2015年6月号
特集 - シーズを発掘して実用化する
超高速度ビデオカメラの開発
顔写真

冨永 秀樹 Profile
(とみなが・ひでき)

株式会社島津製作所 分析計測事業部
試験機ビジネスユニット マネージャ


1000万分の1秒というごく短時間に起こる現象を記録するには、新しいイメージセンサー(撮像素子)の開発が必要だった。島津製作所は東北大学とこの課題に挑み、世界最高速レベルの機器を開発し、製品化した。

従来の高速度ビデオカメラの限界と新型開発の経緯

先端材料や先端機器の高速動力学の研究、プラズマや放電などの超高速現象の研究では、画像による観測や解析が必須である。これらの分野の開発者や研究者向けに、株式会社島津製作所(以下「当社」)では、2003年から、撮影速度が100万コマ/秒を超える、超高速度ビデオカメラ(以下「高速度カメラ」)を供給している。

当社の高速度カメラでは、バーストイメージセンサーと呼ばれる特殊なイメージセンサー(撮像素子)を使用している。バーストイメージセンサーは、画素と直結した映像記録用メモリーを内蔵し、画素で発生した映像信号をメモリーへ完全パラレル転送することにより、超高速映像記録を実現している。

従来のバーストイメージセンサーは、画素とメモリーをCCD(電荷結合素子)で形成していたが、CCDは消費電力が大きい上、100万コマ/秒以上の高速化は困難なこと、画素とメモリーが隣接して配置されるためクロストーク(不必要な信号漏れ)による画質の劣化が発生しやすいなどの問題があった。

当社の高速度カメラも従来型はCCD型バーストイメージセンサーを搭載しているが、さらなる高速化という市場の要求を受け、1000万コマ/秒を超える新しい高速度カメラの開発を検討するにあたって、CCD型では実現困難であるとの結論へ至った。そこで、東北大学大学院工学研究科 須川成利教授の指導の下、世界で初めてCMOS(相補性金属酸化膜半導体)型バーストイメージセンサーを搭載した高速度カメラを開発することになった。CMOS型バーストイメージセンサーは消費電力が小さく、100万コマ/秒以上の高速化に対応できることに加えて、CCD型と比べて画素とメモリーの配置の自由度が格段に大きく、画素とメモリーを空間的に分離して配置できるため、クロストークによる画質劣化が少ないという利点がある。

東北大学における超高速CMOS型バーストイメージセンサーの小規模試作による原理実証を経て、大規模な開発資金・人員が必要となる製品規模のイメージセンサーの設計・試作・検証を、2009年から独立行政法人*1科学技術振興機構(JST)の研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)シーズ育成タイプの支援により実施することができた。2011年からは開発したイメージセンサー(「FTCMOSイメージセンサー」と呼んでいる、写真1)を搭載した高速度カメラの開発を開始し、2012年に製品を発売した(写真2。)

写真1 FTCMOSイメージセンサー

写真2 高速度ビデオカメラHyper Vision HPV-X

開発した高速度カメラの特長とその応用分野

こうして開発された高速度カメラは、単一の固体撮像素子を搭載したビデオカメラとしては世界最高クラスの1000万コマ/秒の撮影速度を実現した。記録コマ数は最大256コマ、画素数は最大10万画素である*2

表1 高速度カメラの主な仕様

100万コマ/秒を超える超高速映像記録・再生による観測や解析が必要とされる分野は、航空・宇宙機器や自動車の開発、医療分野の基礎研究、半導体・産業機器やコンシューマー機器の開発など、多岐にわたっている。例えば、宇宙機器は地球の衛星軌道上を高速周回する宇宙ごみと衝突する危険性があるし、航空機は鳥や雹(ひょう)との衝突、被雷により損傷する危険性がある。そこで、航空・宇宙機器やその外装材料の開発においては、飛翔体と高速衝突したときの機器や材料の耐衝撃性、被雷による損傷挙動などをあらかじめ調べておく必要がある。この目的のために高速度カメラが使用されている。また、空力設計のための超音速風洞実験や新しい推力発生装置の開発における衝撃波や爆轟(ばくごう)波などの高速波動現象の基礎研究にも高速度カメラが使用されている。図1は、高速な飛翔体が標的材料へ衝突した際の破壊挙動を調べるための高速衝突実験の画像である。ガスガンと呼ばれる高速の飛翔体を生成する装置から放出された樹脂球(ナイロン製)が、標的材料である透明積層材(ポリカーボネート製)と衝突して、積層材が破壊する過程を撮影している。衝突によって発生した応力波により積層材内部にクラックが発生し、成長していく様子が鮮明に捉えられて いる。

図1 透明積層材と樹脂球の高速衝突(撮影速度200万コマ/秒)

実用的な観測や解析に十分な記録コマ数と画素数を持つ、1000万コマ/秒の超高速映像記録・再生技術は、当社の高速度カメラの出現によってはじめて可能になった技術である。その応用分野は今後も広がり続け、科学技術や産業の発展に寄与していくものと期待している。

*1
当時。2015年4月1日より国立研究開発法人。

*2
当社の高速度カメラの撮影・記録モードは「記録コマ数優先モード」と「画素数優先モード」の二つがある。各モードの仕様は表1参照。