2015年6月号
特集 - シーズを発掘して実用化する
バイオ3Dプリンティング技術による
再生医療分野での新たな産業創出
顔写真

口石 幸治 Profile
(くちいし・こうじ)

株式会社サイフューズ
代表取締役社長


三次元(3D)プリンターが急速に普及し、今後は医療への応用が期待されている。細胞組織の三次元化(立体化)が臓器再生の実現には必須で、それに適した技術だからである。

再生医療に3Dプリンティング技術を活かす

株式会社サイフューズ(以下「当社」)は、独自のバイオ3Dプリンティング技術で再生医療の実用化を目指すベンチャー企業である。2010年に創業、2015年6月時点の社員数は20名、事業モデルは、

(1)バイオ3Dプリンター事業

(2)三次元細胞製品のライセンス事業

(3)三次元細胞製品の受託製造事業

である。既に実現できたビジネスは(1)であり、(2)と(3)は現在、開発段階である。これまでにベンチャーキャピタルおよび事業会社から約20億円の資金調達を行った。

細胞を積層して立体組織にする基本技術の開発

写真1 積層直後の細胞塊

細胞を積層して立体組織を作製する基本技術は、佐賀大学医学部臓器再生医工学講座の中山功一教授(現在)らが九州大学整形外科在籍中に発明した。再生医療研究では90年代からコラーゲンなどのバイオマテリアルと細胞を混ぜて立体組織を作製する研究が広がった。中山教授らは細胞塊同士が融合して一体化する現象に着目し、隣接した細胞塊の配置を串状の足場で一時的に保持することによって大型の細胞構造体が作製できることを確認した(写真1、2)。この技術は九州大学からPCT出願*1され、各国での特許登録が進んでいる。

写真2 チューブ状細胞構造体
(佐賀大学中山研究室提供)

その後、中山教授らは細胞塊を拾い上げて剣山上に移動させるロボットの試作機を独立行政法人*2科学技術振興機構(JST)の支援*3を得て作製し、自動化にめどを立てた。

起業へ

筆者は、2009年はじめに、中山教授から起業家探しの相談を受けた。当時、筆者は大手電機メーカーでの技術職などを経て、外資系コンサルティング会社に勤務していた。中山教授とは中高の同級生という縁で、ライフサイエンス系のビジネス人材を探す手伝いを始めたが、リーマン・ショック後で、自ら起業家を引き受ける人物はなかなか見つからなか った。

一方、筆者は以前より「日本発の技術で世界で勝負する」というキャリアビジョンを持っていた。再生医療は門外漢であったが、人材探しの中で、その社会的意義の大きさと新しい産業としての可能性への理解を深め、事業プランのイメージが固まるにつれて、自分で実行したいという思いを強くしていった。投資家のめどが立っていない中での起業は無謀にも思えたが、最終的にはやるリスクよりやらないリスクのほうが大きいと考え、起業を決断した。

その後、JSTの研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)の起業挑戦タイプに応募した。研究開発や事業開発などに年間最大5千万円が助成されるという内容で、面接までは進んだものの、実証データが不足しているということで不採択となった。しかし、単年度上限1千万円のフィージビリティースタディーには採択されることになり、九州大学において骨・軟骨再生用幹細胞構造体の製法の改良と動物実験による有効性の確認が進められた。

一方、バイオ3Dプリンターはなかなかグラント(研究補助金)が獲得できず、個人投資家から集めた数千万円の資金を使って澁谷工業株式会社に開発を委託した。澁谷工業は業務用ボトリングシステムのトップ企業であり、当時、再生医療への進出を狙って社内プロジェクトを立ち上げていた。われわれとは2009年から経済産業省、独立行政法人*4産業技術総合研究所の紹介で交流が始まり、翌年の当社創業後にシステムの共同開発契約を締結して以来、連携を進めている。

期待される細胞組織の立体化技術の応用分野

細胞組織の立体化技術の応用は目的によって三つのカテゴリーに分類できる。

第1のカテゴリーは、従来の注射による細胞移植の課題であった生着率を大きく高める「三次元細胞デリバリー技術」である。応用例は軟骨再生、脊髄再生、心筋再生などが挙げられる。この場合は生体内で細胞構造体の成熟が進んで目的の組織が形成されることを期待している。

第2のカテゴリーは、さまざまな細胞を材料とした「生体デバイス」を加工する技術である。応用例は血管、泌尿器、肝臓、気管などが挙げられる。この場合は移植後、速やかに目的の機能を発揮することが求められるので、移植前の組織成熟工程が重要である。

第3のカテゴリーは立体ヒト組織で創薬における候補物質の毒性などを評価する創薬支援技術である。疾患特異的iPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いることで難治性疾患の病態モデルを作製することも可能と考える。応用研究は臓器および疾患に対する専門知識が必要で、産学連携とともに異分野連携が鍵となる。

市場規模は2030年に1兆円と予測される国内再生医療市場において、細胞組織の立体化技術が必要な市場は約3600億円程度と試算されている。また海外の市場規模は国内の約10倍と推定されている**1

融合領域の研究を促進するための異分野連携

バイオ3Dプリンティング技術はバイオロジー(生物学)とエンジニアリング(工学)の融合領域である。応用研究を加速させるためには、バイオ研究者のニーズをエンジニアが的確に吸い上げて装置の改良にフィードバックするサイクルを機能させる必要がある。このために当社ではバイオ研究者に加えてエンジニアの採用も進め、日常的に社内で連携できる体制を取った。今では社外ユーザーのサポートにも社内エンジニアで対応できる体制を整えている。

今後の展開

現在、当社のバイオ3Dプリンター(写真3)は、国内の大学で7台が稼働している。今後は海外でも装置販売を行い、技術普及と応用技術の育成を推進する。将来的には組織製品の臨床開発、薬事承認取得および販売は大手企業に分担してもらい、当社は臨床用のバイオ3Dプリンティングシステムを備えた製造拠点を構えて製造・品質管理を担うことにより、新たな産業の創出に貢献していきたいと考えている。

写真3 バイオ3Dプリンターの外観

●参考文献

**1
再生医療の実用化・産業化に関する研究会.再生医療の実用化・産業化に関する報告書.経済産業省.2013,46p.

*1
特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願。

*2
当時。2015年4月1日より国立研究開発法人。

*3
重点地域研究開発推進プログラム(育成研究):JSTイノベーションプラザ福岡 平成18年度採択課題「バイオラピッドプロトタイピングシステムの開発」

*4
当時。2015年4月1日より国立研究開発法人。