2015年6月号
特集 - シーズを発掘して実用化する
ヒトiPS細胞由来血小板の大量製造法
顔写真

三輪 玄二郎 Profile
(みわ・げんじろう)

株式会社メガカリオン
代表取締役社長


山中伸弥教授が発明したiPS細胞(人工多能性幹細胞)はさまざまな応用が期待されている。最も早く実用化されそうな応用の一つがiPS細胞を使用した血小板の大量製造である。

iPS細胞を使った血小板の大量製造

株式会社メガカリオン(以下「当社」)は、東京大学医科学研究所の中内啓光教授と京都大学iPS細胞研究所の江藤浩之教授らの開発したヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)由来の巨核球を不死化させる技術、ならびに不死化した巨核球を凍結保存する技術を基に、ヒトiPS細胞から誘導した巨核球が産生する血小板製剤の臨床応用を目指している。当社は、独立行政法人*1科学技術振興機構(JST)の研究成果最適支援プログラム(A-STEP)起業挑戦タイプの支援を受け、2011年9月に中内教授、江藤教授らを創業者として設立された。

当社技術の特徴は、血小板を産生する成熟巨核球の前駆細胞の不死化・凍結保存を実現したことにより、血小板の安定供給と大量培養を可能にしたことである(図1、2、3参照)。必要な時にいつでも、どこでも、短期間で血小板製剤を製造することができるこの技術は世界に類を見ない。

図1 iPS細胞から血小板へ

図2 成熟巨核球

図3 成熟巨核球から放出された血小板

産学官連携でiPS由来血小板製造技術の実用化に取り組む

中内教授と江藤教授は、ヒトiPS由来血小板製造技術をいち早く実用化させるため、2010年から2013年までA-STEP起業挑戦タイプ課題「ヒト血小板製剤の製造法開発」として臨床応用の準備研究を実施した。その結果、本格的な臨床開発に進む成果が得られた。

事業活動の本格化に際しては、山中伸弥教授発明のiPS細胞という日本発の革新技術の実用化を目指すプロジェクトであることから、株式会社産業革新機構に事業資金や人材、その他の支援を受けた。さらに、アベノミクスにおけるイノベーション成長戦略の柱であるiPS細胞を応用した再生医療の嚆矢(こうし)となるナショナル・プロジェクトとして、関係省庁も含むオールジャパンの支援を受けている。

また、江藤研究室と中内研究室の成果を円滑に事業に応用するために、両研究室と定期的に開発会議を実施し、情報共有に努めている。

血小板大量製造法の概要と血小板製剤の市場

血小板大量製造法の概要を図4に示す。iPS細胞から誘導した造血前駆細胞に複数の遺伝子を導入し、巨核球細胞へ分化誘導後、培養規模を順次拡大し巨核球細胞を増殖させる。その後、増殖した巨核球を成熟させ、血小板を放出させる。血小板を分離、濃縮し、血小板製剤とする。

患者への標準的投与では、1回分(約200ml)として2,000億個の血小板を必要とする。国内では年間約100万回投与分の需要があり、米国では日本の2倍の需要はあると見積もられている。

血小板製剤の市場規模を金額にすると、日本は700億円、米国は1,300億円、欧州は1,000億円となる。献血由来の血小板製剤は少子高齢化の進行により需給がひっ迫し、10~15年後には必要量の2割程度の献血が不足すると予想されている。当社の製造するiPS細胞由来の血小板製剤は、医療先進国における献血不足の補完を目指しているが、献血システムの整備が不十分な医療途上国への供給も視野に入れている。

図4 血小板大量製造法の概要

製品化への道筋と今後の展望

当社のiPS細胞由来血小板製剤は、iPS細胞による再生医療の課題である、がん化問題がないことが大きな特徴である。血小板は巨核球の産生物で細胞核を持たないため増殖する能力はない。従ってがん化することもないのである。この点はiPS細胞の医療利用に際して大きなメリットである。

当社で製造する血小板製剤は、2017年に、日本と米国で臨床試験を開始する計画である。現在の培養システムで投与1回分の血小板製剤の製造を実現している。臨床試験は被験者数が限定されるため、現在の培養システムで十分対応できると考えている。今後の課題は上市後の年間数十万回投与分の大量製造システムの開発である。これについては、2020年頃の製造販売承認を見据えて研究を進めている。

2015年3月の第13回国家戦略特別区域諮問会議において、世界の医療分野におけるわが国の国際競争力の強化に寄与する取り組みであり、かつ革新的な再生医療に関する研究開発で、その事業化の推進が国家戦略特区の目標に寄与するとして、当社は国家戦略特別区域法に基づく特定中核事業の適用第1号案件として内閣総理大臣より認定を受けた。今後は、国策による支援を活用し、わが国のみならず世界の医療分野に対する貢献とわが国の再生医療技術のさらなるプレゼンスの拡大に寄与することを当社は目指す。

*1
当時。2015年4月1日より国立研究開発法人。