2015年8月号
特集 - 独自技術を活かす
足袋型シューズの産学連携での開発と海外への飛躍
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藤原 貴典 Profile
(ふじわら・たかのり)

岡山大学 研究推進産学官連携機構 副機構長
産学官融合センター長、教授


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岡本 伸司 Profile
(おかもと・しんじ)

岡本製甲株式会社
代表取締役社長


「高校野球部員のウォーミングアップに地下足袋を履かせている」の一言がきっかけで産学連携で開発された足袋型シューズは、国内のみならず、海外までその販路を広げつつある。

足袋型シューズ開発のきっかけと産学連携での研究

「試作品を持ってきたので、ぜひ履いて下さい」。親指が他の4指と分かれた足袋型の新型スポーツシューズ開発を検討するために開かれた、2006年9月の第1回打ち合わせでのことだった。相談元の岡本製甲株式会社は「百聞は一見に如かず」とばかり先行試作品を持参し、分かりやすいアプローチで大学教員に接近した。新型スポーツシューズの開発は、社長の長男である岡本陽一営業部長が野球部監督から聞いた「高校野球部員のウォーミングアップに地下足袋を履かせている」の一言がきっかけだった。その後、岡本氏は「足袋型シューズを自社ブランド品として生み出したい」と考えるようになった。

構想具体化には、足袋型シューズの機能性評価が必須であるが、岡本製甲は靴製造専業のため、そのような設備は持ち合わせていない。岡本氏が日頃から訪問する中国銀行営業担当者にこのことを相談すると、2005年に中国銀行が岡山大学と包括連携協定を締結して組織的な連携対応の仕組みが整備されていることを教えられ、本店営業部を通じて産学官融合センターに相談がもたらされた。当初、該当する教員が見いだせないのではないかと危惧したが、関係者の会議で、学内に設立されたばかりのスポーツ教育センターの存在が明らかになった。

ここには、スポーツ生理学、運動機能学と整形外科の3者によるチームが編成されており、共同研究にも対応するとの情報を得たので、早速同副センター長鈴木久雄教授に相談を持ちかけた。すると、折よく導入された3軸動力計で歩行中の足裏にかかる抵抗を測定できること、また、この装置で足袋型シューズ着用時の歩き方、力の発生具合、動作の俊敏性を評価できるとの回答を得た。そこで、冒頭の打ち合わせが、岡本製甲の岡本社長他3名、スポーツ教育センターの鈴木教授と加賀勝教授、金融機関担当者2名およびコーディネート担当の筆者の同席で企画された。

程なく共同研究契約が締結され、2005年10月から共同研究が開始された。そして、足袋型シューズ、市販スポーツシューズ、素足の三通りで歩行様態がどう異なるかが、学生に手伝ってもらって比較検討された。その結果、足袋型シューズは、歩行様態が素足に近く、靴着用による動作俊敏性の低下が少ないことが判明した。開発は、大学での評価と岡本製甲での試作の繰り返しにより進められたが、その駆動力になったのは社長の熱意であった。開発初期には毎月1回社長が大学を訪問して打ち合わせを継続していた。

第1号の商品は高校野球部員練習用「バルタンX」(写真1)で、これを嚆矢(こうし)に、ウォーキングシューズ、スパイク付きゴルフシューズ、ランニングシューズとバリエーションが展開された。1950年創業で従業員30名の規模でスポーツシューズのOEM*1製造が主体であった同社にとって念願の自社ブランド品を獲得した。商品PRのため、一時は女子マラソン・オリンピックランナーである土佐礼子氏をイメージキャラクターに採用していたこともある。さらに販路は海外にも開拓され、現在は寸法30cmまでの製品が輸出されるようになっている。

写真1 バルタンX

外反母趾用の靴としての拡販

第二の転機は、外反母趾用の靴としての展開である。大学との開発途上で整形外科医である千田益生教授(岡山大学病院総合リハビリテーション部長)から「外反母趾の矯正に有効ではないか」との指摘があったのがきっかけだった。外反母趾などのスペシャリストである倉敷第一病院整形外科の大澤誠也医師の指導も受け、外反母趾用の靴として県内各地で試着会を開催し、歩きやすさを実感した来訪者から多数の固定客を獲得している。

海外企業との提携

そして第三の転機は、意外なところから訪れた。山の斜面のアップダウンを駆け抜けるトレイルランニング(トレラン)という競技がある。そのトレラン用品を販売するフランスのレードライト社との提携である。レードライド社代表取締役社長のベヌワ・ラヴァル氏が2012年冬に来日したとき、偶然、足袋型シューズを試着し、地面のグリップ力の高さを実感したことから、トレラン専用シューズの共同開発が始まり、2015年1月から新製品を製造開始した。初年度の生産計画は3,000足の予定であるが、来年度以降はレードライド社の製品全量の生産を引き受けるビジネスパートナーとなることが決まった。この分野だけで年産1万足の生産計画となる。この新商品の名称は「トレイル・デュアル・フィンガー」(写真2)。3月から日本を含む世界18カ国で発売が開始されている。

地元岡山から、世界に羽ばたく企業へと成長することが期待されている。

写真2 トレイル・デュアル・フィンガー

*1
Original Equipment Manufacturer。他社ブランドの製品を製造する企業。他社ブランド製品の製造を指すこともある。