明を出したいと言ったら出願までの一連のプロセスに対応できる大学は多い。次に、どうするか。技術移転のプロであるわれわれが先生方に伝えなければいけないこと、フェース・ツー・フェースでやっておいた方がいいことはありますが、僕らが大学にへばりついているわけにはいかない。そういうときに知財部の方々と日々コミュニケーションを取りながら、サポートしていただくとか、そういう連携でうまくいくんじゃないかと思っています。

水田 どううまく連携したらいいかは、こうあるべきですと一律に決めない方がいいと思っています。地方の大学であれば、教育研究の使命に加え、地元、地域に根差した貢献が強く求められているところもあります。私たちは多くの大学と連携していますけど、それぞれにお話を聞いて課題を知り、TLOとしてはこういうソリューションを出せます、これで解決になるようであれば連携を組んで頑張らせてくださいという方法を取っています。連携を組んで何年か後に状況は変わるでしょうし、そのときに何ができるかを、お互いベストマッチングを前提にその都度協議していくのが大事だと思っています。

大西(由) 大学によって状況が違うので、それに合った連携の仕方が幾つもあるということですね。そのときに、研究者のそばにいる大学の知財部門のスタッフというのは重要だと思います。しかし、現実には地方大学の知財部門というのは人がどんどん削られて、1、2名のところもあったりします。TLOと大学が連携するに当たって、大学に必要な最低限の体制についてお伺いしたいのですが、大学が特許出願まで持っていける、そのラインは必ず確保してほしいと思われていますか。

大西(晋) それは絶対必要ですね。マーケティング以外を運用できる組織は必要だと思いますよ。そこのガバナンスが効いていなかったら、もう好き勝手な組織になりますので。特許に興味を持っている先生方に対応できるだけの人数は必要だと思います。求められる業務というのは、発明の届け、出願から管理までを出せる数ぐらいですね。

水田 TLOとの分業をどうやるかで人員配置を決めていくことも必要かと思います。例えば、「大学ではここしかできません、後はTLOでお願いします、託します」ということはありで、その結果大学の知財部に部員1人しかいない体制になっても決して悪いと私は思っていません。発明者にヒアリングをする創出の段階、中身を評価する段階、保護、管理する段階、出来上がったものを外に出す段階のどこからでも、「後はお願いします」「お引き受けします」ということでお互いが機能していれば、それはいい関係だと思います。

外注感覚は技術移転の退化

大西由香氏

大西(由) TLO側がやりますよという業務は、TLOごとにかなり差があるんでしょうか。

水田 私はあると思います。

大西(由) そうすると、大学側も自分たちができるのはどこまでで、どこからお願いするかということを明確にして、それをやってもらえるTLOを探す必要があるということですね。

大西(晋) そうですね。よく議論したほうがいいですよね。「簡単に外注ができるじゃないですか。これ、TLOに出します」、またTLOも「外注費をもらっているし……」みたいな話になったら、日本の技術移転は単なる受発注の関係になりますよね。人数とか機能とか、そういうのはもちろんそろえていただきたいんですけど、地方大学がTLOを使うときに、われわれは何を目指しているかを明確にされたほうがいいと思います。

僕たちも大学と新しい連携を始めようとか、連携の仕方を変えようというとき、お金をもらって外注だからと割り切るつもりは全くなくて、各大学でチームをつくるわけです。このチームのゴールは何だ、求めるところはどこだというのをきっちり協議させてもらった上で、では、僕たちTLOの仕事はこういうことですねと決めさせてもらっています。

水田 全く同感ですね。産学連携で成果を挙げるんだというゴールが共通であることが大事ですね。例えば、ヒト・モノ・カネの削減目的だけ、第3者的見解として手続き上必要なだけで外注したいのであれば、TLO以外でもできるところはあると思います。

逆に是が非でも知財化し、活用することにお金を投じていかなければならないなんてルールがある訳じゃないですし、外注して任せるまでして本当にすべきことなのかは、冷静に考えていただきたい。知財を活用してこうしたいんだという思い、ゴールが同じであればTLOを使ってくださいということでしょう。

大西(由) 地方大学が広域TLOと組むときに、自分たちのゴールはまず何なのかと。それを一緒に達成できるTLOはどこなのかというのをちゃんと考えないとうまくいかないということですよね。

