2015年8月号
特集 - 独自技術を活かす
空気圧アクチュエーターを用いた高機能義手
―産学連携で柔軟な義手の開発を目指す―
顔写真

市川 裕則 Profile
(いちかわ・やすのり)

スキューズ株式会社 
常務取締役


人の手のように動く義手の作製には、小型・軽量、柔軟性、幅広い作業への対応など、さまざまな技術課題を克服しなければならないが、そこから得られる成果は義手にとどまらず、各種の製造過程に応用できる普遍的なものになる。

システムインテグレーターでありロボットメーカー

スキューズ株式会社(以下「当社」)は創業18年目(法人設立14年目)を迎えた。設立当初は生産自動化関連の制御ソフトウエアの設計・開発を行うファクトリーオートメーション(FA)を業務としてスタートした。現在は、人手作業の代替を目的とした生産ライン・自動化装置を一括して請け負うシステムインテグレーターとしてのソリューション事業と、ロボットハンド、ロボットアーム、アクチュエーター、コンプレッサーなどオリジナルロボット(写真1、2)の開発、製造・販売事業を主とするエンジニアリング会社となっている。

 

写真1 スコットラッセルリンク型5軸サーボロボット

写真2 RHP(ロボット・ハンド・ピッカー)シリーズ多連操システム

知的クラスター創成事業を契機として

高機能義手開発のきっかけとなったのが、文部科学省の「関西文化学術都市地域 知的クラスター創成事業(以下「創成事業」)」である。学術・研究機関が高度に集積する京都府、大阪府、奈良県で、産学連携による地域活性化と産業構造の変革を目的とした事業で、まさにこの地域ならではの産学連携プロジェクトであったといえる。 この創生事業のテーマの一つである「QOL*1向上を目指した健康・福祉工学技術の開発」プロジェクトの一環として、大阪電気通信大学医療福祉学部理学療法学科の吉田正樹教授をプロジェクトリーダーに、同志社大学理工学部機械システム工学科の辻内伸好教授などと当社とで高機能義手開発の共同研究を行うこととなった**1

よりリアルな人の手を目指して

人間の生活の支援などで要求される作業は複雑であり、生活様式によっても変化する。そのため、ロボットを人間と共存させる、あるいは人間の分身として行動させるためには、幅広い種類の作業に対応できるだけでなく、作業の変更に柔軟に対応し、人間と同様の柔らかな動きをするロボットハンドを開発する必要がある。さらに、実際にロボットに搭載させる際には、大きさや重量の問題も出てくる。これらを考慮して開発したのが、人との接触を前提として安全性と柔軟性を兼ね備えた、人間の指と同程度の可動範囲を持つロボットハンドである。安全性と柔軟性のために、ロボットハンドの駆動源には空気圧アクチュエーターを用いている**2

福祉分野にとどまらない、ロボット基本要素技術の確立

ロボットハンドに使われている空気圧アクチュエーター、3軸力覚センサー、各種の制御技術といった要素技術をベースに開発したのが世界初の筋電義手である(写真3、4)。この筋電義手は母指内転機能を付与した5指ハンドで、安全・安心なだけでなく、比較的安価で実現できる。また採用した技術は、ロボット基本要素技術として、車両、工場内搬送ユニットなど、多分野での用途展開が可能となるものである。

 

写真3 ペットボトル把持

写真4 トマト把持

共同研究での注力点

当社では、従来、低圧駆動型空気圧アクチュエーター(写真5)の開発を行っていたが、創成事業では軽量かつ柔軟性に富む高機能筋電義手開発のために、さまざまな共同開発を行った。駆動源となる空気圧アクチュエーターの改良や、樹脂による骨格相当部品の作製、外観を人の手に近づかせるためのシリコンゴムによる外装の作製などである。この共同研究は特許取得にもつながった。

写真5 低圧駆動型空気圧アクチュエーター

筋電義手のこれから

近年、筋電義手に求められる機能は、障害のある方々の自立、社会参加などによるQOLの向上のため、「足りない機能を補う」ことから「機能の回復」に変わりつつある。そのため、小型化、軽量化、使いやすさなど、日常生活に負担やストレスをかけることが少ない用具の開発がいっそう必要となっている**3

一方で、FA化が進んだ製造現場においても、依然として多くの作業が人手に担われている上、特にわが国においては、少子・高齢化の影響による労働力不足を補うことが急務となっている。介護・福祉分野において筋電義手が果たす役割・貢献は、国内外を問わず飛躍的に拡大することは確かだが、高機能義手開発によって高度化された要素技術は、福祉分野にとどまらず、次世代の産業用ロボットへと応用されつつある。

●参考文献

**1
知的クラスター創成事業自己評価報告書2007年3月末版【公開版】,P51.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2015/04/17/1253330_022.pdf

**2
白井茂樹.空気圧駆動ロボットハンドのためのアクチュエータ制御アルゴリズムの開発(2007/2). 同志社大学大学院工学研究科 機械工学専攻博士課程2005年度,374 番.

**3
連携イノベーション促進プログラム助成事業(東京都),分野:医療・福祉分野,テーマ②:介護・福祉機器に関する技術・製品の開発.2014. http://www.metro.tokyo.jp/INET/BOSHU/2014/08/DATA/22o8l506.pdf,(accessed2015-07-10).

*1
Quality of Life(生活の質)