大西(晋) そうですね。

大西(由) そのあたりの自覚が地方大学は少し欠けているような気がしています。大学もTLOもお互いに自分たちの役割を明確にし、TLOとのマッチングの段階できちんと話し合いをして、こことだったら一緒にやっていけるなというのが明確になれば、最大限のパフォーマンスを引き出すことにつながるのかなと思いますね。

世界で戦えることを証明したい

大西(由) 5年後、10年後、どういうことをやっていきたいですか。

大西(晋) TLOの業務活動としては、関西TLOは頑張っているねと、皆さんに言っていただけるぐらいまで、生き永らえたと思っているんです。ただ、成功しているとは全く思っていなくて、中長期的には、日本のTLOと日本の大学が組むと世界で十分戦えるというのを証明したいと思っているんです。生き永らえてはいるけど、成功していないので、このままずっと続いてしまうと、やっぱり日本の技術移転は東大TLOだけが成功しているみたいな話になるでしょう。いやいや、そんなことない、日本全体がそうなんだというのを示すという明確な目標はあります。

大西(由) 仰るとおり、ふたを開けてみたら東大TLOだけというのは、地方大学に身を置く立場としては、想像したくないことですね。そうじゃないよと示したい、すごく分かりやすい目標だと思います。

水田 10年、15年やってきた歴史、それはそれでお互い一つの成功事例だと思うんですよ。そして出願件数とかライセンス金額とかだけで産学連携を評価する時代は多分終わっていて、連携を組んで大学とTLOがうまくやっているんだったら、そういう評価軸に載ってこなくても、それはそれで成功のモデルと考えるべきです。

およそ15年ほど活動してきたのに、ここでずるずると産学連携の旗を降ろす大学やTLOを増やしてはならんと思っているので、次の発展ののろしを上げるのはうちであるように頑張りたいとは思っています。

自問自答していますが、「テクノロジー・トランスファー」という表現でイメージできる範囲の仕事でTLOが満足している時代は終わり、イノベーション創出のためにできる、すべき仕事も含めてやる、「イノベーション・トランスファー」と勝手に呼んでいますが、そういうフェーズに入ったのではないかと思います。まだトライアルなので、本当にうまくいくか分からないながらも、今はそれがTLOの出せるベストソリューションかなと思っています。

大西(由) お二方から技術移転の現状や今後の目標などについてお伺いしました。大学ではコンスタントに特許出願できるようになりましたが、ライセンス等の技術移転をどのように行うかは、各大学の戦略や置かれた状況により異なっています。今回のお話から、大学が技術移転機関と連携する際に必要となる体制や心構えのヒントを得ることができました。今後、大学、特に地方大学と技術移転機関との有機的な連携が至る所で形成されて、水田社長の仰った技術移転の次の段階、イノベーション・トランスファーを共に目指すことができればと思います。本日はどうもありがとうございました。

【関西ティー・エル・オー株式会社】
関西の広域TLOとしてスタートし、現在は連携大学のエリアを広げている。
設立:1998年10月(TLO承認:同年12月)
本社:京都市下京区
株主:学校法人立命館、京都大学、和歌山大学等
京都大学、九州大学、京都府立医科大学、和歌山大学、岡山大学の5大学と連携。
海外の提携大学の研究成果(知的財産)を日本国内の企業に紹介。

【株式会社東北テクノアーチ】
東北地域の大学等の知的財産の活用を目指す広域型TLO。
設立:1998年11月(TLO承認:同年12月)
本社:仙台市青葉区
株主:東北地区国立大学教員等
東北大学、弘前大学、岩手大学、秋田大学、福島大学、山形大学、東北学院大学、お茶の水女子大学、岩手医科大学、福島県立医科大学の10大学と連携。

【静岡大学 イノベーション社会連携推進機構】
設立:2012年4月
産学官連携と地域連携に係る活動を一元化し、研究成果の社会還元および地域課題の解決を目的とした社会連携活動を推進している。機構内に産学連携推進部門、地域連携生涯学習部門、知的財産管理室、社会連携相談室を設置。

*1
日本版バイ・ドール条項の詳細については、経済産業省の関連ウェブサイトを参照されたい。
http://www.meti.go.jp/policy/innovation_policy/powerpoint/houritsu/30jonihonbanbidole.htm